Post-it! 気になる一曲 『I Put A Spell On You』

Screamin’ Jay Hawkins
1956年
映画『Stranger Than Paradise』より



ジム・ジャームッシュによる1984年のアメリカ映画『Stranger Than Paradise』。この映画の主題歌が Screamin’ Jay Hawkins の『I Put A Spell On You』だ。

高校生だった当時(中学生だったかもしれない)何かの雑誌の巻末の映画評で『Stranger Than Paradise』が紹介されていた。登場人物3人がサングラスでキメて、アメ車の前に佇む小さなスチル写真を一目見てピンときたものの、映画を見るチャンスはなかなかやってこなかった。その『Stranger Than Paradise』をテレビでやるらしい。
当時テレビの深夜帯でマイナー洋画や18禁映画をやっていたような記憶があるが、そんな枠での放映だった。真夜中、私はVHSビデオをセットして万全の録画態勢でもって待ち構えた。

パッと見は、モノクロのスタイリッシュな映画という印象(事実、私はこの映像にかなり影響を受けた。エヴァがフルボリュームで『I Put A Spell On You』をテープレコーダで流しながら人気のない静かな街を歩く姿を、真横から撮ったシーン。そんなエヴァの無造作に束ねた髪や黒のロングコート。競馬で勝ったウィリーが直飲みするジャックダニエルの瓶。フロリダのヤシの木のシルエット… )だが、やはりウィリー、エヴァ、エディの3人の珍道中が、本当にしみじみと可笑しい。
エヴァがウィリーからもらった冴えないドレスを脱ぎ捨てるシーンで、画面奥に小さく写るエディ。“beautiful lake” のはずのクリーブランドの湖が、まさかの雪だった件。ハンガリー語でがなり続けるロッテ叔母さん。信じられないほど人気のないフロリダ。ハンバーガーショップであんなに再会を喜び合ったはずなのに、まさかの散文的なエンディング…。哀しい、けど可笑しい。あの3人は今頃、どこでどうしているのだろう…
田中小実昌氏による解説、これがまたいい(ビデオがどこかへいってしまい、返すがえすも残念だ。あの飄々とした名解説、また聞きたい)。

音楽というより、映画の話になってしまった。しかし、それくらい私の中では『I Put A Spell On You』は『Stranger Than Paradise』の映像と強く結びついている音楽なのだ。
ワルツのようなリズム&ブルース、リズム&ブルースのようなワルツ。もし「スタイリッシュな叫び」あるいは「踊れないワルツ」というものがあるとしたら、まさにこの曲がそうだろう。
黒人という、アメリカ社会の中の「異邦人」だった Screamin’ Jay Hawkins と、ハンガリー人であるエヴァやウィリーは、その存在がどこかで重なるような気もするが、そうではないかもしれない。ただただ、ジム・ジャームッシュの選択眼に脱帽するしかない。
インパクトのある曲ゆえ、カヴァーも多数存在するようだが、Screamin’ Jay の狂気に迫るものは見当たらなかった。