デビッド・リンチは「リンチさん」になっていた【Cafe&Bar LYNCH探訪記】
行ってきました迷宮へ
ああ松島や松島や
牡蠣小屋遊覧なんのその
観光結構また次ね
杜の都を後にして
走るは一路マルホランド・ドライブ
小一時間の内面行路と洒落こむと
見えてくるはどでかいLYNCH
神さびたツインピークス松島の街
赤と金の竜宮城のお目見えだ
それこそ人知れず異世界へとつながるポータル
現実世界の通行人は素通りしてしまう鮮やかな罠
何かが始まりそうな
映画がはねた後のような
その磁場に引き込まれるように
扉を開ければ万華鏡
そこは劇場・リンチワールド
マホガニー家具に総革張りチェスターフィールド
所狭しと積み重なったDVDにBlu-ray
時代の空気感を吸い込んだ舞台セットの数々が
ご主人の帰りを待っている
デイビッド・ボウイにクラフトワーク
鈴木清順、タルコフスキー
ベルイマンにフランシス・ベーコン
異彩を放つ同朋たちも脇を固める
おやおやこれぞ正統シュールレアリスト
デビッド・リンチさんのお目通し
いわずとこちらのご主人様だ
ところがどっこいリンチさん
この劇場のオーナー(女主人)になっちゃった
その名も愛称「リンチさん」
全世界漫遊してみても
自他ともにその称号が
彼女ほど相応しいものはなし
それというのも高校時代に観た映画
それがツインピークスの迷宮劇
これこそ自分の目指した世界
丸ごと人生決定だ
建築学を学ぶも内心は
ただひたすらに
”LYNCHの名を冠した店を持ちたい”
寝ても覚めてもリンチ、リンチ
(あれ?、どこかで聞いたフレーズだ)
その後ビレヴァンで働くも
リンチ愛は覚めやらず
すでに自身の将来の
設計図は固くまっしぐら
夢の続きかうつつかと
探る間もない2011年
東日本大震災の爪痕残る松島に
具現化しましたカフェ「RYNCH」
複雑な入り江を持つ松島は
海辺なのに浸水せず
他所のような被害を免れて
幸い住むと人のいう
シャワーさえあれば、ここに住めるとリンチさん
デビッドリンチは彼女の魂
お店はその肉体の一部となれぞかし
この地に根付いて十余年
そこに集う「同じ種族」たちと
異界の夢を共有す
ああ稀有な空間
時空の裂け目
どこかおかしいと思慮するも
何がどうおかしいのか分からぬ人へ
非現実世界のリアルさが
あなたの世界はかくしておかしいと
明快な説得力をもって突き付ける
ああ誰ぞ知るやリンチワールド
甘美・醜怪・リアリティーに非現実
あまたの形容ものともせず
孤高の精神ここに息づく
※参考;『INTERVIEW WITH CAFE&BAR LYNCH IN 松島』(発行者・ベルク郎)=店内で購入できます(500円)。
※このほか、同店は過去に『別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)』に「デビッドリンチを巡る聖地」の一つとして取り上げられ、遠方からの来客もあるそう。
デビッドリンチに触れた他の拙稿
東洋哲学に触れて40余年。すべては同じという価値観で、関心の対象が多岐にわたるため「なんだかよくわからない」人。だから「どこにものアナグラムMonikodo」です。現在、いかなる団体にも所属しない「独立個人」の爺さんです。ユーモアとアイロニーは現実とあの世の虹の架け橋。よろしく。