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【100均ガジェット分解】(33)ダイソーの「PD 対応 AC アダプタ」

※本記事は月刊I/O 2021年12月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。
(2022.2.4)USB PDコントローラのメーカー情報を修正しました。

ダイソーで USB 高速充電規格「USB PD(Power Derivery)」の最大 20W 出力に対応した「PD 対応 AC アダプタ」をみつけました。今回はこれを分解します。

01_パッケージの外観
製品パッケージ

ダイソーの「PD対応ACアダプタ」の価格は700円(税別)と、今まで販売されていたUSB充電器より高めの価格設定となっています。

パッケージの外観

パッケージによると入力電圧は「AC100-240V」、出力電力はTYPE-Cポート(USB PD)使用時は最大20W、USB-Aポート使用時は最大18W、2ポート同時使用時は最大15Wとなっています。出力電圧は5V/9V/12Vの3段階に対応しています。
パッケージ裏面には商品仕様の記載と「MAKER株式会社」という記載があります。なお、パッケージにはACコンセントに直接接続される機器に要求される「PSE」マークは表示はありません。

02_パッケージ裏面の表示
パッケージ裏面の表示

パッケージの内容

パッケージの内容は本体のみです。
本体にはTYPE-CとUSB-Aの2つの出力ポートがあり、それぞれに「PD」「QC3.0」の表示があります。ACプラグは折り畳み式です。

03_本体の出力ポート
本体の出力ポート

「PSE」マークは本体に印刷されており、申請事業者である「MAKER Co., Ltd」の名称も記載されています。
定格表示は入力: AC100-240V/0.6A、出力はTYPE-C(USB PD)が「5.0V-3A,9.0V-2.22A, 12.0V-1.67A」、USB-A(QC3.0)が「5.0V-3A,9.0V-2.0A, 12.0V-1.5A」です。
TYPE-CとUSB-Aの同時使用時は「MAX15W」となっています。

04_本体のPSEマークと定格表示
本体のPSEマークと定格表示

本体の分解

本体ケースは接着されているため、接着部分をカッター等で切断して開封します。内部は「ACプラグ」と「プリント基板」で構成されています。
ACプラグは折り畳み式で基板とは電極で接触して接続する方式となっています。

開封した本体
開封した本体

プリント基板は2枚構成で、メインボードに差し込む形でTYPE-Cコネクタが実装されたサブボードが半田付けされています。

メインボード上に立っているサブボード
メインボード上に立っているサブボード

回路構成と主要部品の仕様

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。基板上には型番「30-0073」と製造日「2132」(21年32週)の表示があります。
写真にはメインボード表面の主要な実装部品を記載しています。電源トランスの2次側はピンではなくの巻線を引き出して直接プリント基板に半田付けをしています。

メインボード_表面
メインボード(表面)

メインボード裏面にはチップ部品が実装されています。
大電流が流れる部分はGND電流のルートを制御するためにパターンにカットを入れ、さらに両面のパターンをスルーホールで接続してインピーダンスを下げています。
1次側~2次側の絶縁距離を確保するための「スリット」もあり、電源回路としては問題のない設計となっています。

メインボード_裏面
メインボード(裏面)

サブボード

サブボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。こちらも基板上に型番「30-0074」と製造日「2132」(21年32週)の表示があります。
表面にはUSB TYPE-Cコネクタと充電コントローラが実装されています。
メインボードとサブボードはコネクタは使用せずに基板のスリットに差し込んで半田付けされています。

サブボード_表面
サブボード(表面)

裏面にも単体の型番「KRAC20W-A VER 1.0」の表示があります。裏面にはUSB-Aコネクタへの充電電源(VBUS)出力をON-OFFするためのP-MOS FETが実装されています。

サブボード_裏面
サブボード(裏面)

回路構成

基板パターンより回路図を作成しました。
※2022/11/23:PMOS FETのS-Dが逆なのに気がついたので差し替えました

回路図

1次側(AC側)の構成は電源回路としては一般的な構成になっています。
電源制御IC(U1)は電源トランス(T1)のスイッチング用のFETとコントローラがワンチップになっています。

2次側(USB側)の出力電圧はフォトカプラ(U2)を経由して電源制御IC(U1)のフィードバック端子に入力して制御しています。この構成は出力電流の変動に対して出力電圧の安定度がよくなります。

2次側(USB側)のサブボード上の充電コントローラがUSB PD(TYPE-C)およびQC3.0(USB-A)に接続されたデバイスを判別して充電用の電圧・電流の制御を行っています。

主要部品の仕様

次に本製品の主要部品について調べていきます。

電源制御IC(U1) CRE6959VH

12_電源制御IC
電源制御IC

電源制御ICは「深圳市康源半导体有限公司(http://www.cresemi.com)」製のスイッチング電源コントローラ「CRE6959VH」です。
データシートは以下より入手できます。

http://www.cresemi.com/uploads/soft/201028/2-20102R02915.pdf

スイッチング電源に必要な大電流FETと制御ロジック回路がワンチップになっているオールインワンのICです。

13_CRE6956HVのブロック図
CR6956VHのブロック図

充電コントローラ(U3) XPD738

14_充電コントローラ
充電コントローラ

充電コントローラは「深圳市矽源特科技有限公司 (http://www.chipsourcetek.com/)」製のUSB TYPE-C(PD)とUSB-A(QC)のデュアルポートコントローラ「XPD738」です。
データシートは以下より入手できます。

http://www.chipsourcetek.com/Uploads/file/XPD738.pdf

TYPE-CのCC1/CC2ライン及びUSB-AのD+/D-ラインで接続されたデバイスと通信を行い、要求された出力電圧に応じてフォトカプラ(U2)を経由して1次側の電源を制御します。
TYPE-CとUSB-Aの両方にデバイスが接続された場合には出力電圧は5Vに固定される仕様となっています。

15_XPD738のブロック図
XPD738のブロック図

USB充電プロファイルの確認

次に本製品のUSB充電プロファイルを確認してみます。解析には前回同様「ChargerLAB POWER-Z KT001(https://www.chargerlab.com/power-z-kt001-usb-power-tester-with-pd-qc-trigger-and-mfi-identification/)」を使用しました。

画像16
ChargerLAB POWER-Z KT001

USB PDパワールール(PDO)の確認

まずはTYPE-C側のUSB PDパワールール(Power Data Objects)の確認結果です。仕様である「5.0V-3A,9.0V-2.22A, 12.0V-1.67A」と一致しているのが確認できます。

16_USB_PDパワールールの確認
USB PD PDOの確認

QCプロファイルの確認

次にUSB-A側のQCプロファイルの確認結果です。仕様である「5.0V-3A,9.0V-2.0A, 12.0V-1.5A」をサポートしているのが確認できます。QC3.0での200mVステップでの出力電圧可変にも対応しています。(実機動作確認済)

17_QCプロファイルの確認
QCプロファイルの確認

出力電流-電圧特性の確認

電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかをUSB PDの各パワールールで測定しました。点線は定格出力+/-5%のラインです。

いずれも定格電流内での出力電圧は十分安定しています。過電流保護特性も良好です。

ちなみに、最大電力である12V/1.67A(20W)出力時でも本体の温度は手で触ってもほんのり暖かくなる程度でした。

18_出力電流-電圧特性_PD5V
出力電流-電圧特性(PD5V)
19_出力電流-電圧特性_PD9V
出力電流-電圧特性(PD9V)
20_出力電流-電圧特性_PD12V
出力電流-電圧特性(PD12V)

まとめ

今まで分解した100円ショップで購入できるUSB充電器の中では、プリント基板パターン・出力特性共に一番良い設計という印象です。
一般でも情報が入手できる2個のワンチップ化されたICの組み合わせで必要十分な機能が実現できているのが、中国の「エコシステム」の強さを感じさせられます。

定格20Wなので、ノートPCの充電等に使用するには電流容量が不足していますが、USB-PD対応スマートフォン用の急速充電器としては価格も安いので、持ち歩き用に買っても良いと思います。

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