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「追想」

「追想-愛と復讐と男の戦い-(The old gun /Le vieux fusil)」(1975・仏・西独合作、ロベール・アンリコ監督)。

美しい妻と娘をナチに虐殺された中年男の復讐劇…といっても、男が戦士となってカッコよくナチを倒していくハードボイルドアクションじゃなくて、腹の出た太った中年男が息を切らせてゼーゼーいいながら、なんとか復讐を成し遂げるという、より現実に近い(?)もの。

舞台は大戦末期のナチ占領下のフランス。戦争負傷者を診る医者のジュリアンは戦禍が激しくなってきたことで、妻と娘を田舎の村にある別荘の古城に疎開させる。彼は遅れて数日後、古城に行くと、ナチの残党に村人は虐殺され、妻と娘も惨殺されていた…。嘆き悲しみ怒りに燃えたジュリアンは、古城に残る親衛隊らナチ兵にたった独りで復讐を開始する。

普段、若い看護師らに下品なギャグを飛ばすセクハラをしてるような腹の出た中年男が、再婚で得た美しい妻(ちょっと浮気性)は火炎放射器で丸焼きにされて(このシーンは衝撃!)、前の妻との間にできたちょっとブスな娘(異常に可愛がってる)は無残に撃たれて殺されているのを目撃する。

古城では蛮行をした親衛隊の上官と兵士らが酒盛りをやって騒いでる。

ジュリアンは、声を出さないようにハンカチを口に入れて嘆き悲しむが、復讐を決意した丸メガネの奥の彼の眼はもうイっちゃっててサイコパスのようだ。

幸い、古城は入り組んだ地下通路や隠し部屋があり、隠してた散弾銃もあったので、独りでも知恵を使って、ナチの残党を一人一人血祭りに上げていく。

銃と懐中電灯を手に狭い階段を上下に動き回るのだが、腹の出た中年男なので、ヒーヒー息が切れて死に体の様で全然スマートではない。それでも復讐に燃える中年男を止めることはできない。

まず、古城にかかる橋の橋梁を緩めといてナチ兵が乗った車を落として残党を城に孤立させる。井戸の下から銃を撃って水を汲みに来たナチ兵を殺す。汗をかき過ぎてたまらずに眼鏡を外して蛇口から水を出して頭からかけてるところにナチ兵が後ろからやって来るが、強引にナチ兵の頭を掴んで壁にぶち当て血だらけにして殺してしまう。罠を仕掛けてナチ兵を地下水路に落として上から網を被せて溺死させる。ナチ兵が古城からロープを垂らして降りているところを狙い撃ちにする…。

最後は、一人残った親衛隊の上官がマジックミラーの前で銃をこめかみに当てて自決しようとしてるところを、鏡の反対側からナチ兵が残した火炎放射器を使って上官を焼き殺す。上官が鏡を見てると、グニャ〜って鏡に写った自分の姿が歪んで、鏡が割れていきなりバア〜と炎が出てくる演出は面白い。

これらの復讐劇の合間に美しい妻と思い出がフラッシュバックで挿入されるのだ。

復讐を終えたジュリアンが、微笑みながら親友の医師に「さあ、帰ろう。妻がご馳走を作ってくれるよ」と話して、親友は言葉を失う。ジュリアンは妻と娘を殺されたことに始まり、復讐するまで正気を失ってたのか…。

このナチによるフランスの田舎の村人全員虐殺は事実である。だから映画はフランスでは大ヒットしたらしい。

ジュリアンの、カッコ良くないけど、ねちっこいストーカーの様な復讐劇は、より戦争時における人間の狂気をリアルに描いてる様で衝撃だ。傑作だと思うね。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。