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【100均ガジェット分解】(51)ダイソーの「USB3.0対応薄型Type-Cハブ」

※本記事は月刊I/O 2023年6月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

ダイソーで「USB3.0」対応との記載がある、アルミボディの「薄型USBハブ」を見つけました。100円ショップでのUSB3.0対応製品は初めてなので、さっそく購入して分解ました。

パッケージの表示

薄型のUSB3.0対応ハブの販売価格は500円(税別)、USB-A接続のものとType-C接続の2種類があります。今回分解したのはType-C接続の「薄型Type-Cハブ」となります。

パッケージの外観

ダイソーでは以前もUSB1.1対応の「4ポートUSB Hub」(100円(税別)、2019年9月号で分解)や、USB2.0対応の「スイッチ付きUSBハブ」(200円(税別)、2021年9月号で分解)が販売されていましたが、ここしばらくは店頭で見かけることがなくなっていましたので、本製品はダイソーでは久しぶりのUSBハブの新製品となります。
次の写真はパッケージ側面の表示です。4ポートハブなのですがUSB3.0対応は1ポートのみ、残りの3ポートはUSB2.0対応という変則的なポート構成になっています。
VBUS電源の外部入力はありませんので”Bus Power Hub”(USB Hostの電源のみで動作するHub)で動作します。

製品パッケージの表示(側面)

本体の分解

本体部分はアルミ製の外装にゴムで挟み込んだ基板を差し込む構造です。そのままではゴムが抜けませんでしたので、外装をカットして基板を取り出します。リード線は成形品で位置決めして基板にハンダ付けされています。

開封した本体

Type-Cコネクタ部も同様にアルミ製の外装をカットして内部のゴムを外して基板を取り出します。こちら側のリード線は基板にそのままハンダ付けされています。

開封したType-Cコネクタ

構成部品

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。USBコネクタはUSB2.0、USB3.0ともに低背型で基板を切り欠いて実装しています。
パターンはUSB2.0とUSB3.0の信号ラインが基板の裏表にきれいに分かれており、USB2.0側にはコントローラICが実装されています。
USB3.0側には部品はなく、Type-Cプラグからのケーブルからの信号ラインがUSB3.0ポートのコネクタのSuperSpeedライン(STX+/-, SRX+/-)に直接つながっています。

メインボード

Type-Cプラグ基板

Type-Cプラグ内部の基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。
USB Type-C接続検出用のConfiguration Channel(CC)ラインのプルダウン抵抗(5.1kΩ)はこの基板に実装されています。

Type-Cプラグ基板

USBケーブル

USBケーブルはアルミ箔で巻かれていますので、これをめくってリード線構成を確認したところ、リード線は全て並行していてツイストペア(2本を撚り合わせて電気的にバランスをとる構成)はありませんでした。
USB規格ではHS(D+/D-, max 480Mbps)はシールドなしツイストペア(UTP)が、SuperSpeed(STX+/-, SRX+/-, max 5Gbps)はシールド付きツイストペア(STP)もしくは同軸ケーブルが必要ですので、このケーブル構造はUSB規格を満たしていません。

USBケーブル

回路構成

基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。

回路図

USB HubコントローラIC(U1)の周辺部品は12MHzの水晶振動子(Y1)と内部で生成する1.8V/3.3Vの電源用の平滑コンデンサ(C1, C2)のみと非常にシンプルです。
USB3.0ポートへの信号ですが、HSライン(D+/D-)はU1から接続されていますが、SuperSpeedライン(STX+/-, SRX+/-)はType-Cプラグからケーブル~プリント基板経由で直接接続されています。
VBUSラインは全チャンネル共通で、保護回路もなくType-Cプラグから直結になっています。VBUSラインの消費電流の大きなデバイスを接続するとUSBホスト(Type-Cプラグ)から直接電流を引いてしまうので注意が必要です。

主要部品の仕様

コントローラIC SL2.1s

コントローラIC

コントローラICは深圳市和芯润德科技有限公司(CoreChips Shenzhen Co.,Ltd., http://www.corechip-sz.com/ )製のUSB2.0 HUBコントローラ「SL2.1s」です。中国の部品通販サイトのLCSCでの販売価格はUS$0.2879(約40円)、データシートはLCSCのサイトから入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2106070334_CoreChips-SL2-1s_C2684433.pdf

以下はSL2.1Sのピン仕様です。

SL2.1Sのピン仕様(データシートより)

USBのVBUS(5V)から動作に必要な電源(1.8V/3.3V)を生成するLDOを内蔵、周辺部品も少なくシンプルな構成でUSB2.0ハブとして動作します。

 

USBデバイス情報

今回もWindows PCに接続してUSBデバイス情報を"USBView"で確認してみました。

https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/drivers/debugger/usbview

USBデバイス情報

本機はPCからは4ポートの”USB2.0 Hub”として認識されています。プロトコルサポートもUSB1.1とUSB2.0のみで、USB3.0は”no”となっています。1個あるはずの”USB3.0”ポートはここでは存在していません。

デバイスツリーとサポート機能情報

”Connection Status”の“Current Config Value”も“Device Bus Speed: High”(max 480Mbps) でUSB3.0の”SuperSpeed”(max 5Gbps)ではないと表示されています。

Connection Status

“Device Descriptor”もUSBバージョン(bcdUSB)は2.0、デバイスクラス(bDeviceClass)は0x09(HUB)です。
機器の供給元情報である"idVendor"は"0x1A40”です。これは台湾のファブレスのIC設計会社の湯銘科技股份有限公司(Terminus Technology Inc. http://www.terminus-tech.com/)です。

実際に使われていたICは深圳CoreChips社製なので、Terminus社向けにCoreChips社がICを供給しているか、Terminus社がハブの完成品をOEM(委託者ブランド名製造)調達しているのではないかと推定できます。

Device Descriptor

USB3.0ポートの動作

次に本製品のUSB3.0ポートの実際の動作がどうなっているのかを確認してみました。

USB3.0ポートにUSB2.0メモリを接続

まずは、USB3.0ポートにUSB2.0対応のUSBメモリを接続したときのUSBViewのデバイスツリーとデバイス情報です。4ポートのUSB2.0 Hub(=本製品のUSB Hub IC)経由で認識されています。

USB3.0ポートにUSB2.0メモリを接続した結果

USB3.0ポートにUSB3.0メモリを接続

次に、USB3.0ポートにUSB3.0対応のUSBメモリを接続してみました。USB3.0対応のメモリはUSB Hubは経由せず、RootHub(PCのUSBポート)から直接認識されていて、Connection StatusもUSB3.0(SuperSpeed)となっています。

USB3.0ポートにUSB3.0メモリを接続した結果

SSDによるベンチマーク

次に実際にSuperSpeed(5Gbps)で正常に動作しているのか、USB外付けのSSDを使ってベンチマークをしてみました。

最初に基準とするためにPCにSSDを直接接続して測定しました。結果は連続読み出しで最大337.5MB/s(約2.7Gbps)となりました。

外付けSSDでのベンチマーク結果(PC直結)

次に、本製品のUSB3.0ポートを経由して測定してみました。結果は連続読み出しで最大356.3MB/s(約2.85Gbps)で、PC直結とほぼ同じ値になりました。実動作ではUBS3.0として問題なく動作しているようです。

外付けSSDでのベンチマーク結果(本製品経由)

まとめ

USB2.0 Hub コントローラICにUSB3.0ポートのコネクタを接続し、USB3.0で追加されたSuperSpeedライン(STX+/-, SRX+/-)はType-Cプラグから直結するという、力業によるUSB3.0対応をしていました。
これはUSB規格違反ですが、実際のPCではUSB2.0のラインとUSB3.0のラインは別ポートとして認識されることをうまく利用していて「よく思いついたな」とある意味感心しています。

超高速信号であるSuperSpeed(5Gbps)のラインはUSB規格を満たしていないケーブルからプリント基板経由というインピーダンスマッチングが厳しい条件なのですが、実際には直結と同等のスピードで通信できているのが驚きでした。USB3.0のRx(受信側)の補正が強力であることを実感しました。

本製品は「規格には準拠していないが、実際には動作する」という、ある意味「規格をHackした」とも言えます。USBの歴史自体がUSB充電等の「当初想定していなかった使い方が市場に出てくると、それををうまく規格に取り込んでいくことで普及」したという側面がありますので、もしかしたらこのような使い方も規格に盛り込まれていくかもしれませんね。

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