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【100均ガジェット分解】(56)セリアの「100円バッテリーチェッカー」

※本記事は月刊I/O 2023年11月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

今回はセリアで100円(税抜)で買える乾電池の残量をLEDで表示するタイプの「バッテリーチェッカー」を分解してみます。

パッケージと本体の外観

セリアのバッテリーチェッカーは「POWER CHECK」という商品名で販売されています。目安残量表示はLEDによる3段階です。アームで電池の両端を挟んでチェックするタイプで、単1~単5の1.5V系の乾電池に対応しています。

測定対象の乾電池とは別に電源用のボタン電池(CR2032)が必要です。販売価格が100円にもかかわらず、テスト用のボタン電池が付属しています。

店頭展示の様子

パッケージ

パッケージ内にあるのは本体のみ。パッケージ裏面には使用方法と電池の交換方法が記載されています。

パッケージ裏面の表示

輸入元は100円ショップのガジェットではおなじみの大阪の「株式会社グリーンオーナメント(https://www.green-ornament.com/)」です。

パッケージの輸入元表示

本体の外観

本体はプラスチック(ABS)製、正面に残量費用時用のLEDが3個並んでいます。アームは使用していないときはバネで自動的に折りたたまれる構造で、非常にすっきりしたデザインとなっています。

本体の外観(乾電池チェック中の状態)

本体底面にはボタン電池ケースの取付部があります。
本体の厚さは12㎜(実測)、以前100円ショップで販売されていたアナログ式のものと比べてかなり薄くなっています。
ちなみに筆者が購入した個体(写真)では左側が少し浮いていましたが、押し込むときちんと嵌りますので、実際の使用においては問題ありません。

本体底面の電池ケース取付部

本体の分解

本体の開封

本体の前面(LED側)と背面のケースの間に隙間があります。ケースはかなり頑丈に固定されていますので、マイナスドライバー等を隙間に入れて強めにこじるようにして開封しました。
前面と背面のケースは4か所のボスをはめ込んで接着剤で固定されていて、折らずに開封するのは無理でした。内部は3個のLEDが実装されたプリント基板がケースにビスで固定されています。

開封した本体

プリント基板を固定しているビスを外して取り出します。リード線の黒は乾電池用のGND電極、赤はアーム内を通って+電極へ接続されています。赤のリードはアームの開閉での断線対策のために、熱収縮チューブでバネと固定されています。

プリント基板を取り出した状態

回路構成

メイン基板

メイン基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面には電源用のボタン電池の電極として金属のプレートが2枚実装されています。
電極以外の部品は全て面実装部品、半導体部品はコントローラICとトランジスタです。基板上には未実装のパターンが1か所あります。

メイン基板(表面)

裏面には残量表示用のLEDが3個実装されています。裏面にも未実装のパターンが2か所あります。プリント基板の表面・裏面のどちらにもシルク印刷はありません。

メイン基板(裏面)

回路図

基板パターンから回路図を作成しました。(回路番号は筆者が割り当て)

コントローラICのピン配置は、中国製の安価な電子機器でよく見かけるPICマイコン互換IC(1番ピンがVCC、8番ピンがVSS)です。各LEDはコントローラの個別のポートに接続されていて、予備のLEDが接続できるパターン(R2、D4)もあります。

測定用の乾電池(DUT)が接続されるとPNPトランジスタQ2がONになりU1の4番ピンがLになります。7番ピンはADコンバータ入力でDUTの両端電圧が抵抗R6とR7で約1/5に分割されて入力されます。4番ピンの状態と7番ピンの電圧の組合せで各LEDのON/OFFを制御しています。

DUTの両端のR8のパターンは未実装です。
100円ショップで販売されていたアナログ式のバッテリーチェッカでは、200~300mA程度の電流を流した状態での電圧で判別していたの、抵抗負荷の場合は電力は0.3~0.5W程度となります。この基板のパターンでは電力の大きい抵抗が実装できないため割り切って未実装にしたものと思われます。

なお、コントローラのADコントローラ入力を約1/5に分割しているのは、この回路構成で角形乾電池006P(9V)を接続する(ADコンバータ入力をVcc=3V以下にする)ことを配慮していると思われます。

回路図

主要部品の仕様

コントローラIC:型番不明

コントローラIC

コントローラICはマーキングが削られていて型番が不明です。回路構成での記載したように電源とGNDのピン配置がMicrochipの”PIC12Fシリーズ”と互換のICで筆者は「ジェネリックPIC」と呼んでいます。
電源以外に周辺部品は不要で、8ピンのうち6ピンがGPIO(GP0~GP5)として使えます。

PNPトランジスタ:S8050

PNPトランジスタ

“J3Y”のマーキングの部品は汎用PNPトランジスタ「S8050」で、複数の会社より同じ型番のものが販売されています。
データシートはJECT製のものが以下より入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1810010611_Changjiang-Electronics-Tech--CJ-S8050_C105433.pdf

実機での電池残量判別動作の確認

単1~単5乾電池(1.5V系)での動作

乾電池用電極の両端に外部から電圧を印加して実際にLEDの状態が変化する電圧を実測してみました。

0.62Vを超えるとトランジスタQ2がONしてLED1が点灯、抵抗分割でADコンバータに入力される電圧に応じてLED2とLED3がON/OFFします。
また、いったん境界となる電圧を下回ると電圧を上げてもLED2/LED3は再点灯しない仕様になっています。

残量判別電圧(単1~単5乾電池)

角形乾電池006P(9V系)での動作

本製品の仕様には記載はないのですが、回路構成で説明したようにコントローラへのADコンバータ入力は約1/5に分割されているので、乾電池電極に9Vを印加して徐々に電圧を下げていった時にもLEDの状態が変化するかを確認してみました。
結果は想定残量に応じた電圧でLED2/LED3のON/OFFしました。ADコンバータの入力電圧に応じて1.5V系/9V系を判別しているようです。

残量判別電圧(角形乾電池006P)

ちなみにボタン電池(3V系)でも確認したのですが、こちらは全てのLEDが点灯したままで、対応していませんでした。

参考: 乾電池の負荷電流-電圧特性

本製品では、アナログ式のチェッカーと違って、電池残量判別の際には乾電池に電流を流さない状態となっています。そこで、新品とモーターで使用済(動きが鈍くなったもの)の単4乾電池で、負荷電流を変化させて両端電圧がどのように変化するかを実測してみました。

負荷電流0mAではどちらもすべてのLEDが点灯する電圧で本製品では差がわかりませんでした。
250mA流すと使用済品は「交換」の表示になりますので、大電流が必要なモーターのおもちゃや懐中電灯で使う場合は本製品の表示は参考にしない方がよさそうです。
逆に大電流を必要としないリモコンやマウスで使えるかどうかの判断には本製品は役に立つと思います。

単4乾電池の負荷電流-電圧特性(実測)

まとめ

残量判別の電圧測定で負荷電流用の抵抗がないのは残念ですが、安物によく見られるアーム部分のぐらつきもなく、ガラスエポキシ(FR-4)基板とマイコンの採用、アームの可動部分の熱収縮チューブでの保護といったところは、100円で買える製品としてはかなり出来の良い設計だと思います。

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