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連載①“あのとき“言葉があった ー言葉によって人生は変えられるー

みなさん、はじめまして。
私はコピーライターとして社会人をスタートし、その後編集者、看護系出版社の編集部長、出版社経営などを経て現在はキャリアコンサルティングやカウンセリングなど、ずっと「言葉」と「文字」にかかわる仕事をしています。仕事を通じて感じてきたことは「言葉によって人生は変えられる」ということです。
このたび、「看護師とがん患者さんがSNSを使った文字による対話」によって療養中の患者さんの孤独や不安、モヤモヤした気持ちの整理をサポートするTomopiiaのサービスを聞きたいへん興味をもちました。これは今までになかった看護の新しいカタチです。そしてこれからますます世の中から必要とされる看護の一つであるとともに、患者さんにもぜひ知って利用していただきたいサービスだと思いました。
 
みなさんはこれまで何かのときにふと思い出す言葉はあるでしょうか。私にはいろんな場面で思い出す言葉があります。たとえば中学生のころに母から言われたこんな言葉です。

「あなたにはあなたらしい良さがあるから、そこで勝負すればいいのよ」

私は三人兄弟の末っ子で育ちました。身内のことを言うのもなんですが、2人の兄はとても学業優秀でした。学校ではいつも2人の兄を知っている先生たちから「松井くんのお兄さんはね……」「あのお兄さんの弟ならできるでしょう」といったことを言われてきました。
のんきだった私は小学生のころはとくに気にもしていませんでしたが、中学生になると高校受験も視野に入り、学校の成績でも兄たちとの差を感じないわけにはいかなくなりました。

さらに、父親は昭和一ケタ生まれのきびしい人でした。わが家には学期末になると通知簿をもって父に成績を報告しにいくというしきたりがありました。兄から順番に父親の部屋に通知簿を見せにいくのです。父親はおもむろに通知簿を広げると右から左へと視線を流し、兄たちには「よし」、「がんばったな」と短い言葉でねぎらいます。しかし、最後の私のときだけは違います。「なんだこれは」「お前はなんでこんな成績なんだ」ときびしく詰められます。なぜと言われてもわかりません。やってもできないのですから。
あるとき父親の機嫌が悪かったこともあったのでしょうが、「お前は松井家はじまって以来のバカだ」とまで言われたのです。さすがの私もそれにはショックを受けました。部屋に戻り悔し涙を流しました。そんなときに母親が言ってくれたのが先の言葉でした。

言葉って不思議です。もし、このときに母親からも「あなたがもう少し努力をすれば、成績ももっと良くなるでしょうに」などと言われていたら私は行き場所もなくグレていたかもしれません。
しかし母の言葉によって「私にも良いところがある」「父親はそれを知らないが母親は知ってくれている」「私は自分にもある“良さ”で勝負すればいいんだ」「今は成績が悪くたっていつか違うところで勝てるかもしれない」……と、そんなふうに考えられたのです。
実際は、その言葉だけでは私自身の学力や成績は変わっていません。変わったのは私の状況の受け止め方だけです。現状だけを見るのか、未来を含めて見るのか。そこから私は「自分が他の人に勝てる強みってなんだろう」と考えるようになりました。

言葉は思考を整理するツールです。自分の感情も言葉を使うことによって、違う引き出しに片付けることもできます。
人は不安になったときに、自分以外の人に理解してもらうこと、共感してもらうこと、認めてもらえることによってその不安を解消したり、和らげることができます。
とくに病気と闘い、未来に対してモヤモヤした気持ちや不安を持つ人にとっては、他者からの受容や共感の言葉を受け取ることは大きな支えになったり、励ましになったりします。
また、逆に自分の気持ちを論理的に整理して、自分を客観視して言葉にすることがでると、それを他者に伝えることができ、理解や共感を得やすくなったりします。さらに自分の気持ちや感情を言葉によって記憶や記録に残すことができます。

言葉は身の回りにあふれています。その中でも自分に勇気や希望、未来を与えてくれる、そして今の自分にしっくりする言葉、自分に嘘をつかず、あるがままに受け止められる言葉を大切にしてください。無理をして前向きでいることもありません。人生にはいろんな場面があります。その場面によって心に響く言葉は違って当然です。
あなたを思って善意で放たれた言葉も、ときにはあなたを傷つけるかもしれません。そんな言葉には振り回されず受け流すのがよいときもあるでしょう。

次回からは日常生活のなかにある「言葉によって救われた瞬間」「言葉によって気づきをえられた瞬間」「言葉によって思いが通じた瞬間」などを切り取ってお届けいたします。 

Tomopiia アドバイザー 松井貴彦


プロフィール
●松井貴彦(まついたかひこ):Tomopiiaアドバイザー。国家資格キャリアコンサルタント。同志社大学文学部心理学専攻(現心理学部)卒。リクルート、メディカ出版、会社経営を経て「ライフキャリアコンサルタント」としてナースを主とした医療従事者、シニア世代のビジネスマンのキャリアコンサルティング、研修、カウンセリングを行う。また大学講師として「キャリアガイダンス」「経営学」「社会学」の教壇に立つ。著書に「家で死ねる幸せ」(どうき出版)「正しい社内の歩き方」(ベストセラーズ)「よくわかる部下取扱説明書」(文香社)など。


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