ヤリスクロス試乗記

0.はじめに


息子の交通事故を受け、お袋のクルマも運転支援付きにそろそろ変えないと、と考えた際、
私の頭の中でヤリスクロスが浮上してきた。

膝が悪くなっているお袋の事を考えると、乗り込む際に低く屈む必要の無い、座面高いクロスオーバーSUVにしたい。

ただ、多くのSUVは割とデカい。
小さ目のSUVは割と限られる。
その中でヤリスクロスを検討してみた。

1. ヤリスクロスとは


ご存知ヤリス(旧来ヴィッツのグローバル名)をSUVに仕立てたもの。

とは言え、VWクロスポロの様に、通常ポロにオーバーフェンダーを付けて、車高を少し上げて一丁あがり、と言うお手軽なクルマでは無い。(それはそれで、クロスポロは割と評価高いが)

ヤリスとプラットフォームこそ共通だが、
ボディデザインもディメンションも異なる。ヤリスとは別のクルマだ。

販売台数集計ランキングでヤリスにて上位を狙うためにヤリスの名前を付けてるだけと言ってもいいだろう。

ただ、そのディメンションを見てみると興味深い。

2.車体サイズについて


ヤリスクロス、ヤリス(日本仕様)、ヤリス(欧州仕様)で比較してみた。単位はmm。

ヤリスクロス ヤリス(日本仕様) ヤリス(欧州仕様)

全長4,185 3,940 3,940
全幅 1,765 1,695 1,745
全高 1,590 1,500 1,500
ホイールベース 2,560 2,550 2,560

ヤリスは日本仕様と欧州仕様で全幅がかなり異なる。
ホイールベースは10mm異なるが、コレはサスペンションの配置による車輪アライメントの違いで、ほぼ同じと思っていいだろう。
国交省届出値は5mm単位、それ以下は四捨五入なのだし。
(コレを理解してないヒョーロンカが割と多いが。同じクルマでもサスペンションブッシュが撓むと10mm位は平気で変わるってのに)

そして、ヤリスクロスと比べるとヤリス欧州版の全幅は近い。

更に言えば、日本仕様のヤリスはホイールボルト4穴支持だが、
欧州仕様ヤリスとヤリスクロスは5穴だ。

初代ヤリス(日本名ヴィッツ)から、欧州仕様と日本仕様は作り分けていた。
欧州は高速性能が必要だから。

販売価格も異なるが、日本仕様は割とその辺りを見切っていた。

その欧州仕様ヤリスに近いのが、ヤリスクロスなのだ。

装備面でも、ヤリスクロスはヤリスより大径タイヤ、リアディスクブレーキ(それに伴い電動パーキングブレーキも)を実装している。
高性能側に振っているのは間違い無いだろう。

3.メカニズム


エンジンは2種。
ヤリスにも搭載されている、1.5L3気筒のM15Aエンジンだ。TNGAプラットフォームと共に新規開発されたダイナミックフォースエンジンの1.5L版。
1気筒500ccとし、4気筒2LのM20Aエンジンとボアスト吸排気燃焼を共通設計したモジュラーエンジンである。

コレの通常ガソリンエンジン版とハイブリッド版が搭載されている。

エンジン、シャシーはヤリスの1.5Lおよびハイブリッドと同じなので、ヤリス試乗記をご参照の事。

https://note.com/tomozoo1975/n/n99530fbc7029

4.グレード展開


グレードは4種類
下からX、G、Z、Zアドベンチャーとなるが、ZとZアドベンチャーの違いは外装エアロと内装色で、装備品に違いは無いと思っていい。事実上X、G、Zの3種類だ。

ヤリスも同様にX、G、Zのグレード展開だが、ヤリスと比べてヤリスクロスはシート他が一つ上の装備になっている。ヤリスZ相当がヤリスクロスGの様に。
そしてヤリスクロスZはカローラ上級グレードに近い装備になる。

エンジンはそれぞれガソリンとハイブリッドが選べる。

タイヤ、ホイールは
Xが16インチホイールキャップ
Gが16インチアルミホイール
Zが18インチアルミホイール
になる。

ブレーキやサスペンションについてはグレード間の明確な違いは無い。
電動パーキングブレーキも全車標準装備。

シートはXがヤリスX,Gグレードと同じヘッドレスト一体のファブリックタイプ。
GはヤリスZグレード相当のヘッドレスト別のファブリック。
ZはGの表皮をハーフレザーとし、電動調節機構を付けたものになる。

Zのみ、内装色が選べる。黒かダークブラウン。ダークブラウンだとシートだけで無く、ドア内張、ダッシュボード下などもダークブラウンとなる。

運転席のメータークラスターは、
XとGがヤリスZ,Gと同じセンターがマルチ表示ディスプレイ、左右がタコやスピード、ATセレクター表示などの構成。
Zはカローラの上級グレード相当のフルマルチディスプレイとなる。

全グレードディスプレイオーディオ標準装備。ディスプレイ大型化オプションあり。
ナビソフトもオプションだが、スマホのナビ使うなら不要。

また、Zは前窓に速度や警告などを映し出すヘッドアップディスプレイをオプションで付けられる。

5.予防安全装備(ADAS)について

そうそう、忘れていた。
予防安全装備、トヨタセーフティセンス、被害軽減ブレーキ他の性能がどうかだ。
コレが1番重要なのに。

ヤリス以降のバージョンでは、左折時の歩行者検知機能が追加された、って公表されているが。

当方は息子の事故を受け、そんなメーカースペックは何の意味もない事を理解したので無視。

あと、BSM(ブラインドスポットモニター、隣車線で後方から車両が近づくとドアミラーにインジケータ表示される機能)はパーキングサポートブレーキ(後退中に後方車両が接近した時にアラートと自動ブレーキ作動)とセットでオプション。
BSMくらい標準装備しろよ、といつも思う。安価なスズキスイフトでも標準装備なのに。セコい。

現在のトヨタセーフティセンスの前方車両や歩行者検知は、単眼カメラとミリ波レーダーで行っている。レーダー搭載をやめてきている会社もあるが、トヨタは全車コレだ。

現在のカメラは画像解析能力と暗所性能が非常に高くなり、歩行者検知を考えれば今やカメラの方が良い。

但しカメラは露出できなければ感知できない。天候に左右されやすく雨天時などは難しい。
その分レーダーなら検知できるが、対象物がある程度大きくないと検知できない。クルマや建物なら検知できるが、歩行者などは苦手。

なので各社カメラとレーダーを併用していたわけだ。

しかし、レーダーはコストが高いのが悩みだった。

そこで登場したのがスバルのアイサイトでお馴染み、レーダー無しのステレオカメラによる検知。
ダイハツもこの仕様だ。
そして、今やホンダセンシング最新版は単眼カメラのみだ。

コレらカメラのみでも性能が決して低くないのも興味深い。

さて、トヨタのセーフティセンスだが、
第一世代はセーフティセンスC(コンチネンタル開発)と高性能版セーフティセンスP(コンチネンタル、デンソー共同開発)と分かれていた。
前者はレーザーレーダーと単眼カメラ、後者はミリ波レーダーと単眼カメラの構成だった。

現在は第二世代となり、セーフティセンスPの後継版である、ミリ波レーダーと単眼カメラの構成だ。

この第二世代セーフティセンスは、画像解析チップに東芝デバイス&ストレージ のVisconti 4を採用。
レーダー、カメラユニットはデンソー製である。

ADASと言えばイスラエルのモービルアイ製EyeQ4が有名で、日産やホンダなど各社で採用されているが、トヨタはそうではない。

モービルアイと双璧な東芝の画像解析チップを採用しているわけだ。

日本勢はADAS、更には自動運転技術に遅れているという記事ばかり書くボンクラメディアが多いが、それはフェイク記事だ。
東芝も最先端の技術を有している。

しかし、今後はトヨタも変わる。
次世代セーフティセンスはモービルアイのEyeQ4に、ドイツZF製カメラユニットになると2021年に公表した。

なぜか。
東芝は例の原子力事業による巨額損失の対応としてリストラしており、その対象にこのVisconti新規開発凍結が含まれている。

この影響で今後トヨタはADASを東芝デンソーから、モービルアイZFに変更せざるを得ないのだ。

日本という国は一体どうなってるのか。
経産省はこう言うとこをサポートしないで、何してるんだ。

世界に誇れる技術をみすみす捨てる状況に暗澹たる思いしかない。

そら、トヨタも日本政府やマスゴミにキレてトヨタイムズなんてオウンドメディアやるわけだ。
連中は貶すだけ貶して、評価どころか助けてもくれない。ふざけんなって話だ。

本筋から離れてしまったが、ヤリスクロスの予防安全性能については、良さそうだ。
JNCAPの性能試験ではほぼ満点と言って良い
https://www.nasva.go.jp/mamoru/assessment_car/detail/230

ごちゃごちゃ書いてしまったが、最新のトヨタセーフティセンスの性能は高い。
しつこいようだが、今後東芝デンソーのそれを今後捨てるのはあまりにも惜しい。

6.ヤリスクロスの商品ポジション

サイズとしては国際Bセグメントにあたる。
Bセグメントなら、フィット、ヤリス、ノート、スイフト、マツダ2(デミオ)辺りか。
日本では、各社そのSUV版を高級方向に位置付けている。国内プレミアムBセグメントとも言える、ヴェゼル、ヤリスクロス、キックス、CX-3など。サイズ的にはエスクードも入るか。
プレミアムBセグメントなら、SUVでは無いノートオーラもある。

イメージは安物っぽくなく、上位クラスからの乗り換えには非常に良いポジションで、結構人気の商圏だ。

そんな中、ヤリスクロスもかなり売れている。
2月時点でオーダーストップまでカウントダウンらしい。
ヴェゼルもだが、ディーラーは痛いだろう。

7.デザイン

言うまでもなく、ヤリスとは別物。
テールエンドこそヤリス風に仕上げてるが。
全体的にケレン味のないスッキリとしたデザインに樹脂アクセントを入れてそれっぽくしてる。
個人的には5ナンバーサイズに収めながら迫力を出そうとしてパネル凹凸がビジーになっているヤリスよりずっと良い。

そんなボディは視覚的にグッと車高を上げた様に見える。
大径タイヤと、下回りのスカートをブラックアウトしてるのでそう見えるが、実は最低地上高はヤリスより30mmほど高いだけだ。

屋根の高さはヤリスより90mmほど高いので、実は車体が60mmも分厚い。

SUVらしさを視覚的に見せながら、実はその高さの多くを室内空間の高さに使っている。

実は最近のクロスオーバーSUVは皆このタイプ。
SUVと言いながら、オフロードを走るわけで無く、居住空間を充実させる。

こう言うコンセプトはアリだと思う。
オフロードなんぞ走らんのだから。

8.実車検分


試乗車グレードは1.5Lガソリンの上級グレードZ。
標準装備の18インチアルミホイールに215/50R18サイズのダンロップエナセーブを履いている。
内装色はダークブラウン。

運転席周りについて
パッと見た感じヤリスとほぼ同じ雰囲気。

ダッシュボードはハードプラスチックでソフトパッドや人工皮革などは無い。
ドア内張は一部ファブリックが貼られ、他はハードプラスチック。
安っぽくはないが、プレミアムとは言い難い。

ステアリングはチルト、テレスコ有り。
シートは6方向(前後、上下、前後リクライニング)電動調節機構付き。

ヤリス同様にペダルオフセットはほぼ無く、右ハンドルの仕立ては良好。

シートは合皮とファブリックのコンビ。
サイドサポートはあまり無く平坦な形状だが、背中の面圧も適正で特に不満は無い。
平坦なこの形状のシート座面高さは600mm超えなので、乗り降りはしやすい。そこは非常に良い。

電動調節機構の操作が少々わかりづらい。
シート前後と上下調整が別のスイッチになっており、上下調整はスイッチを回すタイプ。
そうそう、現行型BMW3シリーズ乗った時に混乱したやつ。

座面角度を個別には設定できない。
座面角度は高さを上げると水平方向に、下げると後傾していく、欧州大衆車によくあるタイプ。前端固定で後端だけ上げ下げするやつだ。

ステアリングホイールはお約束のセンターが下方にオフセットされていて、膝周りのクリアランスを広げて乗り降りしやすくしてるタイプ。なので回すと回転軸が偏心してブレる。

センターは真ん中にして、真円でブレずに回るようにして欲しいが、仕方ない、今や多くのクルマがこのタイプだ。

ステアリングそのものは革巻きで質感は良い。

後席広さはヤリスと同様に決して広くない。
ただし、全高が高いぶんよりアップライトに座れ、ヒール段差(床と座面高さ)が多いので膝も折れて椅子の様に座れる。
前席下の足入れもスムーズ。
コレならさほど窮屈ではなく及第点だ。

荷室もヤリスよりずっと奥行きがある。
手前側はゴルフバッグを横に置けるように左サイド内張がえぐられたカタチになっており、使いやすいと思う。
よく出来てる。

それにしても、Zグレード専用のダークブラウン内装のセンスはなかなかキツい。。

シートは合皮とツイードのコンビなのだが、ツイード部分のカラーはおばあちゃんの財布の様だし、細かい目の編みもいかにも安物に見えてしまう。

上級グレードなのだから、ツイードの部分はもっとダークな色にして、編みも目が粗く立体的にザックリした仕立てにするとか、ココの素材をマイクロスウェード(アルカンタ、エクセーヌ)なら高級かつオシャレなのだが。
それはどだい無理な話か。

参考までに、後から追加されたZアドベンチャーグレードは、合皮を明るいタン色にしてツイードを黒にしていて、良いセンス。
コッチが正解。

また、ダークブラウン内装だと、インパネは上部ブラック、下部ダークブラウンのツートーンになるのだが、ダークブラウン部分は無塗装ハードプラスチックでより質感が低く見えてしまう。

安物プラスチックは色が明るくなると途端に質感の粗が見えてしまう、典型的な例だ。

その反省なのか、追加されたZアドベンチャーグレードはダッシュボード下部もブラックに変更してるし、Zグレードもマイナーチェンジでブラック内装を標準とした(以前Zグレードはダークブラウン内装しか選べなかったが、現在はブラックとダークブラウンを選択可能)。

と言う事で内装色は黒、又はアドベンチャーをお勧めする。

因みに個人的にはブラウン内装は割と好きなのもあって、苦言を書いた。

以前中古格安BMW5シリーズを探す際に、外装紺、内装ダークブラウンの個体を探していた。あれが1番カッコいいので。
新車価格800万円のクルマと比較するのは酷なのを承知の上で(中古なら5シリーズ現行モデルも300万円台で買えるので、私ならトヨタのお店に行かずにカーセンサー.netで5シリーズを探す)。

9.実走検分


さて、走り出す。
道路に出る際の段差でわかる、ヤリス同様ボディが強い。
ドンと落ちた後の振動減衰が早い。ボディの強い、いいクルマ感はある。

軽めの電動パワステは以前試乗したヤリスよりも自然でスムーズな印象。

まず、以前乗ったヤリスハイブリッド(グレードは上級のZ)より明らかに静粛性は向上している。
ヤリスハイブリッドはエンジンが始動するとエンジン音が割と室内に入ってきた。
しかし、この非ハイブリッドのヤリスクロスは当然ずっとエンジンがかかっているにも関わらず静か。
わずかに直噴エンジンらしいゴロゴロ音はあるが、気にならない。

静粛性はこのクラス最強のVWポロにさほど劣ってない。

普段乗りではCVTが常にギヤ比を上げて1500回転以下で走らせようとするが、その際にかったるい感じは無い。
CVTは余計な変速せず、そのギヤ比のままちゃんと加速する。
トルコン滑りやCVTのルーズな感じも無く、割とタイトに変速してる。
ウチのシトロエンC5のアイシン6ATの方が(車重が500kg違うとは言え)よっぽどルーズでかったるい。

過渡領域できちんとトルクが出ている良いエンジンだと思う。

ステアリングレスポンス、身のこなしも自然、常に車体の軽さを感じる。

細かい突き上げはあるが、むしろサスペンションブッシュなどのコンプライアンスでグニャグニャ逃げてる感じがなく、外乱でブレず、サラッと軽快。
ヤリスハイブリッドは割と重厚な印象があったが、こっちは全ての動きが軽く、スッキリしている。

チョイノリしかしてないが、昔のオペルの様な欧州大衆車風乗り味で割と気に入った。

視線は高く見晴らしはいいが、ボディ先左端は見えない。そういう意味で割と大きさを感じる。

非ハイブリッドだけに、回生ブレーキなども無く、ブレーキも自然なフィールだ。普通に止まれる。
実は割とコレができるクルマが少なくなってるのだ。

1.5Lガソリンのコレがベストな気がする。
素の良さをそのまま享受できる。

10.総括


1.5Lヤリスクロスに乗ってわかった。
見た目はSUV風になっているが、乗ると素直。
ヤリスよりこっちの方が色々スッキリしてる。嫌味がない。

普段のご飯と言える感じだ。
以前ボルボV60は極上のご飯と感じた。アレが魚沼産コシヒカリだとしたら、こちらは千葉産ササニシキか。毎日普通に食べれる。

貶してるわけではなく、私の中では良いクルマと言う事だ。

今思うとヤリスハイブリッドはふりかけがかかってる感じ。
実は私はふりかけがあまり好きではない。白飯は白飯で食いたい。

ヤリスクロス、実家自家用車買い替え候補にする事にした。

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