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じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #08

久しぶりに、もしかしたら美大受験の課題よりも真剣に取り組んだ作品を編集部に送った数日後、担当の編集者から無事採用の連絡が届いた。

僕は、久々の”合格通知”に小躍りする思いだったが、とにかく先生に挨拶に伺うという話になり、一旦落ち着いて担当者と落ち合うと、その足で共に先生の仕事場へと向かった。

初めて対面したE川先生は、柔和で人懐っこく、おしゃべりでよく笑う楽しい人だった。

後にタレント活動のようなこともしていたので、TV等で見た人もいると思うが、実際にあのまんまで、描いている作品のテンションからすると内に秘めたものがいくらでもあると思うが、それを表に出して感情的になる様子は見たことがなかったので、そこはうまく隠して漫画にぶつけていたんだと思う。

担当編集から紹介され、簡単な挨拶を済ませると、先生はさっそく職場の案内をしてくれた。

先生の職場は、いわゆる漫画家の部屋のイメージからするときちんと整頓されていて清潔感があり、シャワーや仮眠室も完備されているなど、かなり充実していた。

アシスタントは8人体制で結構人数が多いが、4人ずつの2つのチームに分かれて、週替わりで作業に当たるというスタイルを取っていた。

つまり、1週間仕事したら次の週は休みというちょっと特殊な業務形態なのだが、これは休みの週を自分の作品の制作に充てなさいという先生の計らいとのことで、ちょっと感動した。

仕事として考えると月の半分しか作業がないので割が良くないと思うかもしれないが、先生は単行本やグッズの売上で十分な収益を上げていたため、原稿料はほぼすべてアシスタントへの支払いに充てるなど、生活に困らないよう配慮してくれていた。

ちなみに、アシスタント代は完全に歩合制で、ベタ、トーンといった作業内容による分業ではなく、ページ毎に担当が割り振られ、各アシスタントは責任をもって割り振られたページを仕上げるというルールになっていた。

チーフが各人の技量に応じて、背景の少ない簡単なページ、描き込みの多い難しいページと、割り振りを決めていたが、それでもやり直しが多かったりと作業が間に合わない場合はどんどん担当ページを他の人に回され、作業時間に関わらず実入りが少なくなるという、そこはシビアな仕組みだった。

先生は提出した作品の丁寧さは褒めてくれたが、週刊連載だから当たり前だが、制作にどのくらいかかったか、作画の時間を気にしていた。

このとき実際は結構な時間をかけていたが、リアルな時間を言うのは気が引けて少しサバを読んで答えたのだが、それでも「う~ん、それだとちょっと時間を掛けすぎだな。もうちょっと頑張っていこうか。」みたいな反応だった。

担当編集は、場を取り持とうと思ったのか「いや、でも絵はしっかりしてますよね。前から上手いと思ってたんですよ~」みたいなことを言いだしたので、僕は最初に持ち込みしたときのことを思い出して、「嘘つけっ!!」と内心食い気味でツッコんだが、この先の仕事の厳しさに意識を向け、グッと言葉を飲み込んだ。

#創作大賞2023

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