見出し画像

二本足大根、蜜柑、鮪

神奈川県三浦市。大根のまち。まぐろのまち。

元日、16時すぎ、市営バスから降りる。
なにくわぬ顔で夕焼けに染まろうとしている港にむかえられ、宿へ向かってあるく。やけにうるさく通知をよこすスマホをひらいて胸がざわつく。想像が現実を超えて恐怖を生みだして、高台はどこかとあたりを見回した。
穏やかな一泊を願いながら、あたたかさを灯した古民家の戸を引く。何かあったら僕たちが避難場所へ案内します、という宿の人の言葉に安心して本をひらいた。MIURAへの移住手引き。カレーのレシピブック。

手づくりの夕食をいただいた。イナダというブリの幼魚やマグロのお刺身、はまぐりの味噌汁。
大根畑へ車を走らせて、明かりのひとつもない場所で美しい星空を見上げた。木星、オリオン座、シリウス、プレアデス星団。
何万光年という単位をあつかう宇宙のおおきさに耐えきれず、わたしたちの自意識は歪む。ひとつの星から目を貫くかのように放たれる光線のまばゆさに、わたしたちの望みはいとも簡単に弾かれる。

あたたかい部屋で、きれいな布団につつまれて、友だちの横で、安心して眠りについた。小綺麗な男性が家の隣で、なにかをまもるために銃を連射する夢をみて目覚めた。ちゃんと朝が来たことを、ちゃんと言葉にしてよろこんだ。

海を真下に見おろしながら陸と陸をつなぐ橋を歩いて、水平線から昇る朝陽をみた。寄り道しながら歩いて帰る、二本足大根に蜜柑をのせた大胆なしめ縄。スナックの少し派手なしめ縄。
宿、やわらかい湯気のとなりでまた本を読んだ。インドのタラブックスという、とても美しい絵本をつくる出版社についての本。それから自己紹介では牡蠣フライについて語るべきだと主張する小説家の雑文集。1995年の1月と3月に起こった出来事について。アンダーグラウンド。村上春樹。

空腹の合図。
甘じょっぱい卵焼きに鮪の照り焼き、あおさの味噌汁、朝食をうまいうまいと口へ運んだ。


雨降る箱根駅伝を横目に三崎を満喫して、北へもどる。電車は急ぐ。揺れがすこし気になって、昨夜の星空を思い浮かべる。

ひとりになる。ひとりになったらやっぱり心寂しくて、でもくよくよしている暇はないと手を動かす。口も動かす。


自然のもたらす災いと科学の進歩はいたちごっこで、防ぎようのないそれの訪れに、あるいはそれに引きずられるように起こる混乱に脅かされて、いつだってわたしたちはたたかうことを余儀なくされる。

もう大丈夫と言われても、次なる災いがやってきて、もうしないと誓っても、次の惑わされる時がやってきて、この世に安心安全などないことを知っているのに絶望する。

大きな主語で語っても何も変わらないけれど、せめて、生きることにともなう希望について語っていたい。

星のまばゆさに勝てなくても、わたしの大きな希望を語りながら生きていく。


2月には間借りカフェの第2弾をやります。会いたいひとに会いに行き、Podcastを配信します。もしかしたらTrout Fishing Club としてのあたらしい活動もはじめるかもしれないです、feat. 待たないさん。
名刺もできました、裏にかいた言葉、"Live your life as you are."。これをひっさげてTシャツもつくりたいしキャップもつくりたい。あれもこれもそれもどれも自分色に染めてしまいたい。


いちばんすきな本、を聞かれても明確な答えが出せなかったけれど、今日、やはりこれだと確信した1月2日。2023年の初めに読んだ『旅をする木』。
うん、やっぱりこれ。