人間が世界で最も殺している生きもの = 世界で最も人間を殺している生きもの ~宮沢賢治 「注文の多い料理店」

 蚊は人間にとって最も良心を痛めることなく殺害できる生きものであると同時にWHOの報告によると、蚊が世界で最も人間を殺している生きものなのである。(参考までに;2位は人間である)そして、生殖機能を持つ前に死亡する蚊を遺伝子組み換えを通して作出したことで殺虫剤が要らなくなる日が来るかもしれない…というニュースが流れるやいなや、イェール大学の研究チームがより強靭な抵抗力を持つ蚊の誕生を確認した。主体は客体で客体は主体だったのである。

宮沢賢治「注文の多い料理店」

「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
「どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう」
「これはロシア式だ。寒いとこや山のなかはみんなこうさ」
「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
「なかなか流行ってるんだ。こんな山の中で。」
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落としてください。」

「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちがたびたび来るんだ」
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」

「いや よほど偉いひとが始終来ているんだ。」
「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」

「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来ているのは」

「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないと云うんだろう」

「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」
「どうもそうらしい」
「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか」
「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。」

大切な猟犬が道中で2匹共、泡を吹いて死んでしまったというのに「2400円の損害だ」「ぼくは2800円の損害だ」と犬の命を「もの」かのようにお金に換算する二人の資本家は「注文の多い料理店」でご機嫌だ。

「ことに肥ったお方や若いお方は大歓迎いたします。」
「頭に香水をよく振りかけてください。」
「体中に塩をたくさんよくもみ込んでください。」

やっとルールの逆転に気づいた二人。

「沢山の注文というのは、向こうがこっちへ注文してるんだよ」

主体として料理店でサービスを受けるのかと思いきや、まさか客体として料理にされるとは…二人の解釈の裏をかいた料理店。サービスを提供されるのかと思いきや、自分たちがサービス提供者、食うのかと思いきや、食われる側。表と裏、主体と客体の逆転。食えば食われるという自然界のルールを逆転させ、お金さえ払えば何でも手に入る資本家は自分が注文する主体であると疑わなかった。恐怖により二人の顔はくしゃくしゃにした紙幣のだれかの顔のように「紙屑のようになった」。そんなとき、死んだと思っていた猟犬二匹が部屋のなかに飛び込んできて二人を助けてくれた。なのに...二人は懲りずに山鳥を買って帰るのだ。

マーケットを動かすアニマルスピリッツ=人間(主体) は自身も動物=喰われる側(客体)であることを忘れている。(ケインズ)

(Newsweek Digital 日本版 繁殖を止めるために遺伝子組み換えされた蚊、自然界に放たれ裏目の結果に 2019/09/19)



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