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#104 アナウンサーはいかにして言葉を自在に紡ぎ出しているのか

元々9年間アナウンサーをしていました。スポーツ実況はしたことがないのですが、報道の現場では星の数ほど中継をしてきました。

やはり力量が問われるのは、発生したその瞬間、走って行くこともありますし、ヘリコプターに乗って行くこともありますし、とにかく目の前で何かが起きている。それをどのようにして、解説・説明していくのか。特に中継中に物事が起きたときに、どのようにして言葉にしていくのか。

友達に聞かれたんです。「ああいうときは、何秒先のことを考えて喋ってるの?」と。

つまり、目に見えてる事象を何秒先のこととして処理しているのか。何秒先のことを考えて喋ってるのか。

これ、聞かれるまで考えたことがありませんでした。考えてる時間なんてないです。それは言われてみて初めて気がつきました。目の前で今起きていることはもう目に入った瞬間、言葉となって出てきています。これは慣れなんです。

例えば、僕その時に1. 5秒か2秒ぐらいかな、と思ったのですが、いやいやちょっと待ってよ、と。2秒待ってたら競馬実況の場合は、馬はもうゴールしてますからね。違うんです。目の前に入っているものを瞬時に、見た瞬間に、言葉として出している。

1秒まっていたらゴールしている!

もう本当に慣れ、訓練でしかないんですよね。ただ、言葉の蓄積というものが頭の中に必要です。

ヘリコプターで災害現場行きますよね。上空から中継していると、眼下で救助活動をしているのが、例えば自衛隊員なのか、消防隊員なのか、はたまた警察なのか。さらに上空を飛びかっているヘリが、警察のヘリなのか、消防のヘリなのか、自治体のヘリなのか。そういったものは何度も何度も現場に足を運ぶく過程の中で記憶されていくんですね。

すると、今目の前に飛んでるのは消防のヘリだ、下を見てみると2階建ての家屋の1階部分が完全に水没している、こうした目に入る映像が直ちに言葉となって口から出てくるのです。

だから慣れと記憶、この二つが組み合わさって瞬時に言葉が出てきています。

最もらしいことを言っていますが、今回の記事を書く際に考えた結果、僕の頭の中はこうなっていたのだな、と冷静に思いました。

キャッチーなワードを覚えておく

皆さんの生活の中で、なかなか実況をする、ということはないと思いますが、一方で記憶といえば、例えば飲みの席、仕事などどのようなシチュエーションでもいいのですが、その人と話している流れの中で出てきた「キャッチーなキーワード」があったとしますよね。それを、ずっと覚えておくんです。

そして、30分後とか1時間後とか、その同じ人と話をしているときに「そういえば、こう言ってましたよね」みたいな形でパパっと出てくる、その引き出しがさっとすぐ開くことができる。これも、一つの手なのでは、と思っています。

例えば具体的な事例で言うと、結婚式の司会のときの話なのですが、新郎新婦の生い立ち、馴れ初めなどを事前に聞いています。そして、それをもとにプロフィールを書きます。その方は、新婦さんが高校生の時に、ゴルバチョフさんが大好きだったんですね。なかなかキャッチーじゃないですか。これまでに80組ぐらい結婚式の司会をしてきましたが、ゴルバチョフさんが好きだった、という方はあとにも先にもその女性のみでした。

当然プロフィールの中に入れていきます。

これはつかみですね。少々ゴルバチョフさんには申し訳ないのですが、真面目な空気の流れの中で「高校生の時の憧れはゴルバチョフ」これで、はじめにドカンと笑いをとります。はじめに笑いをとると、その後も僕の話を聞いてくれるようになるんですね。この後どう展開していくんだ、と。

そして、そういうキャッチーなフレーズを覚えておきます。一時間、一時間半、と披露宴が進んでいきますよね。やがてご来賓の挨拶をいただくときに、どことなくその方がゴルバチョフさんに似ていたとしたら「どことなく、ゴルバチョフさんに面影が…」みたいな感じで出すわけです。するともうひと笑い取れるわけです。


よく言われます。「よくそれを覚えてたね」「よくその話が今出てくるね」と。引き出しをすぐささっと出すことができる。こればかりは、意識しないと駄目ですね。

だから、何気ない会話なのですが、ここちょっと面白いなとか、この話はまた使えそうだな、というのをすぐ引き出すことのできるようにしておくわけです。

心をつかめると同時に、相手の人もこんなに真剣に聞いてくれていたのか、と思ってくれます。アナウンサーのテクニックというよりも私自身の、話し方というか、接し方ですね。こんなふうにして言葉を紡ぎ出しています。

(voicy 2022年11月12日配信)

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