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就職先(としての法律事務所)の選び方

司法試験が先月終わり、いよいよ就職が気になりはじめる方も多くなる時期かと思います。
すでに司法修習も折り返しに入っている時期ですので、72期の方は余計に。

Readyforにいらっしゃる弁護士の草原先生が「弁護士事務所の選び方」という素敵なエントリーを出されており、僕も良い機会ですので、少し珍しいキャリアを選んだ身として、考えをお伝えしたいと思います。
(なお、ちょうど同時期に就職活動をしていた妹にも同じ話をしていたため、弁護士のみならず、コンサルを含む一般的な就職活動にも繋がる内容だと考えています。)

まだ存在しない事務所に就職を決めた

僕は、特に企業法務がやりたい!という熱烈な思いがあったわけではないですが、70期の弁護士として、森・濱田松本法律事務所から独立した弁護士らが創設した法律事務所ZeLo・外国法共同事業に新卒で入所しました。
今でこそ、代表らが創業した株式会社LegalForceへの注目も含めて次第に法曹界で名前が聞こえる事務所にはなりましたが、私が就職を決めた時期は、まだボスたちが前の事務所にいる頃でした(オフィスすらなかった…)。

四大法律事務所を含め、老舗・大手の法律事務所にももちろん興味がないわけではなかったため、他の就活生と同じように、事務所訪問等をしていました。

ただ、どうにもしっくりこない。

なんとなく、「自分の居場所はここじゃない」感を抱くうちに、事務所訪問はおろか、履歴書を送ることさえ辞めてしまいました。まぁどうにでもなるかなどと思い始めたころ、今の事務所のボスたちが「俺たち独立するんだけど、来る?」と声をかけてくれ、飛び込んだという次第です。(本当にこんな感じで決めました。特に省略していません。履歴書をボスたちに送った覚えすらありません。)

給料もわからない、事務所がどこになるのかもわからない。
そもそもどんな案件があるのか、どんなクライアントがいるのかもわからない。
そんな中でも全く迷いなく今の事務所に飛び込めたのは、今の事務所が良かったからではありません(というか当時まだ事務所がなかったから事務所が良いとかそういうのがなかった)。自分なりの判断基準に照らし合わせれば、迷いなく今の事務所しかなかったからです。

判断基準①Vision親和性(ビジョナリーか)

何より、その事務所は何を目指すのかを確認するために、創業者・ボス・パートナーのビジョンが重要です。僕の場合は、トップにいる人間たちがビジョナリーか否かが決定的に重要でした。
ですが、「ビジョンは何でしょうか?」という質問に明確に答えられる法律事務所が本当に少ない。あるいは「クライアントの価値の最大化」など、小学生でも言えるようなことを言い返されたこともあります(クライアントの価値の最大化を図らない事務所はそもそも代理人として失格)。
なぜかこの質問に「法曹界を革新し、世界一の事務所を創る」と答えてきたのが今の事務所のボスたちでした。「よし、この人たちとなら美味しくご飯食べられそう」と思ったのを覚えています。

判断基準②一人あたりの裁量の大きさ

いま、イスラエルと中国で安全保障を学べると言われたら、間違いなく僕はイスラエルに行きます。理由は13億人の中で競争して上に行くことは馬鹿げているので。
「中国のほうが大きな絵が描けるぞ」というのは大手企業がよく使う誘い文句。学部生時代に就活したときも大手企業には特にそれを言われました。
しかし、本当は「一人あたりが描く絵の大きさ」のほうが個人目線では重要です。とにかく僕は自分が自由に暴れられ、社会を前進させる方法を見つけたら何でも挑戦させてくれる事務所じゃないと死んでしまうので、自分がどこまで裁量をもって業務を行えるかを基準にしていました。
ちなみにこれは向き不向きがあって、大きな組織の中に入って組織全体で大きな絵を書いたほうが力を発揮できる人もいると思います。

判断基準③0→1で独占できるか

弁護士から世界一の投資家になったピーター・ティールが著書『ZERO to One』で述べた基準です。
市場競争という無駄な努力を避け、「0から1」を生み、その市場を独占できる場所はどこか。百貨店に並べられるコモディティ化された商品(次から次へと大量生産される)ではなく、セレクトショップにしか売っていない一点物を目指せる場所はどこか。
ガートナーのハイプ・サイクル然り、もはや産業構造は「変化」こそ「現状」であり、「現状維持」などありえません。そんな世界で、すでにある産業構造の中で競争を行う意味は少なくとも僕には感じられませんでした。
時計職人の学校に行って、たくさんの優秀な職人候補生と時計のネジを巻いてるうちに、アメリカ西海岸がスマートウォッチを開発してしまい、誰も手巻き時計を買わなくなったなんていうのは、全く笑えないジョークです。

判断基準④計画的偶発性の観点からの確度

有名なキャリア理論である「計画された偶発性理論」があります。スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授の理論ですが、簡単に述べると、
・個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される
・その偶発的なことを計画的に導くことでキャリアアップをしていくべき
ということです。
多くの就活生は、「将来何をしようか」、「何を専門分野にして生きていこうか」と悩んでいると思いますが、将来はほぼ確実に予測不可能で、視点は将来ではなく現在に置くべきです。そして、現時点で取りうる最良の方策は、予期しないポジティブな偶然を意図的・計画的に作り出すこと(あるいは作り出せる場所にいること)です。
クランボルツ教授はいくつかそのための要素をあげているのですが、端的には、「持続的に好奇心を持ち、楽観的かつ柔軟に挑戦できる(リスクを取れる)環境か」によってこれが左右されます。
したがって、僕は専門分野をいきなり決定されず、様々な案件・クライアントに携わることができ、かつ、変化し続けるビジネスの世界で常にビジネスジャッジを身近に確認できる場所を選ぼうと考えていました。

判断基準⑤テクノロジー志向か

大学院時代から社会起業し、エンジニアらと仕事をしてきた僕は、「人間が人間にしかできない仕事」ができる環境を求めていました。5つ目の判断基準として書きましたが、実際のところはこれを満たす事務所を探すことは非常に難しいと思います。
ZeLoにはエンジニア出身の弁護士が複数おり、ビジネスパートナーとしてのLegalForceはもはやエンジニアとデザイナーのプロ集団です。日々、いかに弁護士が弁護士にしかできない業務に集中するかを考えられる環境は、世界のライバルを見据えて戦う上でこの上なく重要です(アメリカ西海岸に勝たないといけない)。

判断基準⑥最初の上司は誰になるのか

最後に、何千人も人材を見てきた人事の達人から教わった就活基準が「最初の上司が誰になるのか」です。
結局のところ、どれだけ教育システムが優れていようと、大手であろうとスタートアップであろうと、最初の上司がどれだけ優秀で自分に合っているかが、数年間の爆発的成長を左右します。ですから、僕は必ず面談などで「上司は誰になるのか、どのように決まるのですか」と聞いていました。

計算方法はマリッサ・メイヤーのパクリ

以上の判断基準にそれぞれ5点満点なりで点数をつけ、重要視する判断基準に加重平均すれば、自ずと行くべき場所は見えてきます。
この計算方法はGoogleの20番目の社員で、後にYahoo!CEOになったマリッサ・メイヤーのパクリです。が、あまり失敗したことはありません。
ありがとうマリッサ。

興味がある方はぜひZeLoにもお越しください

今までたくさんの法律事務所を見てきた方にとって、上記の判断基準の多くが大変めずらしいものだと思います。どの分野が強いだとか、どういう案件が多いだとか、そういうことは僕は気にしていませんでした。何をするかよりも誰とするかによって素晴らしい計画的偶発が生じるからです。

さはさりながら、企業法務に興味があり、世界を目指してみたいという方は、ぜひ法律事務所ZeLo・外国法共同事業の採用ページをご覧下さい。
おそらくどんな事務所よりも仕事は厳しいかもしれません。クオリティに妥協しない姿勢は狂気じみているかもしれません。
しかし、「法曹界を革新し、世界を美しくする」という弁護士たちの思いはきっと魅力的ですので、ご応募いつでもお待ちしております。

追伸

せっかくなので、【追加で今なら考えるだろう判断基準】も付記しておきます。

判断基準⑦世界と戦えるか

英語を使うことは当たり前として、どこまで世界に挑戦できるのか、世界をマーケットとして考えることができるのか、というのは考えておくべきだと思います。
ZeLoはすでに外国の弁護士資格保有者が多数在籍していますが、まだ事務所がなかった当時からすれば、計画的偶発が生じたと感じています。

判断基準⑧心理的安全性が高いか

Googleが大規模労働改革プロジェクト「Project Aristotle」でリサーチし、公表した、「チームの生産性を高める唯一の方法」こそ「心理的安全性」です。必ずインターンなどで事前に事務所を確認し、そこにいる弁護士や秘書たちがどのように仕事をしているのかを確認すべきです。
パフォーマンスの最大化、チーム内の心理的安全性に配慮している事務所があれば、超一流の事務所でしょう。


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