マツダ CX-5 試乗記

1.はじめに

自家用車を買い換え、すっかりクルマへの興味が無くなってる今日この頃。

盆に名古屋でクルマ移動しなければならない用事ができた。
本来なら新たに配備したC5で名古屋に行くべきだろうが、渋滞予測を見て尻込みし、早々に新幹線チケットとレンタカー手配を済ませた。
レンタカーはCX-5に空きがあるようだ。ディーゼル、ガソリンの指定はできない上に状況によってはエクストレイルに変わるかも知れないが、マーチやヴィッツに千円少々プラスでCX-5なら迷う理由はないだろう。

という事で、試乗記と言いながらレンタカー借りてみましたと言うレベルのインプレッションである事をご了承いただきたい。

2.マツダのSUV


過去、マツダのSUVは北米向けにプロシードマービーという小型トラック派生SUV、所謂ハイラックスサーフの様なモデルを作っていた(今も北米では大型化されて販売されている)。

その後、2000年に乗用車プラットフォームベースのトリビュートをリリース。これはフォードエスケープの兄弟車であり、最近流行りのクロスオーバーSUV、CX-5の先祖と言える。

その後継として日本ではMPVベースのCX-7を2006年にリリース。CX-7はクロスオーバーSUVに2.3L直噴ターボエンジンを組み合わせ、スポーティな外観と共になかなか面白そうなクルマではあった。

なぜか多くのメディアはトリビュート、CX-7の事は黒歴史のごとく葬り去り、これらの後継車であるCX-5はブランニューカーとして伝えている。
広告代理店の方針だろうか。

初代CX-5は2012年にリリースされ、現行CX-5は2代目だ。
ご存知の方も多いかと思うが、初代CX-5はマツダ初のフルスカイアクティブ車というのが謳い文句だ。
何がフルなのか、という議論は面倒なので傍に置いておき、大きなトピックは新型ディーゼルエンジンだろう。

3.スカイアクティブD

欧州市場で一定のシェアを持つマツダは以前からディーゼルエンジンに力を入れていた。
5代目カペラ時代にはPWS(プレッシャーウェーブスーパーチャージャー)と言う排気管圧力を利用した過給器付きディーゼルエンジンを搭載していたし、その後のカペラ(626)やアテンザ(マツダ6)も欧州向けには高性能コモンレール方式ターボディーゼルエンジンを用意していた。
何もスカイアクティブで突然ディーゼルエンジンが出てきたわけではなく、マツダ的には連綿と正常進化させてきたわけだ。日本で大して売ってなかっただけで。

さて、鳴り物入りで登場したディーゼルエンジンのスカイアクティブDは何がすごいのか、だ。
技術的な話の前にその背景を。

マツダは元々欧州マーケットで評価を得ていたが、それは比較的廉価なクルマと言うポジションだ。なので他の欧州車より販売価格を抑える必要がある。
すると元々高コストになりがちなディーゼルエンジンを欧州各社と同じ仕組みで作っていては競争力が落ちる。

どうすればディーゼルエンジンのコストを抑えられるか。

1つは構成部品についてのコストを下げるとこと。
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの違いは圧縮比である。ガソリンエンジンは火花パチっといれて点火させるが、ディーゼルエンジンは圧縮した際の断熱圧縮による温度上昇で点火させる。なもんでディーゼルエンジンは圧縮比を高くする必要があり、高い圧縮比に耐えられる様丈夫にしなければならない。
もし圧縮比をガソリンエンジンと同レベルまで落とせれば、ガソリンエンジンと設計共通化できる。

もう一つは排ガス処理装置のコストを下げること。ディーゼルエンジンの排ガス処理装置は高コストであり、なんらかの方法でクリアしたい。

この辺りをどう解決していったのか。

ここでスカイアクティブよりも前のディーゼルエンジンと比較してみる。

スカイアクティブの前、マツダはMZR-CDと言うディーゼルエンジンを欧州向けアテンザに搭載していた。
この最終形であるMZR-CD 2.2L版とCX-5搭載のスカイアクティブD2.2と比較してみる。どちらも直列4気筒だ。

スカイアクティブD2.2 | MZR-CD2.2(2008年登場)
排気量:2188cc | 2183cc
動弁:DOHC4弁 | DOHC4弁
エンジンブロック素材:アルミ合金 | 鋳鉄(シリンダーブロック),アルミ合金(クランクケース)
過給器:シーケンシャルツインターボ | シングルVGターボ
ボア・ストローク:86mm・94.2mm | 86mm・94mm
圧縮比:14.0(マイチェン後14.4) | 16.3
最高出力:175ps(マイチェン後190ps) | 185ps
最大トルク:420Nm(マイチェン後450Nm) | 400Nm
対応排ガス規制:Euro6 | Euro5
排ガス浄化装置:DPF | DPF

こうして見てみると、旧型であるMZR-CDもかなりの高出力型でありスカイアクティブDと比べて決して劣っていない事がわかる。
また圧縮比も16.3と、この当時として比較的低圧縮比なディーゼルエンジンなのである。

実は旧型MZR-CDは2.2L化した際に動弁系をDOHC化(以前の2.0LはSOHC)し、圧縮比を下げた事で高出力かつムービングパーツの軽量化と、インジェクターの高圧化(1800barから2000bar)と噴射制御(先吹き、中吹き、後吹きできるように最大4回噴射)で燃焼温度を下げてNOx排出量を減少させ、NOx後処理装置無しでEuro5に対応させた佳作エンジンなのである。
(参考までにインジェクター他燃料噴射装置はデンソー製。ドイツ車お得意のBOSCHでは無い)
付け加えると、エンジンブロックもクランクケースをアルミ化して軽量化と騒音を改善、更にはクランクケースにバランスシャフトを組み込んで排気量アップに伴う振動を少なくしている。

何もスカイアクティブDで初めてイイエンジンが出てきたわけではない。

ただし、ここまでは最近の欧州メーカー製ディーゼルエンジンもMZR-CDと似たアプローチを採っている。

ココから先が異なる。

欧州メーカーはEuro6に対応させるべく、排ガス処理に高コストなNOx還元装置等で更なる増強を図った。
スカイアクティブDは更なる低圧縮と燃焼制御でEuro6に対応させたわけだ。NOx還元装置無しで。当初馬力が少し下がったのは排ガス制御の為だろう。

どちらがエラいと言うつもりはない。

ただひとつだけ言えるのは、マツダは何が何でも高コスト化を避ける為に、ディーゼルエンジン世界最低圧縮比という前人未到の困難なアプローチを採ったという事だ。
少し乱暴な言い方をすると、マツダは自身の状況を鑑みて安易にカネをかけずに知恵を絞ったわけだ。

4.現行CX-5について

ご存知の方もおられるかと思うが、マツダはアクセラ(最新のマツダ3は別)、アテンザ、CX-5、CX-8と共通のプラットフォームである。

前ストラット形式、後マルチリンク式のサスペンション構成は初代アクセラとほぼ共通。(初代アテンザのみ前ダブルウィッシュボーン式)
と言う事は、当時共同開発のフォードフォーカスやボルボS40/V50とも共通である。

フォードフォーカスは打倒ゴルフを目標に開発され、1999年ヨーロッパカーオブザイヤー、翌年北米カーオブザイヤーを受賞し、生産台数はゴルフを抜いて世界一となった佳作であり、マツダは現在もその基本構成を改良しながら使っている。

CX-5は最低地上高がアテンザやアクセラより高くサスペンションストロークが長い。その分ロール時にサスペンションの動的アライメント変化が大きい為、脚はやや硬めにしてストローク制限を掛けているように思う。この辺りが走りにどう影響するかが気になる所だ。
CX-5のグレード展開は下からXD、タイヤホイールを19インチへアップしたXDプロアクティブ、本革内装仕様のLパッケージの3グレード。主にタイヤとシート表皮の違いだけである。廉価版XDでも本革ステアリングホイールが装備され、内装パネルも共通。

更に最近CX-8のLパッケージ相当のナッパレザーを採用したエクスクルーシブモードが追加された。個人的にはコレに興味がある。

それぞれ前輪駆動の2WDと4WDが選べる。
4WDは普段前輪駆動でトラクションの悪い雪道等だけで後輪にも動力がかかるオンデマンド式であり、雪山に行かない東京在住の私はあまり興味ない。

5.実車検分

今回は同乗者ありのレンタカーという事で細かい検分はできていない。簡単なインプレッションだけである事をご理解いただきたい。

グレードはディーゼルエンジン搭載最廉価のXD。タイヤは225/65R17のヨコハマジオランダーだった。3万5千キロほど走行してきた車体だ。

右ハンドルの仕立ては以前試乗したCX-8と同様に文句なしである。適切にドライビングポジションが取れる。内装の質感も上々。廉価版とは言え安っぽさは無い。
エンジンをかけるとディーゼルらしくカラカラ言っているが、うるさくはない。改めて思うとマツダ3のディーゼルエンジンよりは静かだ。

走り出す。
以前乗ったCX-8よりもステアリングフィールは自然な感じだ。あちらは200kg以上重い分アシストが強めなのだろう。また、ステアリングギヤ比CX-5の方がやや速い模様だがリニアリティがありなかなか好印象だ。
パッと乗った感じ、廉価なコラムアシスト電動パワステの嫌な感じはしない。

2.2Lディーゼルエンジンはシルキーにシュンシュン回る。ディーゼル特有の怒涛のトルクと言うよりもガソリンエンジンに近いフィールだ。この辺りに低圧縮比のディーゼルエンジンらしさが出ており、なかなかスポーティーだ。
回すと結構速い。パワーそのものに不満は全く無い。
6速オートマがせわしなく変速し、またタコメーター表示が嘘っぽいのもCX-8と同様。各ギヤ比がワイドな事もあり、個人的にはもう少し抑え気味の変速スケジュールが好ましいのだが。

足回りはやはり硬い印象。それもCX-8と同じだが、このCX-5は17インチタイヤのせいかタイヤの当たりがソフトでなかなかいい。
試乗車が19インチだったCX-8の印象から、CX-5も売れ筋である19インチモデルはエアボリュームが少ない分ゴツゴツするだろう。19インチは225幅じゃなく245幅くらいにすべきかと思う。日本車はホイールのリム幅を広げるとステアリング切れ角が取れなくなり最小回転半径が大きくなるのを嫌って細いままインチアップする傾向があるが、もう少し考えて欲しい所だ。

走りに関しては総じて好印象である。

乗っていて気になったのはエアコンのダクトの位置だ。低すぎる上にダクトが小さく、風量を上げると風が勢いよく乗員に当たる。
ダクトの位置はアテンザと同様な分、着座位置が高いCX-5はダクトが相対的に低くなってしまうのだろう。当日は猛暑だった事もありエアコンフル稼働で少し不快であった。惜しいところだ。

渋滞と給油待ち30分アイドリングを含む行程で燃費はリッター10kmを余裕で超えていた。アイドリングストップがあるとは言え燃費は相当良さそうだ。

6.総括

ここで総括する。
CX-5は以下の点で秀逸だった。
・普通にパワフルかつ静かなディーゼルエンジン
・自然に運転できる操作系
・ドライビングポジション

シートは絶賛するヒョーロンカが多いが、そこまででもない様に思う。もちろん決して悪い訳ではないが、座面はもう少し張っていて欲しいし、背面も腰の辺りの押しが少し弱い。この辺りで上質感を欠いている。惜しい。
本革仕様は乗っていないが、そっちの方が良いかもしれない。
もしかして3万キロ走破してシートがヘタっているのか。

改めてライバルと比較すると、フォレスターの方がわかりやすいと思う。
エンジンや右ハンドルの仕立てはCX-5の勝ちだが、わかりやすくスポーティな身のこなしや視界と取り回しの良さ、乗り心地やシートの出来もフォレスターが少しだけ上回る。

とは言えどちらかと言われたら迷う。
右ハンドルのペダルレイアウトに難があるスバルのオートマ車はちょっと推し辛い(とは言えプリウスと同程度だが)。
購入を検討されてる方はぜひCX-5と乗り比べて頂きたい。

WRXやBRZを見る限りスバルのマニュアル車はペダル配置が比較的まともなので、フォレスターにもマニュアルがあればイチオシなのだが。
それにしても、欧州向けがあるとはいえ日本でもCX-5にマニュアルを用意してるマツダは尊敬に値する。もし私がCX-5を買うならばマニュアル一択だ。ワザワザマニュアルを用意してるマツダの心意気を買いたい。

私のCX-5の評価は比較的高い。全体的にクセのないいいクルマだと思う。


ただ、やはり私はエンジンに目が行ってしまう。エンジン以外は手堅くまとめてる感じを受けた。

最近のエンジンはディーゼルにしろ、ダウンサイジングターボガソリンにせよ、似たような構成のエンジンだらけだ。
モーターファンイラストレティッドのエンジン特集号を立読みすれば一目瞭然だ。どのエンジンがどのメーカーのものかすぐには判別できないほど似通っている。
欧州のエンジン開発コンサル主導なのか。

そんな中、マツダのエンジンは異彩を放っている。

実はピンでエンジン開発できる自動車会社はさほど多くはない。
更に前人未到の技術を実現するには、開発手法から見直さないと膨大な開発費がかかる。マツダだって開発リソースがふんだんにあるわけではない。

ソレができる数少ない会社がマツダだろう。
そう考えるとなかなか熱い気持ちが滾ってくるではないか。

マツダ3でスカイアクティブXと言うガソリンなのにディーゼルのように圧縮点火する奇天烈なエンジンを今後搭載すると言う。この実現には並大抵の話ではない。

現在開発者はリリースに向けて大変な状況だろう。
当方は無責任ながら登場するのをワクワクしている。

マツダの今後に期待している。


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