メルセデスEQA試乗記

盆休みで1日だけフリーとなり、何しようか考えていたら、六本木のメルセデスミーは営業している事がわかった。ならば、とEQA試乗予約。

言うまでもなく、メルセデスのEV戦略で重要な車種である。短時間の試乗で何がわかるものかとも思うが、乗ってみる事にした。

EQAのその名の通り、Aクラス相当のBEVである。ベースはGLAであり、GLAのベースはAクラスである。

そのベースとなるAクラスの変遷はなかなか趣深い。そこから話を始める。

1.メルセデスAクラスとは

Aクラスはメルセデス初の普及Bセグメント前輪駆動車として開発された。

それはヴィジョンA93として93年にジュネーヴモーターショーで発表され、業界騒然となった。

ヴィジョンAは燃料電池及びバッテリーで駆動する電気自動車で、そのパワーソースを搭載する為に二階建てフロア構造を取る。

つまりメルセデス初の小型前輪駆動車と言うだけで無く、電気自動車専用プラットフォームだったのだ。
一応エンジンも搭載可能とし、エンジン、バッテリー、燃料電池の3ソースがセレクタブルなプラットフォーム。

コレは28年も前の話だ。そら皆驚いた。

当時田舎の高校生でドイツ車マンセー病に罹患していた当方も無茶苦茶興奮した。

しかしながら、期待していた燃料電池ベンチャーの作業は遅々として進まず。
この頃は車載リチウムイオン電池なんてのも無かった。

結局Aクラスは97年に普通のエンジンを搭載してローンチされた。
そう、水素をソースとする燃料電池自動車は夢と散り、2000年にごく少数だけ試験的に燃料電池搭載車をリリースするにとどまった。

問題はこのプラットフォームだ。
燃料電池スタックが収まるはずだった二階建て構造の床は役に立たないどころか、高床による車体高重心化と室内高の狭さと言う大きなネガを残した。

このおかげで、某自動車雑誌のエルクテスト(道路に鹿が飛び出して来た想定テスト。要は走行中障害物を避ける為の急ハンドル急ブレーキによる車線変更テスト)にて転倒してしまい、危険なクルマとのレッテルを貼られてしまう。

メルセデスは急遽リコール対策を強いられ、サスペンションをハードに変更した上、当時ボッシュと開発した最新デバイス、姿勢制御装置ESCを全車標準装備する事になった。
シャシーの欠点をエレキでカバーせざるを得なくなったわけだ。

皮肉な事に、Aクラスのおかげで本来高級車しか装備されなかった姿勢制御装置は自動車業界で急速に発展し、広く普及する事になった。今やほとんどのクルマに搭載されている。

メルセデスは元々小型前輪駆動車造りのノウハウが無く、荒っぽいと言われたAクラス走りはより荒っぽくなり、散々な状況になった。

その後2代目Aクラスもこのシャシーを踏襲。サスペンションを大幅に改変し挙動を穏やかに。
背高化したBクラスやミニバン風バネオを追加した。

そして3代目Aクラスは、Cセグメントへ格上げし、新設計プラットフォームとなった。
コレはほぼ5代目VWゴルフの要件を踏襲したものだ。
さすがに3タテでしくじる訳には行かず、漸く普通のプラットフォームになる。

ここで漸く二階建てフロアのシャシーを捨てることができた。

この3代目から派生モデルを展開した。
カリーナED風低ルーフなCLS縮小コピーのCLA、SUV化したGLAである。

そしてGLAが昨年モデルチェンジされ2代目となり、ココからEQAが産まれた。


2.EQAとは

前述した様に、メルセデスGLAをベースに電動化したクルマだ。パワートレーン以外はGLAと共通と思って良い。

モーターを前に搭載した前輪駆動、FF車になる。

VW ID.3などはEV専用シャシーにてモーターを後ろに配置した後輪駆動だが、EQAはあくまでGLAと同じFFベースのシャシーだ。

これは先代Aクラスから採用された前輪駆動車向けMFAプラットフォームと言うもの。

現行AクラスやGLAでMFA1からMFA2にアップデートされている。
変更点は恐らくEQAの様な高重量BEVに対応する為の補強と、リアサスペンションだ。

MFA1は4リンクと呼ばれるダブルウィッシュボーン派生マルチリンク式のみだったが、MFA2は廉価版トーションビーム式が追加され、モデルによって使い分けられている。

GLAは先代同様4リンク、EQAも同様だ。

VWやマツダ、トヨタなどFF向けマルチリンクと同じ、長さの違う2本のロワアームに1本のアッパーアーム、トレーリングアーム構成。ストローク時及び前進時にトーインになるジオメトリーが仕込まれた、ド定番。

本来なら前輪駆動モデルでバッテリー搭載スペースが欲しいEQA250なら、スペース効率の良いトーションビームを採用しても良いはずだが。

そうしなかったのはEQAの車重からだろう。

日本仕様EQA250の車重は1990kg。日本輸入仕様の大多数であるダブルスライディングルーフ装着車なら2トン超なのだ。このプラットフォームのほぼ上限と思われ、トーションビームじゃ能力不足なわけだ。
(カタログは型式届出前に作られたのかワザとなのか仕様諸元に車重が書かれてないのが微笑ましい。)

参考までに、トーションビーム式リアサスを採用するAクラスガソリンのA180の車重は1360kg、重いディーゼルのA200dでも1470kgである。

バッテリーは床、前席下から後席にかけて配置している模様。容量66.5kWhのリチウムイオン電池は期待されていた高性能なNCM811かと思いきや、Farasis Energy供給のNCMの様だ。

航続可能距離は422km(WLTCモード)。
実距離的には300km辺りか。都内から軽井沢往復位なら平気だ。個人的にはそれで充分だと思う。
急速充電で1/3まで充電できるので、出先で100km分位までは充電可能。

マスコミはEV普及のカギは走行距離とか言うが、少なくとも日本のユースケースならそこまででも無いだろう。

モーターは190馬力(140kW)に最大トルク370N・m(37.7kg・m)と、なかなか高出力タイプだ。最大トルクはわずか1000rpm辺り、モーターなのでほぼゼロ回転からデカいトルクが出る。
参考までにリーフが150馬力/320N・m、リーフe+は218馬力/340N・mなので、高出力なリーフe+より少し低い辺りになる。

変速機は無く、ダイレクトに駆動される。
日本導入のEQA250に加えて、本国は後輪にもモーターを配備する4WDのEQA350も存在する。

運転支援並びにインフオテイメントはGLAと共通。特にEV化したからと言って特別なものはない。

モノを知らない人はすぐ勘違いするが、基本的に自動運転やコネクティッド、インフオテイメントとEVは無関係だ。
今更言うまでもないが、CASEなんてのはパラの技術を単にくっつけただけだ。互いに補完関係にないのだから。


3.実車検分

試乗車はEQAにナビパッケージ、AMGライン、電動ダブルスライディングルーフ付き。恐らく日本輸入仕様は全てコレだ。タイヤは20インチの大車輪仕様(AMGライン非選択の標準は18インチ)。

右ハンドルの仕立てはまずまず良い。
ペダルの左偏位はほとんど無い。右ハンドル化する際、恐らく右ホイールスペースを避ける為ペダルを手前に持ってきてるはずだが、AクラスやCLAほどペダルは手前ではない。ココは先代GLAも割と良かったと記憶している。
ヒザを深く折りアップライトに座らせてる為だろう。

シートはAMGライン専用、合成皮革のDINAMICAと赤ステッチファブリックのコンビ。合成皮革は以前のARTICO表皮ほど硬くなく、なかなか良い。
このクラスの本革はあまり良い出来でないので、この仕様がベストかと思われる。

ワザワザエクストラフィーを払ってダメな本革を選ぶ理由は無い。

シートのホールドや着座姿勢も問題無い。Aクラスのヘッドレスト一体シートの様にヨレる感じも無い。
ステアリングコラム含めてAクラス各車より建て付けは良さそうだ。
正確に言うと、CLA辺りはペダル位置に合わせてステアリングコラムを大幅に延長している様で、テレスコはニョキニョキ伸びるが、ビックリする程ヤワなのだ。EQA/GLAはそれよりずっと良い。

相変わらずドライバーの視線に合わない直立板タブレット風メーターの角度は今やメルセデス共通。
運転中はごちゃごちゃ言わずにフロントウインドウに照射されるヘッドアップディスプレイを見ろという事だろう。

ステアリングは小径で下が平らなDシェイプ、かつセンターが下方にオフセットされている為、真円で回らない。この辺りは最近のドイツ車は全てコレだから細かい事は言うまい。

ダッシュボード、ドア内張上部はソフトパッドが貼られており、なかなか上質。シルバー円形のエアコン吹き出し口とその周りは黒エナメル塗装樹脂形状も含め、GLAと共通。一部レリーフのデザインだけEQA専用。

今やメルセデスのアイデンティティとも言えるクラシカルな丸型エアコン吹き出し口も大き目で良い。

あちこち光る無駄な照明については兎も角、室内全体の質感や構成は良いと思う。割と気に入った。


後席は座面小さめ、かつ床下にバッテリーが配置される為、かなりの上げ底となる。
広さは申し分無いが、ヒール段差(床から座面高さ)は全く不足。ももは浮く。後席は全くNG、ガキ用だ。
ココは完全に見切っている模様。


4.実走検分

早速パワーオンし、走り出す。

相変わらずメルセデス共通、あたかも日本車ウインカーレバーの位置なステアリングコラム右に付くATレバー。こんなのは誤操作の温床だと思うが、なぜか誰も文句言わない。まぁいい。

パーキングブレーキは電動で、全て自動。特に操作は要らない。

スルスルとクリープで駐車場を抜けて、道路に出る。低速のマナーは非常に良い。

加速してみると、やはりモーターのレスポンスは素晴らしいと感じる。タイムラグ無くスッと前に出る。
アクセルペダルと足が一体となった様な加速感が心地良い。
2トンの車重をものともしない加速。
コレコレ。EVの真骨頂だ。

ステアリングフィールは電動パワステらしい人工フィールだが、割と変ではない。
タイヤが常にガッチリグリップしてる様なフィールだが、コレは作られたものだろう。

ステアリング操作でレスポンス良くスパスパ曲がる。なるほど、EVの加速特性に合わせてステアリングも中立から締めてる。
コレはクルマ好きが喜ぶやつだ。

乗り心地は重厚、と言うより、重戦車だ。
しなやかに路面をいなすのではなく、重量で捩じ伏せる雰囲気。

235/45R20と言う立派なサイズの20インチコンチネンタルエココンタクト6は省燃費タイヤと言う印象は無く、むしろスポーツタイヤ風のレスポンスを返す。電動パワステにいい様に騙されてる感じではあるが。

ボディのサイズ感も悪くない。取り回しはしやすいし、大きさを感じる事も無い。乗りやすいクルマだ。

ブレーキはチョイと制御し難く感じた。
停止寸前に効きすぎるきらいがある。カックンブレーキな感じだ。回生ブレーキと電動ブレーキブースターの協調なのでこの辺りの制御は難しい。
日産e-POWERなんかは良くできてるのだが。

因みに他のEVやPHVの様にステアリングコラムに付くパドルシフトで回生ブレーキを強くできるが、今回はそもそもさほど飛ばせない試乗なので未確認だ。

六本木界隈をクルッと回っただけなので、インプレはこの程度。


5.総括

以下の点は秀逸だった。
・EVらしい加速レスポンス
・取り回しの良い車体サイズ
・恐らくAクラス派生車の中では最も良い運転環境

動力以外は基本的にGLAそのもの。
ただし、バッテリーのアオリを食ってるリアシートはダメ。それ以外は割と良いクルマの印象だった。


車体価格のベースは640万円。試乗車はプラス80万円のオプション付き。

価格が高いと言う向きもあるが、ディーゼルエンジンのGLA200d 4マチックはベースで518万円。ガソリンエンジンのGLA180は495万円だ。当然コレにオプションが乗る。

EQAは今なら環境省補助金が80万円、東京都のEV補助金60万円の合計140万円ほどチャラになる事を考えれば、実はエンジンモデルと差が無い。絶妙な価格設定だ。

逆に言えば、補助金が命である。

と言う事で、EQAはかなり売れてるらしい。
確かにチョイ乗りなら兎も角、長距離移動で後席に大人を乗せないと言う条件なら私もアリだと思う。
メルセデスを買う層ならEQAをセカンドカーにする方も多いだろう。なら無問題か。


車重はGLA180の1510kgに対して、EQA250は1990kg。ざっと1.3倍。必要な運動エネルギーは1.7倍となる。
だからと言ってEQAが高燃費高エネルギー消費のクルマであり、どこがエコなんだ?などと野暮な事を言ってはいけない。

電動でありさえすればどんなに高エネルギーを消費してもエコであると、欧州各国含めみんなが定義したのだ。

ならばそういう商品を出すしかない。

当方は欧州当局が提唱してる2035年内燃機関販売禁止という、高々14年後に全ての新車がBEV、電気のみを動力ソースとするクルマになるとは全く思ってない。

低速短距離利用が多い日本は兎も角、高速道路移動が多い欧州でユーザーの大多数はBEVを望んでないだろう。

増してBEVの高エネルギー消費、生産工程でのCO2排出量、レアメタル供給に関わる人権侵害や児童労働含めて問題は多々ある。コレがベストとは到底思えない。

温暖化防止の為に電動化なんて所詮マネーゲームを支配する為の戯言だと思ってる。コレで温暖化が止められると本気で思ってる人は頭の中お花畑としか言えない。
そもそも温暖化への寄与はCO2が支配的かどうかもわからないのだから。

恐らく温暖化は止まらない。

そして、温暖化を受け入れ対応する方がよっぽど楽なのは間違いない。

しかしながら、電動が動力ソースとして魅力的なのは紛れもない事実だ。制御性は内燃機関と比べ物にならない。

もちろん資源は有限なのだから、省エネを目指し、ガソリンも軽油も電気も水素も、複数のエネルギーソースをうまく使っていくのは必要だ。

電力を動力にするだけなら、シリーズハイブリッドでも実現できる訳で、今後電動車は様々なカタチで発展するだろう。

つまりは各自がその時点で使いやすくお得なクルマを買えばいい。それだけの事だ。何も国や企業の思惑、マスゴミに振り回されて無理する事はない。

BEVとして見ればEQAはコスパ含めて悪くないクルマだと感じた。

実は動力性能を見ればEQAよりリーフe+の方が高性能だ。
しかもリーフe+の車重は1680kg(1番人気のアーバンクロムグレード)で310kgも軽い。
そして471万円で安い。走行可能距離も僅かに上。
つまり、リーフe+の方がEQAより高性能かつエコなのだ。

しかし、リーフの古臭く安っぽい内装を見ると、全く欲しくならない。私ですらそうなのだから、EQAを買おうと思う方は比較対象にすらしないだろう。
二代目リーフはその登場タイミングから、初代キャリーオーバーなセコいモデルチェンジとなってしまった事情は察するが。

今後の日産アリアに期待か。


当方はEQA人気の陰で売れなくなったGLAが中古市場に安く出てくるのではないかと期待している。GLAなら後席も問題無いだろう。

2年落ち辺りが300万円台で買えたら、良い選択だ。何せGLAは上位のGLCやGLEと同じデザイン意匠になったおかげで、素人目には区別つかないほどそれらに似ていて立派だ。

おっと、話が逸れた。

メルセデスが28年前に提唱しながら散った電動化の夢。
だいぶ遅くなったが、それを実現したEQAの登場は素直に評価すべきだろう。

EQA、悪くない選択だと思う。

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