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【100均ガジェット分解】(9)ダイソーの「自動判別機能付USB充電器」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです。

100円ショップでは以前より多くの種類の「USB充電器」が販売されています。今回はダイソーの「接続された機器を自動で見分ける」という「自動判別機能付USB充電器」を分解します。

パッケージと製品の外観

ダイソーの「自動判別機能付USB充電器」は2ポート版と1ポート版の2種類が販売されています。今回は300円(税別)の1ポート版を購入しました。

外観

本体の外観

パッケージによると入力電圧は全世界対応の「AC100-240V」、出力電流は「2.1A(最大)」で「タブレット対応」となっています。裏面には「USB-Aポートに接続した機器をICが自動で見分けて、最適な出力で充電します」との記載があります。なお、パッケージにはACコンセントに直接接続される機器に要求される「PSE」マークは表示はありません。

02_パッケージ裏面の表示

パッケージ裏面の表示

本体の分解

■ 同梱物

パッケージの内容は本体のみです。「PSE」マークは本体に一体成型で表示されており、申請事業者と思われる「テラ・インターナショナル(株)」の名称も記載されています。定格表示は入力がAC100-240V/0.3A、出力がDC5V/2.1Aとなっています。

03_本体に表示されているPSEマーク

本体に表示されているPSEマーク

■ 本体の分解

本体ケースは接着されているため、接着部分をカッター等で切断して開封します。内部は「ACプラグ」と「プリント基板」で構成されており、ACプラグと基板は電極で接触して接続する方式となっています。

04_本体を開封

本体を開封

ACプラグは折りたたんで収納できる形となっており、基板へ接続する電極がバネとなってACプラグの可動部の支点の電極と接触する形になっています。

05_ACプラグ部

ACプラグ部

プリント基板は1枚構成です。1次側回路(ACコンセント側)と2次側回路(USBコネクタ側)の間には電気用品安全法(PSEマーク)で要求される「絶縁距離」を確保する「絶縁シート」を入れて全体的にコンパクトに収まっています。

06_プリント基板

プリント基板

回路構成と主要部品の仕様

■ メインボード

メインボードはガラスコンポジット(CEM-3)の片面基板です。以下はメインボードの表面の主要な実装部品です。AC入力ラインには「保護ヒューズ」が入っています。電源トランスは絶縁距離を確保するために2次側巻線の端子位置が外側に伸びている少し変わった形状(FE1510)です。

07_メインボード(表面)

メインボード(表面)

以下は裏面パターンと実装されている主要部品です。裏面には型番「307-0025 VER21」と製造週「1928」(2019年28週)の表示があります。半導体は裏面に面実装されています。

08_メインボード(裏面)

メインボード(裏面)

大電流が流れるパターンはレジストを剥がして半田を盛ってあり、1次側~2次側の絶縁距離を確保するための「スリット」を入れるなど、電源回路としては無理のない「きちんとした基板設計」となっています。

■ 回路構成

現物よりメインボードの回路図を書き起こしたものが以下になります。

09_回路図

回路図

1次側(AC側)の構成は電源回路としては一般的な構成になっています。2次側(USB側)の出力電圧は直接検出ではなく、電源トランス(T1)の1次側の検出用巻線(5-6)の出力を整流・抵抗分割して電源制御IC(U1)のフィードバック端子(FB)に入力して制御しています。
2次側(USB側)は電源トランスの巻線の-側(2)に整流ダイオードをいれています。「接続した機器をICが自動で見分ける」という機能は「USBチャージャエミュレータ(U3)」でUSB_AコネクタのD+/D-端子経由で行っています。

■ 主要部品の仕様

次に本製品の主要部品について調べてみました。

● ブリッジダイオード(BD1) MB10F

10_ブリッジダイオード

ブリッジダイオード

「ブリッジダイオード」はAC入力を全波整流してスイッチング電源の1次側DC電圧を生成します。パッケージのマーキングより「MB10F」であることがわかります。「MB10F」は中国で同じ仕様のものが複数の会社から販売されています。

データシートは「深圳盈胜微电子有限公司(http://yswasemi.com/)」製のものが以下より入手できます。

https://bit.ly/2JhdsNC

ガラス基板で使用する場合の定格は1000V(max)/0.5Aとなっており、本機の定格表示の電流(0.3A)に対しても問題はない設計となっています。

● 電源制御IC(U1) FT8783Nx

11_電源制御IC

電源制御IC

電源制御ICは「辉芒微电子(深圳)有限公司(http://www.fremontmicro.com/)」製のチャージャー向けのスイッチング電源コントローラ「FT8783Nx」です。データシートは簡易版が以下より入手できます。

https://bit.ly/2paKUOS

以下はデータシートに記載のピン説明です。なお、具体的な電気定格や回路ブロック図が記載されたデータシートは公開されておらず、Web上の検索でも見つけられませんでした。

12_FT8787Nxのピン説明

FT8787Nxのピン説明

データシートによると「FT8783Nx」は高効率/高速応答を特徴としていて、米エネルギー省及び欧州連合の電源アダプタにおける規制である「DoE Level 6 /CoC V5 Tier2」に5V/1Aから5V/2.4Aまでのアプリケーションで適合できる、となっています。

● USBチャージャエミュレータ(U3) UC2635(仮)

13_USBチャージャエミュレータ

USBチャージャエミュレータ

表面の「515R」というマーキング及びパッケージ形状(SOT23-5)だけではこのICの特定まで至ることができず、回路図を起こして結線を確認した上で「USB充電器」として必要な機能から特定しました。
本ICはUSBコネクタのD+/D-端子に接続しUSB充電電流制御のための手順をエミュレートする「USBチャージャエミュレータ」で、パッケージ形状およびピン機能より「深圳市芯卓微科技有限公司(http://www.semihigh.com.cn/)」製のSingle USB Charger Adapter Emulator「UC2635」(もしくはその互換品)です。
ただ、本ICはメーカーのホームページの製品検索には出て来ません。データシートは以下より直接入手できます。

https://bit.ly/33Wx0P5

以下はデータシート記載のブロックダイアグラムです。

14_UC2635のブロックダイアグラム

UC2635のブロックダイアグラム

サポートしている規格は以下です。

・ Apple Devices fast charging(2.1A/2.4A mode)
・ Samsung Galaxy Tab Devices fast Charging(2.0A)
・ USB BC1.2(USB公式規格)& YD/T 1591-2009 Charging Spec(2.0A)

Appleの場合はSEL端子で充電電流が選択できます。本機ではSEL=1なのでパッケージの表示通り「2.1A mode」設定となっています。
接続されたデバイスはD+およびD-の電圧を監視して接続されている機器のタイプを「Auto-detect」ブロックで自動検出し、検出結果に応じて内部のスイッチS1~S4を切り替えることによってデバイスに出力可能な電流値を通知します。それによってデバイスが使用できる最大電流を判断して充電電流を決定します。

出力電流-電圧特性の確認

本機の回路構成では、前述のように「デバイスが使用できる最大電流を判断して充電電流を決定」しますので、USBチャージャエミュレータに対応していない「USBの電源だけを利用するようなデバイス(例えばUSB扇風機)」を接続した場合は、デバイスが自由に流す電流を決めるということができてしまいます。
そこで、電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかを測定してみました。
電子負荷は以下の写真のもの(9.99A/60W/1-30V)を使用しました。Aliexpressで2000円程度で購入できます。

15_電子負荷

電子負荷

実測した電流-電圧特性を「USB BC1.2」で規定されたUSB充電器に要求される動作領域のグラフに重ねたのが以下になります。

16_電流-電圧特性

出力電流-電圧特性

1台のみの実測結果ですが、定格である2.1Aまでは出力電圧は4.7~4.8Vで安定しています。
出力電流2.31Aで過電圧保護回路が動作して出力が下がります。その状態で電流を下げていくとヒステリシス特性をもっておりON-OFFを繰り返す様な「間欠発振動作」になることもなく2.20Aで出力電圧が元に戻ります。
上記グラフのグレーの部分は「USB BC1.2」では動作が禁止されている領域ですが、本機は禁止領域に入ることもなく電流-電圧特性としては規格を満たした動作となっています。

まとめ

100円ショップ等で購入できるUSB充電器は、以前は作りが雑で危険というイメージがあったのですが、無理なコストダウンのための設計はされておらず、設計・特性共にきちんと設計されているという印象を受けました。
本機でも過去の分解と同様にメーカーの製品検索では出てこない中国で生産するためにのみ流通していると思われる部品が使われています。
これらの中国での「エコシステム」によるコストダウンの強さを感じさせられます。



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