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【100均ガジェット分解】(11)ダイソーの「500円モバイルバッテリー」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです
(2020/06/06)電圧-電流特性のグラフが間違えてUSB充電器のものになっていましたので差し替えしました。

スマートフォンの普及によりモバイルバッテリーも手軽に購入できるようになってきました。今回はダイソーで3000mAhで500円(税別)と格安で販売されている「モバイルバッテリー」を分解します。

■パッケージ表示と製品の外観

パッケージの表示

パッケージは2枚のフィルムを重ねた四方シール袋です。パッケージ表面には2019年2月1日から表示が義務付けられた電気用品安全法(PSE法)の表示があります。

02_パッケージのPSE適合品表示

パッケージのPSE適合表示

パッケージ裏面には「MADE IN CHINE」とともに製造元の「(株)E Core」の表示があります。
(株)E Core: http://e-core2006.co.jp/

03_製造メーカー表示

製造メーカー表示

パッケージの内容

パッケージの内容は本体・USBケーブル・取扱説明書です。
同梱のUSBケーブルは接続が電源(VBUS)とGNDだけの「充電専用」で、最近の高速充電には未対応です。

04_パッケージの内容

パッケージの内容

本体表示

表示は本体への成型となっています。USB出力定格は「DC5V 1.0A」、容量は「3.7V 3000mAh」です。枠内には「PSEマーク」の表示もあります。

05_本体表示

本体表示

■本体の分解

開封

本体ケースは爪による嵌め込み式になっているので、隙間にマイナスドライバー等を差し込みひねって開けていきます。内部はリチウムイオン電池(LiPo)と制御基板で構成されています。

06_本体を開封

本体を開封

LiPoは保護回路は内蔵されていないタイプで本体ケースに両面テープで直接固定されています。両面テープを外すと「606090P」というサイズ表示(6x60x90mm)があります。
容量表示はないのでAliexpressで606090サイズのLiPoを検索すると多くの製品が4000mAhとなっていますので、定格記載の容量「3000mAh」は問題ないと思われます。

07_リチウムイオン電池の表示

リチウムイオン電池の表示

■回路構成と主要部品の仕様

制御基板

制御基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。制御基板の表面の主要部品は「入力・出力のUSBコネクタ」「充放電制御ICと昇圧用インダクタ」「バッテリ保護IC」「2ch POWER MOSFET」です。

08_制御基板_表面

制御基板(表面)

制御基板の裏面はパターンのみで実装部品はありません。GNDパターンの一部はレジストを剥がしてハンダメッキされています。

09_制御基板_裏面

制御基板(裏面)

両面のベタGNDをスルーホールで接続して強化しており、大電流が流れるパターン幅も確保されており、電源回路としては無理のない「きちんとした基板設計」となっています。

回路構成

現物より書き起こした制御基板の回路図が以下です。

10_回路図

回路図

モバイルバッテリの入力(電源をもらって充電される)側は「Device」、出力(電源を供給して外部機器に充電する)側は「Host」として機能します。
「Device」側のMicro USB-Bコネクタは電源(VBUS)とGND以外は接続されておらず、USBの各種充電規格(BC1.2,PD,QuickCharge等)には未対応です。そのためUSB規格上の充電電流はUSB2.0ポートで最大500mA、USB3ポートで最大900mAとなります。
「Host」側のStandard USB-AコネクタはD+とD-が接続(ショート)されているため、USBの充電規格である「BC1.2」の「Dedicated Charging Port(充電専用ポート、以降DCP)」として動作します。この場合規格上で要求される出力電流は最大1.5Aとなります。
本製品の定格は入出力共に「DC5V 1.0A」ですので厳密にはUSBの充電規格を満たせていないということになります。

主要部品の仕様

次に本製品の主要部品について調べました。

● 充放電制御IC(U1) SP4566

11_充放電制御IC

充電制御IC

回路図のU1は「深圳天源中芯半导体有限公司(TPOWER Semiconductor, http://www.tpower-ic.com/)」製の充放電制御IC「SP4566」です。
データシートは以下から入手できます。

http://www.alldatasheet.jp/datasheet-pdf/pdf/1134937/TPOWER/SP4566.html

充放電機能に関する仕様は以下です。本製品の定格はこのICの定格と一致しています。

・充電入力電圧: 最大6.5V(過電圧保護)
・放電出力: 5V±0.2V@1A
・充電電流: 1A
・BAT放電終了電圧: 2.85V
・BAT充電電圧: 4.2V/4.35V(VSELで選択)

以下はデータシートに記載のピン説明の抜粋です。

12_SP4566のピン説明

SP4566のピン説明

LiPoの充放電制御・昇圧出力に加えてLiPoの充電残量のLED表示機能、各種保護機能が統合されたICとなっています。

● バッテリ保護IC(U2) DW01KA

13_バッテリ保護IC

バッテリ保護IC

回路図のU2は「深圳市华之美半导体有限公司(H&M SEMI, http://www.hmsemi.com/)」製のバッテリ保護IC「DW01KA」です。データシートは以下から入手できます。

http://www.hmsemi.com/downfile/DW01KA.PDF

バッテリ保護機能に関する仕様は以下です。

・過充電検出4.3V、過充電解除4.1V
・過放電検出2.4V、過放電解除3.0V
・過電流検出電圧0.15V
・短絡電流検出電圧1.0V
・過電流保護リセット,自己回復機能付き

以下はデータシートに記載のブロック図及びピン説明の抜粋です。

14_DW01KAのブロック図

DW01KAのブロック図

15_DW01KAのピン説明

DW01KAのピン説明

ODおよびOCピンに接続されたFETをON/OFFすることでバッテリ保護動作を行います。詳細な動作はデータシートを参照してください。

● 2ch POWER MOSFET(Q1) GTT8205S

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2ch POWER MOSFET

回路図のQ1は「勤益電子股份有限公司(GTM Electronics, http://www.gtm-elec.com.tw/)製の2ch N-CHANNEL POWER MOSFET「GTT8205S」です。データシートは以下から入手できます。

https://www.alldatasheet.com/datasheet-pdf/pdf/194915/ETC2/GTT8205S.html

以下はデータシートに記載の内部接続の抜粋です。

17_GTT8205Sの内部接続

GTT8205Sの内部接続

このMOSFETはLiPoのマイナス側とGNDの間に接続され「DW01KA」のOD/OCピンでON/OFF制御されることでバッテリ保護機能を実現しています。

■出力電流-電圧特性の確認

本機の充電機能の実力について電子負荷を使って出力電流-電圧特性を測定してみました。
電子負荷はAliexpressで2000円程度で購入できる以下のものを使用しています。

15_電子負荷

Constant Current Electronic Load 9.99A 60W 1-30V: https://bit.ly/33X3f0w

実測した電流-電圧特性を「USB BC1.2」で規定されたUSB充電器に要求される動作領域のグラフに重ねたのが以下になります。

18_電流-電圧特性

出力電流-電圧特性

1台のみの実測結果ですが、「USB BC1.2」では動作が禁止されている領域(上記グラフのグレーの部分)に重なることはなく、充電器としては一応USB規格を満たした動作となっています。1.0Aまでは出力電圧も安定しており製品の定格(5V/1.0A)に対しては問題ありません。
ただし、出力電流が1.2Aを越えた付近から出力電流が急速に低下し、1.4A付近で過電流保護が動作し出力が停止します。
前述したように本製品のUSB出力コネクタのD+/D-は接続されておりUSB充電規格である「BC1.2」の「DCP(最大出力電流1.5A)」として動作する回路構成になっていますので、例えば付属のケーブルではなく通信対応ケーブルで「BC1.2」対応デバイスを接続した場合は保護回路が誤動作する可能性があります。

■まとめ

今回のモバイルバッテリーは「ダイソー以外の日本のメーカーが設計(もしくは企画)して中国で製造」という商品でした。
保護回路も含めて製品の定格に対する回路動作としては問題はないのですが、USB充電規格への対応という面では完全ではないという結果でした。
モバイルバッテリーでいえば最近は中国製でもタブレットの充電等1.0A以上の出力電流に対応しているのを見かけます。
100円ショップ向けでコスト優先ということは理解できるのですが、もし後続の商品が発売された時にはきちんとした設計で「この価格なのにさすが!」と思えるような商品を期待しています。

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