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短歌・一首鑑賞

眠気から逃れられない真夜中をナイフでカットして切り分けて

服部崇歌集『新しい生活様式』

 下句は「ナイフでカット/して切り分けて」といわゆる句跨りになっている。
 上句と下句が関係あるように見えて、全然関係なくて、でもやっぱりどこか関係ありそうに思えちゃうのが、この歌のミソ(って言い方はまだ通用するのか)。
 <真夜中>ってのは私に言わせれば「もう寝るぞ」と言いたくなる時間帯。しかし、デスクワーク中心らしき<私>はそうもいかないようで、眠気を我慢しなければならない。でも<逃れられない>。
 もし、この歌が「ケーキをナイフでカットして切り分ける」歌だったり、「眠気から逃れられないので、真夜中にコーヒー飲んだ」歌だったりしたら詰まらない。<真夜中を><切り分け>る歌だから、ちょっと不条理で詩情のある歌だから面白いのである。
 もしかしたら眠気覚ましにケーキかフルーツを切って、コーヒーを淹れてみたのかもしれない。そうした連想も拡がっていく。もちろん、そんなことを忠実に記述するのではなく「真夜中を切り分ける」と言っちゃうのがいいのである。

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