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いつも温かく真摯に ザ・ペニンシュラ東京 開業16周年

夜の帳が下りる頃、皇居外苑から銀座方面へ車を走らせると、ビル群の中でひときわ異彩を放つ1棟が目に留まる。
低層部は石造りで重厚な雰囲気が漂う一方、高層部はガラス張りの先進的な雰囲気が巧みに織り込まれ、一見相反する2つの意匠が美しい調和を見せている。建物を照らすゴールデンイエローの光は、華やかさとともに格式の高さを感じさせ、名建築が並ぶ日比谷・有楽町の中でも卓越した美しさだ。

ザ・ペニンシュラ東京

香港&上海ホテルズが2007年に開業したラグジュアリーホテルであり、
今日に至るまでの16年間で、同館が公式WEBサイトに掲げる「日本を代表するホテル」を体現するほどの名声を得た。

多くの人が憧れを抱く名門処であることはもはやいうまでもない。またポール・マッカートニーが来日公演を行う際の定宿としても有名であり、最近ではSexy Zoneの中島健人くんが出演映画のプロモーションの際に同館を訪れたことでファンから多くの注目を集めたことが記憶に新しい。
こうした著名人たちからの愛されぶりを目にすると、ニューヨークの名門「カーライルホテル」に重なって見えることが度々ある。

同館の魅力を挙げると枚挙にいとまがない。都心でも指折りの一等地に軒を構えるロケーション、ラグジュアリーホテルでは珍しい一棟建ての設え、空腹だけでなく心まで満たされるダイニングの数々、同クラスのホテルの中でも随一の質感を誇るゲストルーム、ロールスロイス・ファントムをはじめとする充実したハイヤーのラインナップなど、それぞれについて筆を執ると、1本の記事どころか塩野七生氏に追随するシリーズとなってしまうほどだ。
そのためここでは一つだけ、なぜ僕が同館に魅せられているかについてお話ししよう。

温かさと真摯さ

数多くのラグジュアリーホテルがある中で、なぜザ・ペニンシュラ東京へ魅せられるのだろうか?
それは、同館のサービスには常に温かさと真摯さがあるからだ。
幸運にも僕は16年前(2007年)の9月1日、薄雲の空模様のもとで歴史が始まった時から今日に至るまで、数多くの来館の機会に恵まれてきた。宿泊は15年前の1度のみに留まるが、たとえルームキーを持たない来館の時であっても、ハイヤーでの乗り付けではなく徒歩来館の時であっても、いつも朗らかで温かくお迎えを頂けた。

まったくの一見客であっても長年懇意の得意客のように迎えられ、思い出に残る特別な一時を過ごすことができたら、愛着が沸かない方が難しい。写真や動画に残らないため、見聞きすることこそ稀ではあるが、ここにペニンシュラの魅力と真髄があると僕は信じている。

これは単なる偶然の産物ではない。初代総支配人のマルコム・トンプソン氏が開業当初から「すべての人に愛されるホテルにしたい」「ロビーを通るだけだって大歓迎だ」「我々は富裕層だけを相手にするホテルではない」と万人を歓迎する方針を打ち出し、今日に至るまでこれが連綿と受け継がれてきたことによる賜物だ。

二つほど実体験をお話ししよう。病が祟って2年ほどご無沙汰となった2020年、久しぶりに美味しい昼食を楽しめたらと足を運んだ際、正面玄関にてまるで先週ぶりの来館のように素敵な歓待を頂いた。これが有名人の来館であったり珍しい車での到着なら頷けるが、いずれにも当てはまらない(そもそもこの日の来館自体予約や事前の問い合わせもしていなかった)一来館客を記憶に留めて頂けたことに、大きな驚きと感動を覚えたものだ。

後から知ったことだが、この時僕の来館にお気付き頂けたKさんは、東日本大震災をきっかけに同館が創設した奨学金基金の第一号生に選ばれた方だった。ニュースで目にした2014年当時にも素敵な試みとして印象に残っていたが、こうして思い出に残るサービスとして結実していることを思うと……つくづく感慨深いものがある。

最近定番となりつつある24階のPeter BARでも同じような驚きがあった。以前同館2階のヘイフンテラスでお目にかかった方がマネージャーに就任されており、およそ7年ぶりの再会が嘘のように往時のことで話が弾み、楽しく幸の多い一席を楽しむことが叶った。
またこの時の一席をきっかけにバーテンダーの皆様、同館ビバレッジマネージャーの鎌田真理さんとのご縁が深まり、今日Peter BARでの一席は良い仕事をするための原動力や、楽しかった1日のエンドロールとして欠かすことのできないものとなっている。

お店の雰囲気はスタイリッシュで背筋が伸びる一方、サービスの温かさと朗らかさによって格別な居心地の良さがある。これは同じく特別な思い入れがあるザ・リッツ・カールトン東京のLobby Barでも感じる魅力だが、究極の上質ではないだろうか。
ラグジュアリーホテルと聞くと「冷たい対応」や「緊張でドギマギする」といった印象を持つ方が一定数いらっしゃる(悲しいことに、これらを体現してしまったホテルもある)。しかし本物の名門処はこうした印象論とは真反対なものだ。今回筆を執るにあたりペニンシュラで過ごした日々を様々回想したが……改めてこの持論を再確認した。

プロフェッショナルを体現するサービスが提供される限り、同館の盛況と繁栄は続くものと信じて疑わない。開業当初は知る人ぞ知る名門であったペニンシュラの名が、今日多くの人に愛される日本最高峰のホテルの代名詞となっていることが、何よりの証だ。

さて、次はいつ同館を訪れようか。

P.S.
余談を一つ。ここまで宿泊に至るまでが大変なホテルは中々ない。
お金を貯め始めるとブティックのマンゴープリンとチョコレートに消え、Peter BARでのお酒に消え、1泊分まであと少しになると……ヘイフンテラスあるいはPeterでのディナーに消える。素晴らしい滞在となることは間違いないだが、他方で館内の誘惑があまりにも多い。
ブティック&カフェのカフェが営業再開を迎えたら、ますます宿泊貯金が難しくなりそうだ。

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