先週、火曜日から金曜日まで幕張メッセで行われた展示会に出るための出張で関東に。ちょうど東京・代々木体育館にてハンドボール女子日本代表の試合が行われており、良いチャンスだったので土曜日延泊し、計2試合を観戦した。

土曜日の試合、雨の降りしきる原宿。ご存知のとおり（？）スポーツを見に行っては写真を撮るのが趣味な僕は、数週間前に購入していた1階アリーナ席のチケットを握りしめ、風雨を耐え忍びながら入場待機列に並ぶ。
お目当ての席は、アリーナ席最前列の角。選手との距離も近く、コートの角に近いため選手の表情を捉えやすい。開門と同時に「走り」にならないギリギリの速度でその席に向かう。そしてなんとかお目当ての席を確保したのだった。

第1試合はスロベニアvsブラジル。最前から見る迫力溢れる試合に、日本の試合でないながらも興奮し、第2試合への期待がより一層高まっていた。

第1試合終了と同時に、遠くから車椅子の男性を押してくる大会スタッフの姿が見えた。嫌な予感がしたのだが、的中。僕の席とゴールを結ぶ線上にその車椅子の男性は場所を構えた。
なんとなく聞こえてくる話や状況から察したのだが、その男性は車椅子なのだが脳性麻痺系の症状も見て取れ、さらには介助の人もいないようだった。二階席の最後列には車椅子観戦席も設けられていたのだが、障害の程度等、事情によってその場所からは試合が見えないということのようであった。

障害のある人の観戦環境を確保することは大事なこと。スポーツ観戦はとても楽しく素晴らしいもので、それが本人の意志によらない事由によって制限されるべきでないと思う。
だがこの時僕は「え？なんで？」という思いにかられていた。
障害によって観戦権利が制限されるべきではないとは思うが、それによって他者の観戦が脅かされてもいけない、もっと踏み込んでいえば「観戦する権利は障害の有無で優遇されるべきでない」と思うからだった。（会場の制限などもあるので究極的な話だが）
僕は決して安くないチケットを買い、交通費は会社支給とはいえ延泊用に高い東京のホテル代を払い、この席を確保するために雨の中並んでここに座っている。ファインダーを覗くとちょうどGKを見る線上にその男性の頭が飛び出ている。
せっかくいい写真が撮れそうな席に座れたのに…なんてことだ…係員に文句言うべきか…そんなことを考えながらタバコを吸いに喫煙所に向かった。

屋外にある喫煙所に出ると、朝からの雨がまだ降りしきっていた。遠くにそびえる摩天楼を背景に、これから始まる日本の試合に合わせて傘をさして入場する人たちが見える。
ふと思った。車椅子の男性はどうやってここまで来たのだろう。それを知る由もなかったのだが、介助の人もいない中、きっと僕より大変な思いをしながら代々木まで来たのだろう。僕にとってもそうだが、彼にとっても同じぐらい、いやそれ以上に見たい試合なのだ。
「前半だけ様子を見てみよう。それであまりにも見えないようだったらそこで初めて係の人に相談してみよう。」
自席に戻る頃にはそんな思いに変わっていた。

結論から言うと、試合が始まるとその視界のことなど全く気にならなかった。

運が良かっただけかもしれないが、車椅子の彼も伸び上がったりすることもなく、運営学生が横についていたが彼らもあまり姿勢を動かさず、写真を後から見ると確かに頭は写っているものの、そのことで感動や思い出が決して損なわれるものでもなかった。
試合以外のことが気にならなくなるほど、熱く心を掴む試合を見せてくれた選手たちのおかげでもある。
試合が始まってから気づいたが、彼も自前のタブレット端末で写真を撮りながら楽しんでいたようだ。

無論、今回のようにならず、前にいる人によってせっかくの視界が遮られてしまうことはあり得ることで、実際に僕も経験はある。
だから「こういう時は文句を言わず我慢しましょう」ということが言いたいのではない。
ましてや撮影が仕事の人とかであれば尚更死活問題であろうし、他人がどう思うかどう言うかを僕が決めるものでもない。

だけど、今回は僕の中に宿った「譲れることはないだろうか」という気持ちを大切にしたことで、結果嫌な思いをする人を誰一人生まなかった。
このことは僕のこれからに選択肢を増やしてくれた。視界が広がった。

日本代表の試合が終わり、選手がミックスゾーンを通りロッカーへ引き上げていく。僕らの席はそのミックスゾーンのすぐ横だった。
ふと目をやると、車椅子の彼が楽しそうに嬉しそうに多田選手と話をしている。選手もいい笑顔だ。
良かった。
試合は負けこそしたのだが、まだ雨が降りしきる中、どこか晴れやかな気持ちで帰路についた。

熱くなれるスポーツ、ハンドボール！

女子日本代表が世界の頂点を目指す「2019女子ハンドボール世界選手権」が11/30(土)より、熊本にて開催！
https://japanhandball2019.com/

ハンドボール日本リーグ、JHL！
男子は7月〜すでに開催中！熱い戦いが各地で繰り広げられています。
女子はいよいよ年明け1月〜開催！
http://www.jhl.handball.jp/

皆さんのお越しをお待ちしています！（何者）