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デビッド・リンチは「リンチさん」になっていた【Cafe&Bar LYNCH探訪記】

インパクトのあるファサード=入念に磨きこまれた内部とは真逆に、外観は窓ガラスも磨いたことがなく、むしろ汚れるに任せる主義。出来れば、壁面がツタで覆われてしまっても構わないという

行ってきました迷宮へラビリンズ
ああ松島や松島や
牡蠣小屋遊覧なんのその
観光結構また次ね


杜の都を後にして
走るは一路マルホランド・ドライブMulholland Drive
小一時間の内面行路インナートリップと洒落こむと
見えてくるはどでかいLYNCH


かんさびたツインピークスTwin Peaks松島の街
赤と金の竜宮城のお目見えだ
それこそ人知れず異世界へとつながるポータル
現実世界の通行人は素通りしてしまう鮮やかなトラップ


何かが始まりそうな
映画がはねた後のような
その磁場に引き込まれるように
扉を開ければ万華鏡

広い店内は落ち着いたムードでくつろげるが、忽然とETの等身大フィギュアやらが出現したり、
リンチ一流の茶目っ気というか、ヴァンガードっぽいキッチュな遊び心ものぞかせる

そこは劇場シアター・リンチワールド
マホガニー家具に総革張りチェスターフィールド
所狭しと積み重なったDVDにBlu-ray
時代の空気感を吸い込んだ舞台セットの数々が
ご主人の帰りを待っている

ソファーなど家具は重厚な英国アンティークが主流

デイビッド・ボウイにクラフトワーク
鈴木清順、タルコフスキー
ベルイマンにフランシス・ベーコン
異彩を放つ同朋フレンズたちも脇を固める

リンチ作品のみならず、たくさんの映画、音楽、絵画等のファイルがいっぱいの店内

おやおやこれぞ正統シュールレアリスト
デビッド・リンチさんのお目通し
いわずとこちらのご主人様だ

雑誌『THE BIG ISUE』のデビッド・リンチ特集

ところがどっこいリンチさん
この劇場のオーナー(女主人)になっちゃった
その名も愛称「リンチさん」
全世界漫遊してみても
自他ともにその称号が
彼女ほど相応しいものはなし


それというのも高校時代に観た映画
それがツインピークスの迷宮劇
これこそ自分の目指した世界
丸ごと人生決定だ
建築学を学ぶも内心は
ただひたすらに
”LYNCHの名を冠した店を持ちたい”


寝ても覚めてもリンチ、リンチ
(あれ?、どこかで聞いたフレーズだ)
その後ビレヴァンVillage Vangardで働くも
リンチ愛は覚めやらず
すでに自身の将来の
設計図ゆめは固くまっしぐら


夢の続きかうつつかと
探る間もない2011年
東日本大震災311の爪痕残る松島に
具現化しましたカフェ「RYNCH」


複雑な入り江を持つ松島は
海辺なのに浸水せず
他所のような被害を免れて
幸い住むと人のいう


写真左上から反時計回りに「マルゲリータ」=クリスピーな触感とモッツアレラ、特にフレッシュトマトが美味しくてあっという間に胃の腑に→「オムライス」=デミグラスソースがかかった大人の味→ツインピークスの主人公・クーパー捜査官が好んだ名物の「チェリーパイ」最高です。→ケーキセット=デビッドリンチは大のコーヒー付きで「リンチコーヒー」まで作った男。薫り高い。
いずれもこだわりの御主人にして、さもあるらんと頷くこだわりの味で大満足。しかも廉価です。


シャワーさえあれば、ここに住めるとリンチさん
デビッドリンチは彼女の魂
お店はその肉体の一部となれぞかし
この地に根付いて十余年
そこに集う「同じ種族」たちと
異界の夢を共有す


ああ稀有な空間
時空の裂け目


どこかおかしいと思慮するも
何がどうおかしいのか分からぬ人へ
非現実世界のリアルさが
あなたの世界はかくしておかしいと
明快な説得力をもって突き付ける


ああたれぞ知るやリンチワールド
甘美・醜怪・リアリティーに非現実
あまたの形容ものともせず
孤高の精神スピリッツここに息づく


※参考;『INTERVIEW WITH CAFE&BAR LYNCH IN 松島』(発行者・ベルク郎)=店内で購入できます(500円)。

「なぜデビッドリンチ?」「なぜ松島?」
の答えが、この小冊子に収められている

※このほか、同店は過去に『別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)』に「デビッドリンチを巡る聖地」の一つとして取り上げられ、遠方からの来客もあるそう。

お気軽なあなたの書斎として、または歓談の場として

映画好きやジャズ好きというと、なんだか素人には敷居が高いのでは?といった印象が免れませんね?
偉そうにリンチがどーのなんて書いている僕にしたって、彼の映画は全部仔細に見ておらず、どのシーンがどの映画さえも不明瞭な体たらく。
それでいて、”聖地”に突撃訪問をかけるって、いったいどんな心臓をしてるのか? と我ながら思う。

案の定、リンチさんとの初対面に、僕はとんでもない愚問を発してしまった。
「あの~、デビッドリンチはずっと以前からお好きなんですか?」
とかなんとか。
でも、ご主人リンチさんは、
「はい、そんなんだからこんな店を構えちゃったんです」
と優しく返していただいた。

映画でもジャズでも何でも垣根はないんです。
好きな人にはさらに深掘りを、マニアックな考察をネタに語りあえばいいだけの話。
でも、下戸でもその(酒場の)雰囲気が好き!
ってのもたくさんいらっしゃいます。

もともとリンチ映画など、「分かるはずがない」のが大前提です。
なんせ、当の本人もツインピークスでの犯人が誰なのかはどーでもよく、撮影を進めていたとか・・。
映画のプロットがどーの、ストーリー展開がどーのなんてここでは大して重要ではないのです。
そんな雰囲気好きの方がむしろリンチワールドにふさわしい。
実はそんな開かれた空間が、この「カフェバーLYNCH」にはあります。


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東洋哲学に触れて40余年。すべては同じという価値観で、関心の対象が多岐にわたるため「なんだかよくわからない」人。だから「どこにものアナグラムMonikodo」です。現在、いかなる団体にも所属しない「独立個人」の爺さんです。ユーモアとアイロニーは現実とあの世の虹の架け橋。よろしく。