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そらとうちゅうとつぶつぶ

宇宙の神秘は古来から人間を魅了してきた。それゆえ天文学は、自然哲学の中でも昔からある学問のひとつである。一方で、天気の話は私たちに身近な現象であるがゆえに、さほど神秘的には感じられないかもしれない。しかしながら、天気予報が一年後の未来を見通せないように、そこには別種の神秘が潜んでいる。今回は、宇宙と天気に関する話である。

粒子の大きさと数の違い

ノーバート・ウィーナーは著書「サイバネティクス」の第1章で、天文学(宇宙)と気象学(天気)を対比している。天文学は時間の可逆性があり、気象学では時間は非可逆性があると説明する。

例えば、天体の動きが過去から未来にわたって予測可能で、現在の状態から過去に遡ることで数万年前の状態もある程度正確に把握できる。一方で、天候は現在の状態がわかったとしても、それをもとに過去や未来の状態を予測することは容易ではない。

この違いは、粒子の大きさと数が要因である。例えば、太陽系は、星々を大きな粒子とみれば、数個の粒子で構成されている系と考えられる。それぞれの星の間の距離はその星々の直径に対して十分に離れているので、星を質点としてみなすことで扱う問題はかなりシンプルになる。それに対して、大気中は、同じような大きさの無数の粒子が複雑に相互作用している系である。温度や気圧といった要因でこれらの粒子の挙動は刻一刻と変化し、粒子ひとつひとつをすべて正確に追うことはほとんど不可能である。

このように、身近な現象である天気の予測が、いかに複雑な問題なのかが語られる。本題から逸れるので言及しないが、この導入からウィーナーは、決定論的な世界観から統計的なものの捉え方への転換を示し、統計力学の説明へと繋げていく。

10万年前の気候を知る方法

天気の予測や過去へ遡ることが難しいことはわかった。では、それでも太古の地球の天候が知りたい場合はどうすればいいのか?

その方法は実測しかない。そこで、奇跡的な条件下で湖の底に推積した物質から、丹念に過去の気候を調べる方法がある。中川毅著「人類と気候の10万年史」では、10万年というスケールで地球の気候を明らかにする試みについて紹介している。

本書では、先に述べたような気候の推測が難しいことも説明した上で、太古の気候を調べる具体的な方法として、福井県の水月湖でのボーリング採取について紹介している。そして、そこで得られた推積物から考えられる過去の天候の様子を丁寧に説明してくれる。

やや専門的な記述はあるが、基本的なことは適宜説明してくれるため読みやすい。現在、巷でいわれている地球温暖化といった気候変動に関する素朴な疑問に対して、人類史以前の時間幅で俯瞰する視点は、スケールの大きさとあわせて納得感を与えてくれる。

天気を知る術が、湖の底に眠っているというのは興味深い話である。

宇宙を視る方程式

宇宙の話題に移ろう。

天文学と物理学は深く結ばれている。天体の動きを理解するために物理学は発展し、物理学によって天文学もまた進歩する。そんな宇宙や物理を語る上で、アインシュタインが発見した相対性理論は欠かせない。

真貝寿明著「ブラックホール・膨張宇宙・重力波」では、一般相対性理論そのものについての説明からはじまり、そこから導かれる物理現象として、ブラックホール、膨張宇宙、重力波研究の100年を俯瞰する。

この本では、一般相対性理論の発表に至るまでのアインシュタインの生い立ちも紹介される。特許局で働いていたことは知っていたが、就職浪人で生活が大変であったことは知らなかった。8時間の勤務と8時間の睡眠、残りの8時間を研究と家族のために使う規則正しい役人生活を送っていた点も印象的である。

アインシュタインが発見した一般相対性理論から導かれるブラックホールという現象は、私たちの普段の常識からは考えられない現象である。本書では、アインシュタイン方程式の解の発見や天体の寿命に関する議論といったさまざまな話題が、理論と実践が相互に影響を与えながら進展していく様子が丁寧に説明されている。私が本書について多くを語れないのは、私の理解が不十分だからに他ならないので、興味があれば本書にあたってほしい。

天体の問題はシンプルに考えられると前述したが、シンプルであることと理解可能であることは一緒ではないし、アインシュタイン方程式に関してはシンプルでもない。そんな敷居の高さもある種の魅力かもしれない。

おわりに

宇宙と天気についての話題は奥深いので、その一端を説明するだけでも発散的になってしまう。今回は、私が最近読んだ一般向けの書籍の紹介にとどまるが、今後も何か書ければと思う。

天を仰げば、空も雲も星々もそこにある。
手を伸ばしても決して届かないけれど、すぐそこにあると感じる。

たまには息抜きに、身近なようで何万年ものスケールをもつことに考えを巡らせても良いのかもしれない。


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