ゴルフ5の記憶

8代目ゴルフが漸く日本でローンチされ、多くのメディアが取り上げている。

こんにちの最新型ゴルフまで引き継がれる様々な技術の多くは5代目ゴルフからのキャリーオーバーだ。

そんな5代目ゴルフの記憶を辿る。

4代目ゴルフ

ゴルフ5登場の背景を語るなら、その前の4代目ゴルフがどんなクルマだったのかを知る必要がある。

1990年代末にリリースされたゴルフ4は、ゴルフならなんでもベタ褒めな日本のジャーナリストとは裏腹に、欧州では低評価で迎えられていた。

当時フェルディナントピエヒ会長主導の元、VWは高級路線に突き進んでいた。メルセデスSクラスをターゲットにながら大失敗したフェートンがわかりやすい。

そんな中4代目ゴルフが登場する。

内外装デザインや建て付けを改善。
大幅に高品質化された内装は3代目ゴルフとは比べ物にならないほど上質。ボールベアリング入りのスムースなシートレールなど、このクラスでは考えられない内容だった。

しかし、シャシー能力は後退。
初代アウディA3と共用のプラットフォームは、リアトーションビームサスペンションの構造を簡略化。特殊な円錐形ブッシュを使用する3代目ゴルフから、単純な円筒型として能力を下げた。
スタイル重視で低めのルーフに、高級シートで室内高も低い。

要はみんながイメージする高性能な実用車から低性能な高級車へ変わったわけだ。

ピエヒの為のゴルフ、と揶揄された。

そして、ゴルフ4登場と同時にとんでもない新星が現れる。

フォードフォーカスだ。
欧州フォード渾身の出来であるこのクルマ。
このクラス初のマルチリンク式リアサスペンションを採用。走りや使い勝手を追求したクルマ作りは、ゴルフ4と真逆。

そして、それは誰もがイメージする従来のゴルフそのものなのだ。

当然の如くフォーカスは欧州カーオブザイヤーを受賞し、販売台数もゴルフを上回った。

フォーカスは絶対王者のゴルフに土をつけたのだ。


さすがにVWはこの状況を放置していたわけでなく、年次改良でブラッシュアップして猛追。
カタログスペック重視のDOHC5バルブエンジンを止め、実用的なSOHC2バルブエンジンへ。

追って登場したセダン版のボーラの走りは一定の評価を得た。

後期にはR32やボーラV6 4モーションと言うVW虎の子の3.2L VR6にハルデックス製電子制御4WDを実装した高性能モデルが登場。

一応面目を保てる状況ではあった。

しかしだ。

次のゴルフはもうこんな失敗はできない。

VWはいつの時代もゴルフが看板なのだ。
何があっても土が付いてはいけない。

そんな状況で、ゴルフ5が登場する。

5代目ゴルフ

ゴルフ5は入魂の新設計のプラットフォーム、PQ35が適用された。現行MQBの前身だ。

PQ35はトゥーランや2代目アウディA3やTTだけで無く、その兄弟車セアトトレドやアルテア、シュコダオクタヴィア、そして上級のパサートまで、合計年間200万台をカバーするプラットフォームである。

リアサスは4リンクと呼ばれるダブルウィッシュボーン派生マルチリンクとなった。
ロアアーム2本、アッパーアーム、トレーリングアームの4要素で構成される。

よくよく見ると、そう。
フォードフォーカスのリアサスと相似形だ。
(なのでフォードと共同開発したアテンザ/アクセラ以降マルチリンクを採用する現行マツダ車とも同じ。余談だがトヨタTNGA GA-Cもコレ。)

一説にはVWはフォードの設計者を引き抜いたらしい。

どんな手を使っても王者は負けてはいけないのだ。なりふりなんぞ構ってられない。

このサスペンションはMQBプラットフォームの8代目ゴルフ上級版も基本的に同じである。

ガソリンエンジンはDOHC直噴化。
FSIと名付けられたそれら日本仕様は1.6Lと2.0Lが用意され、アイシンAW製6速ATが組み合わされる。

そして日本仕様はマイナーチェンジでエンジンが一新される。今やVWお馴染みのTSIだ。

最初に投入されたGT TSIは1.4Lにスーパーチャージャーとターボの組合せ、俗に言うスーパーターボの170馬力版だ。

そして変速機も今やVW主流のツインクラッチ式自動変速機のDSG。
6速湿式のDQ250が適用された。
(DSGは2LターボのGTI及びGTX、アウディA3クワトロ等で先行導入されており、GT TSIが初見ではないが)

その後ターボ過給圧を下げた低出力140馬力版(コンフォートライン)、ターボのみの122馬力版(トレンドライン)が追加され、通常モデルのラインナップは全てTSIとDSG構成となる。

ボディは全高を上げて着座構成を見直し、リアサスの構造変更によりトランクルームも広がっている。

また、パワステも電動化。高級なダブルピニオン式電動パワーステアリングは最新のゴルフ8も同様だ。


つまりゴルフはこの5代目で大改変し、現在の8代目ゴルフへとつながるのである。

5代目ゴルフ試乗記

ゴルフ5は2台ほど乗った経験がある。

1つはマイチェン後のGT TSI。コレは登場直後にディーラーで試乗した。

いやはや、乗って驚いた。予想以上に速い。
1.4Lにも関わらず低速から余裕の加速。

丁寧なアクセルワークでゆっくり踏むとスーパーチャージャーが稼働せず燃費重視だが、メリハリ付けて踏むと即スーパーチャージャーが稼働する。

DSGは通常ATの様なスリップは無く、エンジンとの連携も素晴らしい。
加速のリズムが非常に良い。

ずっとマニュアル車しか所有してこなかった当方でも、コレは欲しくなった。


もう一台は前期型1.6LのEだ。
免許取立てお嬢さん向け中古車。

クルマ選びのアドバイザーに任命された当方は、多くのクルマが見れるみなとみらいの中古車展示場に案内した。目標予算は100万円少々。

そこにあったVWゴルフがたいそうお気に入りとなったが、そのクルマはゴルフ5最終型のGTI ピレリと言う限定車。350万円。
「やっぱゴルフは高いよね〜」と。
いやいや、コレは特別過ぎるから。

普通のゴルフ5前期型なら沢山ありますよ、とすぐさまカーセンサーで検索。

ディーラー認定中古車に1.6LエンジンのゴルフEを発見。少し予算オーバーだが、保証付きディーラー販売車は貴重だ。

納車された5年落ち2万キロの車体は認定中古車らしく徹底的にクリーニングされ、車内は新車の匂いがする。タイヤは4本とも新品ミシュランに交換されていた。ナビは最新ケンウッド彩速ナビに入れ替え。コレで2年のディーラー保証付き総額120万円ほどはどう見てもお得だった。

お嬢さんもたいそうお気に召された様だ。

乗り込んでみると、シートサイズ、形状も適切。しっかり身体を預けられ、ポジションもキチッと決まる。

メーター内インジゲーターはアンバーだが、ライトオンでメーター文字は青、針は赤照明と言う、ゴルフ4と同様派手目だ。
コレ、刺々しくて好きじゃない。


116馬力1.6Lガソリンエンジンに車重1320kgは、走り出すとさすがに重い。
トルコンのトルク増幅効果をうまく引き出す必要がある。ワンテンポ早目にアクセルを踏み込まないと充分な加速力を得る事ができない。

よくヒョーロンカが口にするドイツ車エンジンは低速トルク重視な上にDIN規格表示なので日本車よりずっとハイパワー、なんてのは大嘘である。スペック通り、しっかり遅い。

とは言え、コツさえ掴めば速い流れに乗る事はできる。

低速トルクこそ不足気味だが、回し気味に走れば素直にパワーは出てくる。意外に高回転域でパワーはタレないし、アイシン6速ATの変速も速いのでメリハリ付けたアクセルワークでパワーを引き出す事はできる。

そう言う意味ではスポーティーと言えなくも無い。個人的にはなかなか楽しいクルマと言う印象だ。

ただ、免許取立てのお嬢さんにはなかなかハードルが高い。
慣れない運転では加速判断が常に遅れる。
緩い坂道が多い街中では終始後ろのクルマに煽られ気味になる。

逆に流れの速い幹線道路や高速道路は全然平気。水を得た魚のようにスイスイ走る。

新しいミシュランの15インチタイヤも手伝って、乗り心地やフィールは非常に良い。終始穏やかに走る。

なるほど、コレは完全に玄人向けだ。

ご本人の希望と予算で1.6LのゴルフEにしたが、無理してでも2LのGLIかGTにしておけば良かったと当方後悔した。

後日、走行中路上停止してしまったとの報告を受けたこのゴルフE。
保証期間の為レッカーも修理も無料だった様だが、残念ながらその後程なくして手放されたとの事。

大変申し訳ない事をした。

苦い11年前の思い出。

さて、ゴルフ8はどう進化したのだろうか。
機会があれば試乗してみたい。

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