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女性ボーカルによる'70s-'00s Jポップ&Jロック・カバー曲プレイリスト

僕はわりとカバー曲が好きで、CDを買ったり借りたり、ダウンロードしたりで、けっこう膨大な数の楽曲を保有している。だいぶ前になるけれど、カバー曲に関するコラムみたいな記事を書いたこともある。

そんな中で、なんとなくの気分から、1970年代から2000年代のJポップ&Jロックの有名な曲を女性ボーカルがカバーしている曲のプレイリストを作ってみた。(*なお、男性編はこちら

選んだ基準としては、なんらかの主張や独自の解釈が聞き取れるものとした。オリジナルに忠実なコピーや、単に弾き語りで歌ってみましたこんなアレンジで演奏してみましたという風な曲は、原則として選出していない

多くの人から知られていそうな楽曲のカバーを選ぶようにしたが、もちろん僕の趣味嗜好に依る一定の偏りは存在している。

以下に、オリジナル楽曲のリリース年順に、簡単な紹介とともに列挙していく。

■ 風をあつめて(玲葉奈)

・オリジナル:はっぴいえんど(1971年)
アコギがフィーチャーされたバンドアレンジ。アコギのフィンガリング・ノイズが「摩天楼の衣擦れ」のよう。ややブルージーなボーカルもよい。
2001年リリースの同名シングル、2002年リリースのアルバム『Niji』に収録。2010年リリースのコンピレーション盤『はっぴいえんどに捧ぐ+』にも収録されている。

■ ひこうき雲(小谷美紗子)

・オリジナル:荒井由実(1976年)
バンドアレンジ。ギターは田渕ひさ子(Number Girl、Bloodthirthty Buctchars、toddle)。リズム隊とギターのアンサンブルが最強。強さとイノセントを併せ持つボーカルもすごくよい。
2003年リリースの『feather』に収録。2009年リリースのコンピレーション盤『Shout at YUMING ROCKS』にも収録されている。

■ 翳りゆく部屋(椎名林檎)

・オリジナル:荒井由実(1976年)
序盤はまあまあ原曲に近いが、後半は林檎的ロックの世界に突入。圧巻はサビの「輝きはもどらない」での「ら」の巻舌。
1999年リリースのコンピレーション盤『Dear Yuming』、2002年リリースのコンピレーション盤『Queen's Fellows』に収録。

■ スローバラード(J-Min)

・オリジナル:RCサクセション(1976年)
オーソドックスなカバーだが、儚げなクラシックギター(たぶん)の響きが効いている。「悪い予感のかけらもないさ」の歌唱が痛切。
2008年リリースの『The Singer』収録。

■ 夢想花(北村早樹子)

・オリジナル:円広志(1978年)
ピアノ弾き語り。サビの「とんで、とんで、とんで・・・」を、あえて原曲に反してカタルシスを封印して歌いきる批評性がすばらしい。
2010年リリースの『明るみ』収録。

■ 狼になりたい(小谷美紗子Trio + 100s)

・オリジナル:中島みゆき(1979年)
バンドアレンジ。リズム隊のグルーヴが楽曲を強力にドライブし、繰り返されるキーボードのリフも味わい深い。狼になれない男の弱々しい「ビールはまだか」の叫びは原曲に負けずにリアル。
2006年リリースのコンピレーション盤『元気ですか/カバー・バージョン集』収録。

■ 流星(手嶌葵)

・オリジナル:吉田拓郎(1979年)
消え入りそうなボーカルに、ピアノとストリングスが寄り添う。間奏のバイオリンソロが美しい。原曲の熱い歌唱と泣いてるギターに対しての、歌声と弦楽の繊細さが、“真逆“の魅力。
2011年リリースの『Collection Blue』他に収録。

■ 守ってあげたい(CHARA)

・オリジナル:松任谷由実(1981年)
オルガンとアコギ中心のバラード・アレンジ。甘えるようなスモーキーな声で「守ってあげたい」と歌うCHARAボイスがやさしい。
2009年リリースの『breaking hearts』収録。

■ 多摩蘭坂(矢野顕子)

・オリジナル:RCサクセション(1981年)
盟友でもある清志郎の名バラードを、自在に操られたメロディで歌う。ボーカルとセッションしている不思議な音色の楽器は何だろうと調べたら、テルミンとオンド・マルトノという電子楽器だった。
2013年リリースの『矢野顕子、忌野清志郎を歌う』収録。

■ サムデイ(矢野顕子)

・オリジナル:佐野元春(1982年)
ロッカバラードの名曲をピアノ弾き語り。こちらもメロディとリズムを自在に操り、別の曲のようだがしかし「サムデイ」でしかないというミラクルなカバー。
1992年リリースの『SUPER FOLK SONG』収録。

■ I Love You(小島麻由美)

・オリジナル:尾崎豊(1983年)
ピアノで鳴らされるコードに、途中で入ってくるドラムとチェロとシンセが、不穏で不安な世界を醸し出す。原曲のもつセンチメンタルを突き抜けて脱構築するカバー。
2015年リリースの『Cover Songs』収録。

■ シェリー(小島麻由美)

・オリジナル:尾崎豊(1985年)
どうしたって感情過多になる絶唱系バラードを敢えてチープな音色でアレンジ。リコーダーとトイピアノだろうか。悲しげな脱力系の脱構築カバー。
2015年リリースの『Cover Songs』収録。

■ 人にやさしく(たなかりか)

・オリジナル:ブルーハーツ(1987年)
ピアノ弾き語り。パンクロックをアコースティックにジャジーに弾き語るアイデア自体は珍しくはないが、これだけ歌に力があると、そんなことはどうでもよくなる。すばらしい。
2016年リリースの『Japanese Songbook 2』収録。

■ 少年の詩(今村つばさ)

・オリジナル:ブルーハーツ(1987年)
ブラジルでも活動するSSWによる、ポルトガル語カバー(一部は日本語のまま)。アコギとエレピによるスローな切ないバラードとして生まれ変わっている。日本語で歌われる「そしてナイフを持って立ってた」が美しく響く。
2018年リリースの『TSUBASA』収録。

■ 空がまた暗くなる(今村つばさ)

・オリジナル:RCサクセション(1990年)
同じくポルトガル語のアコースティックなバラードとしてアレンジされた、RC後期の名曲。日本語で歌われる「子供の頃のように さあ 勇気を出すんだ」のフレーズが切ない。
2018年リリースの『TSUBASA』収録。

■ 空がまた暗くなる(大竹しのぶ)

・オリジナル:RCサクセション(1990年)
アレンジは原曲に近いが、この声で力強く歌われると、清志郎とは違った説得力が生まれる。それを「母性」といってしまうのは少し粗雑な感想かもしれないが。back numbeの清水依与吏とのデュエット。
2014年リリースの『歌心 恋心』収録。

■ Colour Field / 青春はいちどだけ(一十三十一)

・オリジナル:フリッパーズ・ギター(1990年)
ひねくれた若者二人組による美しい「青春ソング」を、よりシンプルにアコースティックにカバー。原曲を(よい意味で)解毒した、ピュアでセンチメンタルな青春ソング。
2009年リリースの『Letters』収録。

■ 夏の魔物(小島麻由美)

・オリジナル:スピッツ(1991年)
アコースティックでスローな「夏の魔物」。鳴ってるのはスチールギターだろうか。原曲の草野は「ドブ川」の「ド」にアクセントを置いて苛立ちを歌ったが、小島のボーカルはそこはフラットで、諦念を歌ってる。
2002年リリースのコンピレーション盤『一期一会 Sweets for my SPITZ』収録。前出の小島のアルバム『Cover Songs』(2015年)にも収録。

■ いかれたBaby(角銅真実)

・オリジナル:フィッシュマンズ(1993年)
ピアノのトリルを鳴らし続けしながら、夢の中にいるような消え入りそうな声で歌う。まるでダブ・エンジニアのいないダブ・ミュージックのよう。
2020年リリースの『oar』収録

■ 月の爆撃機(中山うり)

・オリジナル:ブルーハーツ(1993年)
心地よい響きのスチールギターが印象的。「爆撃機」の飛ぶ「戦場」の極限の緊張を描いた歌詞を、原曲はポップなビートパンクナンバーとして演奏したが、このカバーではそれをさらに進めて、あえてゆるゆると、一片の不安もないように歌ってみせるという狂気じみた批評性が凄い。
2020年リリースの『11』収録。

■ ぼくらが旅に出る理由(倍賞千恵子)

・オリジナル楽曲:小沢健二(1994年)
オザケン「王子期」のポップチューンを、この人ならではのまっすぐな声でカバー。原曲よりもメッセージの純度が高まっているようにさえ聞こえてくるのは、この役者の人生がにじみ出ているからか。
2015年リリースの『GAMBA (Original Motion Picture Soundtrack)』収録。

■ 流れ星ビバップ(たなかりか)

・オリジナル楽曲:小沢健二(1995年)
原曲の、ビバップのリズムのポップチューンを、ベースのルート音の上でアカペラに近い歌唱で歌う1コーラス目、ドラムとギターが入ってのインプロビゼーションぽい間奏を経て、2コーラス目は思いっきりスイングしたボーカルが最高にかっこいい。
2012年リリースの『Japanese Songbook』収録。

■ 世界の終わり(秋山羊子)

・オリジナル:ミッシェル・ガン・エレファント(1996年)
不穏なピアノのトレモロで始まる「世界の終わり」。原曲の、世界にガンを飛ばすようなチバのボーカルとは違う、ムンクの絵から聞こえてきそうな唸りの声。
2012年リリースの『日々はありふれていて残酷で めちゃくちゃに愛おしくて時々ひどく退屈で でもうたいつづけていたい』収録。

■ 悲しみの果て(正山陽子)

・オリジナル:エレファントカシマシ(1996年)
けだるそうに歌われる「悲しみの果て」。リズム隊+ギター+ピアノの編成によるブルージーなアレンジもハマっている。
2016年リリースの『Sing&Sparkle~たびだちの歌』収録。

■ 流星ビバップ(柳田久美子)

・オリジナル楽曲:小沢健二(1997年)
ややこしいのだけれど、オザケンは1995年リリースの「流れ星ビバップ」をアレンジ違いで1997年に「流星ビバップ」としてリリースていて、このカバーは、1995年リリース版の正統な「ビバップ感」をさらにパワフルにした強力ポップチューン。力強いボーカルは原曲以上。
(つまり、たなかりかの「流れ星ビバップ」は97年の「流星ビバップ」に近くて、柳田久美子の「流星ビバップ」は95年の「流れ星ビバップ」に近い。)
2007年リリースの『春の風』収録。

■はじじまりは今(三浦透子)

・オリジナル:エレファントカシマシ(1998年)
浮遊感のある音色のちょっとアンビエント風味な打ち込みアレンジ(たぶん)が、この役者の唯一無二の声にドンピシャ。大ラスのサビの転調が、心地よいカタルシス。
2017年リリースの『かくしてわたしは、透明からはじめることにした』収録。

■ 深夜高速(湯川潮音)

・オリジナル:フラワーカンパニーズ(2004年)
ピアノと弦楽器によるアンサンブル。所在無げな弱々しい声が、深夜の高速道路を時速30キロで飛ばしてるみたいな寂寞感。
2009年リリースのコンピレーション盤『深夜高速  - 生きててよかったの集い』収録。

■ 夢で逢えたら(麻生久美子)

・オリジナル:銀杏BOYZ(2005年)
アコギのストローク中心の、上質ポップソング風アレンジ。少し鼻にかかった声で「君の胸にキスをしたら 君はどんな声だすだろう」ってつぶやくとかほとんどチート。峯田の抱えるエロスとタナトスがポップに昇華されてる感じっていえばいいか。
2016年リリースのコンピレーション盤『きれいなひとりぼっちたち』収録。

■ 夢で逢えたら(山根万理奈)

・オリジナル:銀杏BOYZ(2005年)
アコギ弾き語り。峯田が女性に生まれ変わって歌ってるみたいなカバー。この声のリアリティは、いったいどこからきてるんだろう。
2011年リリースの『ざっくばらん』収録。


■番外編

ここから2曲は、冒頭の「条件」からは外れてる番外編。

■ ええねん(阿部真央)

・オリジナル:ウルフルズ(2003年)
原曲にほぼ近い、コピーといってもいいようなド直球カバー。にもかかわらず、とんでもなく最高。圧倒的なポジティブさを備えた、爆走する人生肯定ソング。
2017年リリースのコンピレーション盤『ウルフルズ Tribute ~Best of Girl Friends~』収録。

■ GOOD DREAMS(YASUKO 〈=micc, 笹生実久〉)

・オリジナル:ルースターズ(1984年)
原曲はあまり知られてないだろうし、アレンジも基本的に原曲のコピーに近いのだが、(僕にとっては)最高のカバーソング。精神的にヤバい状態だったルースターズのボーカル大江慎也が追い詰められながら追い求めていた「GOOD DREAMS」を、こんな夢心地のような声で歌われちゃったら、もう泣くしかない。
2008年リリースの『下北沢北口、銀行前にて(OST)』収録。

*付記(蛇足)
選んでみたら、思いのほか、(女性の)俳優によるカバーソングが多かった。楽曲のプロデュースワークに依るとこも大きいだろうけれど、そもそも俳優って日頃から他者の作った脚本の役を演じているわけだからなんだろうなっていう、新たな発見があった。


〈了〉

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