その光は粛々と

オレンジの灯りに包まれたひっそりとした阿蘇の宿で、囲炉裏端での夕食を終えた彼が言った。
「星を見にいこう。」
ふたりで宿を出て、少し歩いたところの草むらに腰を下ろした。むわと鼻腔に広がる青い香り、りーりーと鳴く虫の声、真っ黒な地面。仰ぎ見ると満天の星空。

音もなく真っ直ぐに星を掻き分けて進む小さな光を見つけた。
飛行機じゃないね、点滅してない。
あれはISS、国際宇宙ステーションだよ。

燃え上がる恋などなく、出会ってすぐにしっくりと収まった、縁側に並んで座る爺婆のような彼と私。
淡々と、粛々と、夜空をすべるあの光のよう。

ISSが通り過ぎていく。静かに瞬く星の下で、のちに夫となる彼にそっともたれかかった。

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