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音楽遍歴と「偶然」の価値

80年代半ば。
まだインターネットのなかった時代。
音楽の情報源は、友人か雑誌かラジオでした。

YouTubeみたいにオススメが上がってくるわけでもないし、鼻歌歌えばなんて曲かAIが教えてくれるわけでもない。いい音楽に出会うには、偶然を待つしかなかった。

Hey Pocky A-way 


鮎川誠が亡くなった直後、地元のバンド「めんたんぴん」の動画を、友人が見つけてくれました。

(地方のかっこいいバンドみたいな括りでおすすに出てきたらしい)

地元では誰でも知っていた珈琲屋さん(「コーヒーはうす 桐」。今はもうない)のことが歌われてるっていうので、改めて聴いてみたら、めちゃくちゃよく知っている曲のカヴァーっぽい。
(ミーターズのHey Pocky A-way)

ただ、雰囲気がかなり違う。

歌詞の途中に「グレイトフル・デッドうんぬん」とあったので、あぁ、デッドの方のカバーかと納得。(曲名が微妙に違う→Hey Pocky Way)

そんなこんなでミーターズ版のHey Pocky A-way を改めて聴きたくなって、レコードを入手しました↓

https://tower.jp/item/3346143/Rejuvenation

廃盤になっていたのが最近再販されたみたいで、リマスターまでされていて、超満足。ジョージ・ポーターJr.のベースがさらに前に出てて、心地よい。

ミーターズを聴いているうちに、音楽にハマったきっかけやら、学生時代にミーターズに出会った時のことやら、色々思い出しました。

音楽を愛するきっかけは、情報飢餓だった

もう30-40年前の個人的な話ですが、つらつらと書いてみようと思います。

まだインターネットのなかった時代で、「舶来物」という言葉が辛うじて生きていた時代。

同世代の方は懐かしいと思われるかもしれません。お若い方には、昭和の昔話(笑)

暇つぶしにどうぞ。

Stand by Me

高校1年生の頃。
ホンダ アコードのテレビCMでベン・E・キングのStand by Me が流れていたんです。

友人Kと、いい曲だね〜と言い合っていたのですが、一体誰のなんていう曲かが分からない。

周りに知っている人はいそうになかったので、選択肢としては、ラジオを聴いて聴きまくることぐらい。「偶然」かかるのをひたすら待つしか手がなかった。

当時の石川県といったら、FMはNHKの一択。
「FMステーション」を買って、手当たり次第にFMの音楽番組を聴いてはテープに録音する日々が始まりました。

でも、今思えばそれがよかったんです。

ロックとかジャズとかが一体なんなのか、右も左もわからない田舎の小娘は、聴いたこともない胸踊る音楽たちにのめり込んでいきました。

初めて自分で買ったレコードは、ビーチボーイズのSunsine Days 。高校の近くの商店街のレコードショップで買ったのを覚えています。

毎朝、制服に着替える時にはビートルズのSergent Pepper's Lonely Hearts Club Bandを流していました。

部屋の空気が音楽で一瞬にして別世界に変わるのが面白くて。

北陸の曇天が、一気にカリフォルニアの青い空に変わったり、ヨーロッパの重厚な石畳の匂いに変わったりするのがたまりませんでした。


* * *

高校3年になり、アコードのCMのことも半ば忘れかけていたころ。

ラジオから思いがけず、あの曲(Stand by Me)が聴こえてきたんです。確かピーター・バラカンがソウルやブルースを一挙に紹介するといった趣旨の特集番組でした。

何と言っても2年越しですから、聴こえてきた時の感激ったらなかったです。

翌朝、理系のクラスにいるKのところまでダッシュして知らせに行きました。(私は文系でした) でも、Kは「何言ってんの?」という顔で、コーフンしている私を物珍しそうに見つめていました。

2年も経っているのですから、覚えている方がおかしいですよね(笑)
この時は覚えていないKのことを「信じられん!」と思ったものですが、「信じられん」のは私の方だったと、今ならよく理解できます(笑)

信頼のおけるパーソナリティ


高校3年くらいになると、近所の書店に置いてあったMusic MagazineとかRockin’ on なんかを立ち読みし始めます。

色々な音楽評論家が、言葉を尽くして音楽を説明して褒め称えたり貶したりしていたけれど、そもそも言葉も人の名前も分からないから、何をいってるのかさっぱりわからない(笑)

それでも根気よく眺めているうちに、多少は何が言いたいのか分かってきた。でも結局のところ、信じられるのは自分の耳であり、感覚だけってことが分かりました。

「やっぱりラジオだ!」と。

毎日のように聴いていると、好みが似てると感じたり、「この人の紹介する曲、全部いい!」と感じるパーソナリティが出てくるものです。

中でもピーター・バラカンは、圧倒的に信頼のおけるパーソナリティでした。

スペシャルズやライ・クーダー、ドニー・ハサウェイ、ピーター・ゲイブリエル、ダニエル・ラノワ、ヴァン・モリソン、ボビー・チャールズ、トム・ウェイツ、チーフタンズ、ポーグス、トット・テイラー、アラン・トゥーサン、ネヴィ・ブラザーズ、Dr.ジョン…etc.

あらゆるジャンルの色んな音楽が流れました。全てが新鮮で、カッコよかった。

スペシャルAKAの曲と共にネルソン・マンデラを知ったのも、ジャコ・パストリアスが亡くなったことを知ったのも、ピーター・バラカンの番組でした(多分「ミュージック・シティ」だったような)。


ニューオリンズ・ファンク

そんな中で、強烈な魅力を放っていたのが、ニューオリンズ・ファンクでした。

というより、このリズムに必ずビビッと来るけど?っていうのを調べたら、全部ニューオリンズ・ファンクだったという話。

それが分かった時の感動と興奮は凄まじかった。

「偶然」の価値

今だったら、こんな出会い方はまずないと思います。検索すればなんでも出てきますから。「どうやって知るのか?」というプロセスは、無価値に等しくなってしまいました。

何より、「偶然」出会う、知ることの打ち震えるような感動が極端に減ったような気がします。

今思えば、音楽漬けの学生時代は、人生で最も瑞々しい時期でした。当時聴いていた音楽を聴くだけで、当時の匂いや熱が部屋に充満するような気がします。

どんな音楽にも求めていたのは、陽だまりのような暖かさとプリミティブな躍動感だったように思います。

反骨精神とかアナーキズムでロックを聴くといったスタイリッシュな理由ではなかった(苦笑)


いずれにせよ、音楽は当時の私にとってはかけがえのないものでした。ただそれは、偶然の出会いの尊さに支えられていたと思うんです。


AIやアルゴリズムで何でもかんでも効率よく手に入る、知ることができることは素晴らしいけれど、ワクワクする機会が減っているとすれば、その使い方には注意が必要です。

逆に、ワクワクする機会や出会いが増長されるような使い方ができれば、人類はもっと進化するのかもしれません。



<おまけ>
冒頭の、3組のミュージシャンによる同曲の聴き比べを。

Hey Pocky A-way by The Meters 

Hey Pocky Way by Grateful Dead 


「今日も小松の街は」めんたんぴん

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