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読後感想「日本列島回復論:この国で生き続けるために」井上岳一著

知り合いの農水省の方が紹介されていたので、読んでみた。

日本列島回復論:この国で生き続けるために 井上岳一著

もともと大学の農学部のフィールドワークで日本各地の山水郷に出かけて、地元の方々と交流したり調査をしたりしてきた著者は、農水省を経て現在日本経済研究所に所属されている。

山水郷とは、中山間地域と漁村、離島や半島などを指しており、人口比でいけば総人口の1/4にも満たないマイナーな存在で、多くは限界集落化している地域のことである。

本作は4年かけて書いた労作で、現在の日本の課題である少子高齢化、30年間ほぼ横ばいのGDPなどに関して、その理由を詳細に記載し、それに対して我々はどうしたらいいか、の答えとして、海や山に囲まれ、国土の65%が中山間地域の日本で、山水郷という1万年以上続いた縄文時代を支え、その後の日本を支え続けた大地の資源を十全に活用しようと働きかける。

現状分析についても、コンクリートで日本中が埋め尽くされる勢いだった「日本列島改造論」が、実はうまくできたセーフティネットだったことや、どんな経緯をたどって今の格差社会に変遷したか、資本主義の限界や、全然自由ではない競争の原理など、素人の私でもわかるような平易な言葉とわかりやすい資料で示してくれている。

また、日本各地での地域活性の事例や、田舎に本社機能を持ってきた企業の話など、とても丁寧に取材されており、地元の方々との交流の深さもうかがえる。その事例の素晴らしさやわかりやすい解説はもちろん、各方面への目配りや、随所に読み手への配慮も忘れない。バランスの取れた書籍で、手間暇を惜しまず、日本の未来のために、という強い想いを感じる。

超高齢化時代の先行き不安はすでに経済に現れているし、じゃあ、時給をはねあげれば、経済が好転し、私たちはまた昭和の時代のようなウキウキした時代を生きられるのか、と言ったら多分ほとんどの人がそんな美味しい話はないと思うだろう。それに対して著者は、私たちには「日本列島」がある、こんなに豊かな山水郷には希望があるじゃないか、という答えを出してくれる。

そうだった、私たちはいつの間にか、経済に身体の奥深くまで冒されていたのかも知れない。お金じゃない、経済が全てじゃないと言いながら、結局は経済が上がってこないと、安定した生活はないし、発展もないと、相変わらず「経済永久右上がり説」をどこかで信じてきたのかも知れない。

それに気が付かせてくれただけでも、本書に出会ってよかった、と思った。

なんといっても、子供たちの未来や山水郷という愛おしい母地への溢れるような思いが伝わってきて、いちいち感動する。

著者の井上さんは、1969年生まれで私とは同い年に当たる。上のお子さんは、不登校となって長野の「千年の森自然学校・森のくらしの郷」に入られた。その時にメキメキ元気を取り戻すお子さんの姿や、ご自身も不思議と元気になっていくことを身体で体験したことが、井上さんのモノの見方が大きく変わる転換点の一つだったようだ。

うちも長女が小学校は不登校だったので、自分の家とオーバーラップする部分もあり、余計に共感した。これから将来を考える若い人たちにぜひ読んで欲しいなと思った。早速、うちの子供達には宣伝しておいた(笑)。

もし続編として、もう少し各地の具体例なども盛り込まれた内容のものが出たら、ぜひ読んでみたいと思う。

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