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リトルソルジャーというあだ名

私が過去につけられたあだ名の中で忘れられないのが「リトルソルジャー」である。これは、大学2年生の春休みにアメリカ短期留学した時にホストに付けられたあだ名だ。今となっては笑い話だが、当時は腹が立ったあだ名であり確かに的を得たあだ名なのだ。

初めての海外、初めてのアメリカ

私は短期留学するまで海外に行ったことがなかった。ドキドキしながらパスポートとVISAをとり、ワクワクしながら飛行機に乗ってアメリカへと旅立った。たった1ヶ月なのに空港には友達と家族が集まってくれたのを覚えている。留学先はカリフォルニアにあるパームスプリングスというリゾートエリアで、ステイ先の家は皆裕福だった。着いて早々道中に立ち寄ったフードコートで、友達とピザをシェアして食べたけど初っ端からアメリカ人の接客態度の冷たさに心が折れたのを覚えている。

私のホスト

私のホストは中東系でベジタリアンだった。犬がいると聞いていたけど、私たちがお世話になる少し前に亡くなっていて、ホストとホストの母親の2人暮らしだった。私は友人と2人でその家に1ヶ月お世話になった。家はプール付きで、庭にはレモンの木とグレープフルーツの木があった。私たちは毎朝カリフォルニアの明るい太陽をサンサンに浴びたグレープフルーツをもぎとって、メープルシロップと牛乳をたっぷりかけたシリアルと一緒に食べた。レモンの木にはレモンがたくさん実っていて、ドレッシングはいつもレモン味だった。(そしてこの習慣はなぜか今も私に根付いている。サラダにはオイルとレモンをかけるし、頻繁にグレープフルーツを食べる。)ホストはベジタリアンだったけど、私たちが食べるご飯はホストの母親が作ってくれ、肉も野菜も入っていた。

too much, too junk.

「too much」「too junk」これはホストがよく言っていた言葉だ。ホストは健康嗜好で、スーパーは決まってTRADER JOE’S。アメリカらしいジャンクフードを食べたくてやっとのことでCOSTCOに連れて行ってもらっても、私達が手を取る品は全て「多すぎる」とか「ジャンキーすぎる」などと却下された。

You are like a little soldier.

リトルソルジャー事件が起きたのはある日突然だった。大学の決まりで私達はホスト無しで自由に行動することが許されなかったので、大学に通うのもホストの送り迎えが必ず必要だった。ところがここで私達には大きな問題があった。ホストはとてつもなく時間にルーズで、おまけに朝起きるのが苦手だった。最初は私達も遠慮していたし、送り迎えをしてもらう身で文句なんて言えなかった。でも、毎朝自分達で朝食を用意して食べて、ランチのサンドイッチも作って、ハラハラしながらホストを起こし、毎日のようにクラスに遅刻する生活を続けていくうちに私達の不満は募っていった。ショートトリップのバスの出発時間にもギリギリか、時間に遅れて集合した。私はホストに何度も時間に遅れないでほしいとお願いした。ところがある日突然、「You are like a little soldier」と言われた。そしてその日を境に私が少しでも不満を言うとハイハイ、リトルソルジャー!とあしらわれるようになってしまった。きっと私の英語は拙くて、単純で、配慮の無い言い回しだったのだろうと思う。アメリカ人は確かにハッキリと物を言う人が多いけど、英語にも配慮のある言い回しというものがあるのだ。ああ、コミュニケーションは難しい。

わたしはリトルソルジャーだ

しかし、ホストとの仲は決して悪いわけではなかった。ロサンゼルスでオスカーのレッドカーペットを一緒に見に行きオスカーの発表に盛り上がったり、サンタモニカビーチをブルーノマーズの曲を歌いながら歩いたり、皆でケイティペリーのカリフォルニアガールズを歌いながらコロッケを作ったりした。たいしてホームシックになることもなく、英語力が格段に伸びることもなく、あっという間に1ヶ月が経ち私の春休みも終わった。かれこれこの短期留学から10年近く経つけれど、カリフォルニアは良い所だったしまた行きたいなあと思う。

そして、今でもたまにこのあだ名を思い出す。例えば誰かに強い口調で話してしまった時。私は自分にも他人にも厳しくないと思っていたけれど、そうでもないのかもしれないと気付いたのはこのあだ名のおかげだ。時間や礼儀にはうるさい方で初対面で馴れ馴れしくタメ口を聞いてきた人には心を開けない。棘のある話し方をしてしまう時もある。

私はたしかにリトルソルジャーだと思う。ちゃんと認めて、誰かを傷つけないように配慮してしながら生きたいなあと思う。

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