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小鳥の歌 ジュラ紀の夢

※ 以下は、短歌結社誌『水甕』2022年2月号に掲載した「歌壇作品時評」です。執筆したのは2021年12月頃です。

 恐竜はほとんど絶滅したが、一部は生き延びて今の鳥類になった、というのが最近の研究で分かっているらしい。鳥好きの人々には既に常識なのか、「短歌往来」十一月号の特集「動物(ペット)を詠む」にて、二人の愛鳥家が自身の飼い鳥から恐竜時代へと遡り、壮大な時空間を詠んでみせた。

十姉妹文鳥鸚哥に仕えつつひとり人語をつかい暮らせり

大井まなぶ 「鳥家族」 

文鳥のケケケケ威嚇の鳴き声を人新世の昧爽に聞く

Oviraptorオヴィラプトル卵いだきしまま死にき 鳥にもあるのだろうか 原罪

空だけが逃げ場所だった恐竜のすえっ子ぴーりろぴりろなくなり

 大井は鳥たちとの親密な関係を吐露し、その祖先たちにセンチメンタルな抒情を寄せる。四首目、〈すえっ子〉は逃げ延びた「末っ子」でも、その「裔の子」、すなわち鳥類でもあるのだろう。

ぴいさん、と呼べば返事をする鳥の小さきあたまにそとふれてみる
*<ぴい>さんには傍点

齋藤芳生よしき 「青い鳥小鳥」 

にんげんの無礼非礼をゆるさない鸚哥に親指を咬まれたり

はるばると命をつなぎわたくしの手に乗る小鳥あたたかきかな

ジュラ紀後期恐竜たちの羽撃きを思い眩しむ秋晴れの空

 齋藤はインコを愛でながらも、その賢さや激しさを畏れ、尊ぶ。また、連綿と続いてきた命の繋がりや、想像するしかない恐竜の生活にも想いを馳せている。

恐竜と鳥の作品は今後も愛鳥歌人たちから発表されるだろう。それぞれの愛と歴史の語り方を味わいたい。

 奇しくもNHK短歌十月テーマの一つは【ペット】だった(大森静佳・選)。テキスト十二月号発表の佳作から小鳥の作品を二首。

はるかなる進化を終えて手の中にまどろむ白い恐竜のきみ

東京都 丑野つらみ 

 長大な進化の歴史を、愛玩鳥へと一気に結論づけてみせた。齋藤作品にも似ているが、〈恐竜〉と言い切っているのが独創的だ。しかも飼い主をすっかり信頼している〈恐竜〉である。

ひと冬で死なせた鳥の小さくて鋭い爪で怪我けがしたかった

東京都 西藤さいとうさと 

恐竜の系譜を思わせる小さくとも鋭い爪はもう動くことはなく、戯れて引っ掻かれる思い出すら作れなかったほど、一緒に過ごした期間は短すぎた。後悔と悲しみが、一首から過不足なく伝わってくる。

※ タイトル画像は、みんなのフォトギャラリーより obkさんの作品。

https://note.com/obk/n/ndb5e94bc0130


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