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おえっ てなるのと戦ってる

1ヶ月と少し前に奥歯が欠けた。その歯は、次男の出産時、まさに子を腹から外界に送り出す瞬間に襲いかかってきた内臓の痛みに耐えるべくギィィィと食いしばったらバキッとヒビが入ってしまった歯で、年子育児にかかりきりで放置していたのを渡米直前に日本で治療したのだが、あろうことかひっそりと虫歯になっていたようで、ある晴れた日の昼食どきカリッカリにおこげを作ったとっても美味しいチャーハンを食べたらポロンと小さく欠けてしまったのだ。
災難だ。

このご時世で歯医者も予約が取れないだろうと覚悟をして電話をかけたら、ちょうど30分後の枠がキャンセルになったので今から来れますか?と受付の人。常日頃から自分のことをラッキーが服を着て歩いているようなもんだと自負しているのだが、いやはやこれは本当にラッキーだった。その日に初診・定期検診を兼ねて上下全ての歯のチェックをしてもらい、12月末、二度目の歯医者で、被せ物を作るための歯型を取ってもらった。手際の良い歯科助手さんだったがレントゲンが口内に小さなフィルムを突っ込んで撮るタイプで、何度か「おえっ」となりかけた。


その日からどうも様子がおかしい。

歯磨きで歯ブラシを口に入れるたびに「おぇっ」となる。いままでそんなことはなかったのに。

口内をサッパリ気持ちよくしたいから歯磨きするのに、毎回「おえっ」でフィニッシュしてしまう。QOL(生活の質)ダダ下がりである。どんなに優しく磨いても「おえっ」となるので、だんだん怖くなってきた。実は知らないうちになんか病気にかかっていて、喉が弱っているから「おぇっ」ってなるのかなって。嫌なご時世だよ本当に。


「おえっ」「おえっ」と毎日えずいているうちに1ヶ月が経ち、欠けた奥歯の治療の日が近づいてきた。処置中に「おえっ」となって万が一吐いてしまったら大惨事である。なんとかして治したくGoogle先生に聞いてみた。

OK、グーグル「おえってなる 治し方」。
いかがでしたか記事が検索結果に並んだら嫌だなぁと思っていたが、歯医者さんのサイトがずらりと上位に出てきた。よかった。

「おえっ」となる現象にはちゃんと名前があって「嘔吐反射」というらしい。そして、嘔吐反射の主な原因は「トラウマ」らしい。

とら……うま……。

変な病気じゃなくて良かったけれど、少しだけショックだった。

嫌な出来事や何かに挑戦してできなかった無力感など、日常的に生じる「不快」は意識して解放する(抱え込まない)ようにしていて、だから、若い頃に比べると私の「不快をトラウマにしない」コントロール能力はかなり高くなったと思っていたからだ。
※ お医者さんにかからなければならないレベルのトラウマじゃなくて、小さいトラウマの話。大きいトラウマを自分ひとりでコントロールするのは難しいと思う。

そっかぁ。
トラウマって簡単に心に巣食ってまうんやな。


リラックスして口内から意識をそらすのが「おえっ」を治す方法だそうで、最近の私は歯磨きするたびにゴリラの赤ちゃんのことを考えている。

なんならゴリラの赤ちゃんを見ながら歯磨きをすることもある。

ゴリラの赤ちゃん効果はてきめんで、歯磨き中に「おえっ」となる回数が劇的に減った。歯医者当日も、お守りのようなゴリラの赤ちゃんと強めの麻酔のおかげで「おえっ」とならずに治療が済んだ。治してもらった奥歯だけアメリカ人ばりの白さで光っていて、なんだかそこだけ異様に人工的で、ちょっと気分がいい。

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