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抽象画としての庭ー人間の目に見える「自然」は「自然」ではない #0093

はい、またまたマニアックな話です!

前回「庭のかたちが生まれるとき」の感想で少し触れたのですが、人間の目に「自然に見える」というのは、実際の「自然」とは違うっぽいよね、という話です。

不思議なもので、実際の自然状態と、人間の目に見える「自然」ってのは別物なんですな。これ系の話はこれで一旦オシマイなのでご容赦をば!

庭は抽象画である

「庭のかたちが生まれるとき」で途中、石組は抽象画だ、と言う話が出てきます。この言葉もとても興味深い示唆でした。

これは石組だけでなく、植栽なども同じだと思っています。自分もどちらかと言うと、しっかりと構成をするよりも、絵の具を重ねるように庭を作っている方が面白いと思うからです。濃淡や色合いグラデーションなどを考えていく感じですな。
西洋の作り込んだ庭もとても好きなのですが、どちらかと言うと印象派のような感覚があります。日本の庭は水墨画のような感じでしょうか。

現代の庭と言うのは、キッチリ線を引いて行くものだと思いますが、もっと意味を消していった先の抽象化が風景としては「馴染んだ」ものになるのだと思っています。

敬愛するPiet Oudolf 先輩は印象派的

時間軸で考えると、お寺などの庭は抽象化が進みやすいです。一般家庭の庭であると持ち主がなくなってしまえば、その場は簡単になくなってしまうのですが、お寺は環境として続いていくので、さらに熟成されたり、他の人の手が入ることで、抽象化がさらに進むと言う面白さがあるわけです。

抽象化すると「自然に見える」

抽象化が大事だと思うのはズバリ、それが「自然に見える」からです。

人の手が入っている以上、庭が「自然」であることはないのですが、実は人間の目(というか脳)は「自然」なものを「自然」と見ていないと思うのです。

例えば、手付かずの森を見たとき(そもそも日本にそのような環境は少ないけど)、人間は場面を「解釈」しようとしてしまうので、処理しきれなくなってしまうのです。これは絵画的、人工的なものに見慣れすぎているからだと思います。
絵画や人工物は「構図」という設定があります。画面の中にどのようなバランスでモノを配置していくと、不自然に見えないか。そのことを考えて設計されているわけです。
完全に自然な森は画面の中にあるような「軸」がないので、軸のない絵画というのは「どう見たらいいかわからない」ということが一般的なものの捉えようになってしまうのです。

原生林は視点を固定しづらい

つまり人間が「自然だ」「バランスが良い」と感じるのは、「バランスが良いように見せられている」ものなのだと思うのです。

樹木の剪定の場合の「自然」

例えば剪定技術で言うと、樹木を単体で見たときに、「自然に見えるかどうか」という観点があります。
自然で育った樹木はパワフルでカッコ良いのですが、例えば庭に置くと不自然に見えてしまうことがよくあります。それは枝のつき方が「自然」に見えないからなんですな。

わたくしの師匠の樹木医Iさんによく言われるのは「人が見て不自然と思う枝を払う」ということです。これにはメソッドがあって、不要枝を払ったり、透かしたりするモノです。この辺りでも話をしていますな。

とにかくこんな感じで自然「風」にすることが大事。
また、一度手入れすると、人の手を入れないと自然に見えなくなってしまうので、継続的な手入れも必要なのです。

庭を自然「風」に見せる

庭も同じように、全体の構成で自然「風」に見せるというメソッドがあります。例えば落葉樹と常緑樹は7:3で配置すると自然に見える、とか奥に行くにつれて木の高さを高くしていく、、、とかですな。

これは英語の文法と同じで、実際にあるものをある程度の法則性を発見して解釈しているにすぎないわけです。
つまり、自然にはある程度の木の生え方の法則性があって、人が後付けでそれを「ルール」として設定したものが「自然である」と見ている。それが「自然」風だというわけです。

今見ている庭は、自然を人間が解釈して、それを不自然に見えないようにしているものだということなんですな。

自然に「直線」はない

で、庭を作るときに抽象化して捉える=自然に見えるようにする、と言うのは突き詰めると自然界には「直線がない」からだとも言えると思っております。
直線であれば、寸法を測っておさめていけばいいのですが(これはこれで難しいが)直線がないので、うまい具合にごまかしながら進めていく必要があるのです。

本の中にも「偸(ぬす)む」と言う表現で出てくるのですが、要するに自然に見せるようにするために実際の寸法とは異なっていても、「自然に見せる」方を優先する考え方です。

まあこんな感じで、庭の中には「人の目に自然に見せる」ためのトリックみたいなものがたくさんあるんですな。そういう意味では、わたくしたちは、常に庭を作った人たちに騙されている、とも言えるわけで、それはそれで庭の奥深き世界として楽しめるよなーーとも思ったりするわけです!

ではでは!



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