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【100均ガジェット分解】(39)ダイソーの「PD対応カーチャージャー」

※本記事は月刊I/O 2022年6月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。

自動車のシガーソケットに差し込むタイプのUSB充電器にも高速充電規格「USB PD(Power Derivery)」に対応した製品が登場しています。今回はダイソーの「PD対応カーチャージャー」を分解します。

店頭展示の様子

パッケージと製品の外観

「PD対応カーチャージャー」のブランドはダイソー、USB-AポートとTYPE-Cポートがついています。価格は500円(税別)と他のカーチャージャーより高めの設定です。

パッケージの外観

入力は「12V/24V」両対応、定格出力はTYPE-Cポート(USB PD)は最大約18W(5V/3A、9V/2A、12V/1.5A)、USB-Aポートは最大12W(5V/2.4A)、2ポート同時使用時は最大30Wとなっています。

パッケージの定格表示

本体の外観と同梱物

パッケージの内容は本体のみで、取説等の同梱物はありません。

本体の外観

シガーソケットへの差し込みプラグ(電源入力)にはセンターに+電極、本体左右に-電極があります。

シガーソケットへの差し込みプラグ

出力ポートはTYPE-CとUSB-Aの2つです。TYPE-Cポートには「PD」の記載があります。周囲は半透明の成形品で囲まれていて、通電すると青く光ります。

TYPE-C/USB-A出力ポート

TYPE-CとUSB-Aからの出力電圧は独立していて、TYPE-Cに9V/12Vを出力したときも、USB-Aポートには5Vが同時に出力されます。2ポートでの充電には使いやすい設計です。

TYPE-CとUSB-Aの同時出力の確認

本体の分解

本体の開封

外装は接着されているため、カッター等で切断して開封します。内部には「プリント基板」と、バネで下に押される「+電極」、左右に広がった金属部品による「-電極」があります。各電極はプリント基板にハンダ付けされています。

開封した本体

基板構成

プリント基板は2枚構成で、メインボードに差し込む形でUSB-Aコネクタが実装されたサブボードが半田付けされています。

メインボードとサブボードの接続部

コネクタ側から見ると、サブボードに開いた穴からメインボードのTYPE-Cのコネクタが実装された部分が差し込まれていて、両方のコネクタに同じ面からアクセスできる構造になっています。

コネクタ側の構造

回路構成

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。基板上には型番「HH-DCPD2.0+5V 2.4A-A REV 1.2」と製造日「2021-07-17」の表示があります。
写真に主要な実装部品を記載しています。TYPE-Cコネクタはメインボードに実装されています。

スイッチング電源の出力平滑用のコイルはTYPE-C用とUSB-A用で2個あります。どちらもドーナツ状のコアに銅線が巻き付けられたタイプです。
コントローラICもTYPE-C用とUSB-A用で2個実装されています。

プリント基板はGND・電源パターンは十分広くとってあります。出力電圧をコントローラICにフィードバックするパターンにも出力電流の影響を除くためにカットを入れて分離しています。
全体的に電源としてのポイントはおさえている良い設計という印象です。

メインボード

サブボード

サブボードもガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。基板上に型番「HH-DCPD2.0+5V 2.4A-B REV 1.0」と製造日「2020-10-13」の表示があります。
サブボードには面実装のLED 4個とUSB-Aコネクタが実装されています。
USB-AコネクタのD+とD-は短絡されていて、USB BCS(Battery Chrging Specification) 1.2に対応しています。

サブボード

回路図

基板パターンより回路図を作成しました。

回路図(pdfはこちら)

TYPE-CとUSB-Aの電源は完全に独立した回路なので、異なる電圧を同時に出力できます。
TYPE-CのコントローラICにはUSB PDの制御ライン(CC)が接続されていて、接続されたUSB PD対応デバイスの要求に応じて5V/9V/12Vを出力します。
USB-Aのコントローラは電源ICで5V固定出力です。

主要部品の仕様

次に本製品の主要部品について調べました。

USB PDコントローラIC(IC1) IP6510

USB PDコントローラIC

TYPE-Cのコネクタに接続されているコントローラICは「英集芯科技股份有限公司(http://www.injoinic.com/)」製のUSB PD /Fast Charge 18W出力SoC「IP6510」です。
データシートは以下より入手できます。

http://www.injoinic.com/product_detail/id/3.html

回路構成としては降圧型スイッチングレギュレータで、TYPE-CコネクタのCC1/CC2に加えてD+/D-端子も接続することで、USB PD以外の高速充電規格(QC2.0/3.0,USB-BC1.2他)にも対応しています。

USB-A用電源IC(IC2) HC655

USB-A用電源IC

USB-Aに接続されているコントローラICは「HC655」というマーキングで検索をしたのですが、詳細は分かりませんでした。
回路構成としては、出力電圧 5V固定の降圧型スイッチングレギュレータですので、汎用ICであると思われます。

USB充電プロファイルの確認

次に本製品のUSB充電プロファイルを確認してみます。解析には以前と同様に「ChargerLAB POWER-Z KT001(https://amzn.to/3i4T43G)」を使用しました。

ChargerLAB POWER-Z KT001

USB PDパワールール(PDO)

TYPE-C側のUSB PDのPDO(Power Data Objects)を確認をしました。

製品仕様の定格出力である「5V/3A,9V/2A,12V/1.5A」に対して、PDのパワールールは異なる「5V/2.39A,9V/2.15A,12V/1.51A」になっています。
製品仕様の記述はコントローラIC(IP6510)のデータシートの「スイッチング電源としての出力能力」の記述と一致しています。

USB PD PDOの確認

サポートする高速充電プロトコル

次に、各出力ポートの高速充電プロファイルを確認しました。

TYPE-C側はUSB PD以外のメジャーな充電規格(Apple,DCP,QC他)もサポートしています。
QC3.0の200mVステップでの出力電圧可変にも対応しています。

高速充電プロファイルの確認(TYPE-C)

USB-A側は回路図どおりDCP-1.5A(USB BC1.2)のみのサポートです。

高速充電プロファイルの確認(USB-A)

出力電流-電圧特性の確認

電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかをTYPE-C、USB-Aの各出力で測定しました。入力電圧は一般的なシガーソケットの出力電圧相当の12.5Vとしています。

グラフの点線は定格出力電圧+/-5%のラインです。いずれも定格出力電流以下での出力電圧は+/-5%であり問題はありません。
過電流保護の動作点(出力電圧が停止する電流値)は定格に対して高めになっています。
定格出力での電力効率は5V出力:86%、9V出力:約93%、12V出力:約95%でした。

出力電流-電圧特性(PD5V)
出力電流-電圧特性(PD9V)
出力電流-電圧特性(PD12V)
出力電流-電圧特性(USB-A 5V)

まとめ

USB PDのパワールールと製品仕様が違っていましたが、実力は製品仕様に対して問題はありません。ただ、過電流保護特性は定格よりかなり大きめな設定になっていました。
本製品はシガーソケットというある意味で密閉された状態に挿して使用するので、USBファンのような「消費電流の実力がはっきりしないUSBデバイス」を接続するのはできるだけ避けた方がよさそうです。


電子工作に流用するという観点では、本製品からはワンチップでスイッチング電源が構成できるコントローラICが2種類入手できるので、お買い得な製品だと思います。

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