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ゴアトランス。なぜこうなった?

そもそも昔のゴアDJはどうしていたのか。

ゴアトランス発祥の地、インドのゴアではDJたちはどんなスタイルでDJをしていたのでしょうか。
ゴアトランスが誕生する以前の1980年代ごろのゴアでは、ニューウェーブやEBM、アシッドハウスなどがプレイされていました。
暑いゴアの野外パーティーでは、レコードは熱で曲がったり、塵・ホコリで溝がダメになるため、レコードよりも熱や塵・ホコリに強く、デッキで再生速度(ピッチ)が変えられ、ダビング可能なカセットテープがDJで使われていたといいます。

やがて1990年初頭、ゴアで生まれ、あるいはゴアのパーティーでプレイされることを想定したゴアトランスの始祖的な楽曲が登場しだした頃、カセットテープはDATという高音質のデジタル・カセットメディアに置き換わられていました。
アーティストたちは作品をDATに録音してDJに供給するようになり、ソニーのDATウォークマン2台でDJをするというゴアトランス独特のスタイルが確立されました。
今は亡きGOA GILはCDJやPCが普及した近年も変わらず、このDATによるオールドスクールなDJスタイルを続けていました。

ソニー製のDATウォークマンとマクセル製DATテープ
亡きGOA GILのDJ風景。卓上にDAT WALKMAN2台、手前に多数のDATケースが見える。

このDAT、CDより高音質で録音、条件つきながら音質の劣化なくコピーできる、一発頭出しができる、というメリットから放送業界や音楽業界では一気に普及したものの、DJ向きとは言えない特徴も備えていました。
それは、「ピッチ(再生速度)を変えられない」という点でした。

ピッチが変えられないと、BPMが違う曲どうしを綺麗に繋ぐ事ができない。そこでDJやアーティストたちゴアトランス勢が考え出した解決策は、
「ビートのない長めのイントロとアウトロを曲に入れる」
「ビートのないブレイクやイントロでMixしてしまう」
でした。
ビートMixできないなら、曲の終わりのアウトロでシンセや効果音を鳴らして、同じように作ったイントロと重ねればいいよね、というわけです。

インドの伝統音楽にはドローン(持続音)を含むものがあり、ゴアトランスのアーティストたちはこうしたエッセンスを違和感なくイントロや楽曲に取り込んでいきました。
こうしてインドの土着音楽をも飲み込んで長大なイントロ、トライバル、ミステリアス、スピリチュアル、エキゾチックというゴアトランスのスタイルが形成されていきました。

当時CDJは使われてなかったの?

1990年代初頭、DJ用のCDプレイヤーはDENONやVESTAXからも出ていたものの、ラックマウント型だったり、デザインが特殊だったりと、あまり普及しませんでした。
それが一変したのが1994年。パイオニアから最初のCDJ、CDJ-50が発売されると、ターンテーブル同様にレイアウトして扱えるデザインやマスターテンポなどの機能が歓迎され、特に日本ではレコードが手に入らない曲をかけるため、DJブースのサブ機材として導入されるようになりました。

Denon DN 2000F
Vestax CD-11 DJ
Pioneer CDJ-50

一方、世界各地に飛び火したゴアトランスのシーンでもDATによるDJスタイルからの影響でイントロが長い楽曲が主流となり、BlueroomやTIP、Dragonfly、Spirit Zone、Matsuriなどのレーベルがゴアトランスのアナログレコードをリリースするようになっても、この流れは変わりませんでした。

ではCDJが普及した後はどうだったの?

90年代後半から2000年代初頭にはCD-Rの普及とともにDATやアナログレコードでのDJはCDJに置き換わられてしまいましたが、この頃には昔ながらのゴアトランスのリリースは激減しています。
代わって、ゴアトランスから宗教じみたエキゾチック・ミステリアス色を後退させ、よりアッパー&ポップ、サイバー&フューチャー感を前面に出した「フルオン・サイケデリックトランス」、あるいはゴアトランスの暗黒感やアシッド感をよりドラッギーなアプローチで表現した「ダーク・サイケデリックトランス」がシーンの主流になりました。
これらの新世代「サイケデリックトランス」は通常のDJがやるビートミックスを前提に楽曲制作されるようになりましたが、どちらもビートのない長めのイントロから始まるゴアトランスの様式を継承したものが多数でした。
特に「フルオン・サイケデリックトランス」では曲中で多様に展開し、起承転結やドラマを表現した楽曲が多く生まれました。
これはDJプレイの一部を担うツールとして、比較的ミニマルな構成に特化していったテクノとは対照的な進化をしたように思います。

検証!ゴアトランスはイントロが長い?

では本当にゴアトランスはイントロが長いのか、検証してみましょう。
とりあえず公平そうな基準として話題のAI、ChatGPTにGOA TRANCEの代表曲を10曲選んでもらいました。
Astral Projection - "Mahadeva"
Man With No Name - "Teleport"
Etnica - "Trip Tonite"
Pleiadians - "Alcyone"
Hallucinogen - "Shamanix"
UX - "Master of the Universe"
Transwave - "Land of Freedom"
Koxbox - "Stratosfear"
Miranda - "Gnocchi"
Green Nuns of the Revolution - "Rock Bitch Mafia"
なかなかのセレクションですね。
Pleiadians、Mirandaを入れてくるところが凄いと思いました。

Koxbox-"Stratosfear"はイントロですぐにキックがフェードインしてきますが、それ以外の曲はすべてシンセや効果音のイントロがしばらく続く構成になっています。テクノやハウスで一般的なバスドラムで始まる曲はひとつもありません。このように、DATによるDJスタイルがゴアトランスの様式の確立に与えた影響はとても大きいという事が言えるのではないでしょうか。

それがどうした?

長いイントロとアウトロを重ねるDJスタイルはゴアトランスが出始めた当時は有効だったかもしれませんが、現在のサイケデリックトランスでは、BPMを合わせて曲をつなぐビートミックスが主流で、楽曲もそれを前提に制作されています。
サイケデリックトランスのDJスタイルに慣れた今のクラブやパーティーのお客さんにとっては、昔のスタイルで1曲ごとに長いイントロを聴かされるのは困惑してしまうかもしれません。
では、今風にゴアトランスもすべてビートミックスで繋いでいけばよいのか?というと、そもそもオールドスクールなゴアトランスはあまりビートミックスを前提に制作されていない楽曲が多いので、やはり曲のポテンシャルを一部失ってしまうでしょう。
そこで、いろいろな分析や考察を通してゴアトランスへの解像度を上げ、「ゴアトランスのMix法の最適解を探る」というのがこのnoteの趣旨です。たいへん長くなりましたが、ゴアトランスを楽しみたい、盛り上げたい、ゴアトランスの輪を広げていきたい、そんな一心で開設しました。
何かひとつでもお役に立てる情報が共有でき、楽しんで頂けたら幸いです。

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