【邦画】「衝動殺人 息子よ」

木下恵介監督の、1979(昭和54)年の作品「衝動殺人 息子よ」。カラー作品。

主演は、若山富三郎とデコちゃん(高峰秀子)だが、デコちゃんは、この映画を最後に女優を引退した。

映画というよりTVドラマみたいで、通り魔殺人で息子を殺された両親が、全国を歩いて、同様の境遇に遭った被害者家族に会い、遺族を保護する法律を作るよう国に働きかける運動を進める姿を描く。

この映画が世論を動かして、「犯罪被害者給付金制度」の成立に貢献したという。

木下監督の、被害者家族という弱い立場から理不尽な暴力に対する正当な闘いを描くという、真面目な社会派的な側面が現れた作品だと思うが、虐げられる女とダメな男を、愛のある優しい視点で描く作品の方が、俺は好みだなぁ。

なによりも、若山富三郎とデコちゃんの、年季の入った円熟したベテランの演技がマジで素晴らしい。息子を殺されて、嘆き悲しむ熟年夫婦を見事に演じている。若山は下町の町工場の頑固な社長の雰囲気がピッタリだし、デコちゃんは泣くのが上手い。

他にも、吉永小百合、大竹しのぶ、中村珠緒、藤田まこと、加藤剛、田中健他、昭和の名優がいっぱい出てる。あ、殺人犯役で大地康雄が出てた。

犯罪被害者への補償が充分に成されない日本の法律の現状に憤る夫婦。犯人はヤクザ者の未成年であるために、刑も軽くて保護されているのに。

息子の最期の言葉、「仇をとってくれ」を胸に、自分でも法律を学び、同じ犯罪被害者家族を訪ねて署名を集めるのだ。中には、「もう、そっとしといてくれ」と批判的な対応をする被害者家族もいる。

町工場を売って得た資金をもとに全国を行脚し、何年もかけてたくさんの被害者遺族に会うというエネルギーは、息子を理不尽にも失った怨念というか、まさに、“虚仮の一念岩をも通す”である。確か実話を元にしてたと思う。

父親は法律の改正を見ることなく、心筋梗塞で倒れて66歳の生涯を閉じることになるが。

日本の場合、歪な民主主義が浸透したせいか、法律においても不備が多いと思われる。ある意味、加害者は手厚く保護されるが、被害者は何の保証もないどころか、メディアの執拗な攻撃に遭うことも少なくない。

例えば、死刑においても、国家が秘密裏に執行するだけで、被害者側の得になることはない。刑を存続するのであれば、被害者側も執行に立ち会えるとか、執行のボタンを押せるとか、もしくは加害者側の財産を全て受け取れるとか、被害者側の視点に立った刑が望まれると思うがね。俺は、死刑廃止論を支持するけど。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。