見出し画像

集合の濃度の足し算、掛算、累乗

こんにちは。今回は集合の濃度に対しての演算について話そうと思います。
集合の濃度、というのは、「個数」の拡張版でしたね。
個数の拡張に対して足し算や掛算を定義するのですから、もちろん有限集合のときに自然に考えられるようなものになります。

足し算から考えてみましょう。
まず、有限の集合同士のときに考えてみます。ある有限集合A、Bがあって、Aの濃度(有限だから個数といってもいい)はa, Bの濃度をbとします。
さらに、AとBの中身はすべて違うものとしましょう。
ここで、a + bという濃度をなんの濃度にするべきでしょうか?
…これは思いついた人もたくさんいるかもしれませんね。
a+bの濃度は、AとBを全部あわせたものの濃度、とすればよさそうですね。
ここで注意しておくのは、「AとBの中身はすべて違う」という条件は必要です。AとBの中に同じものがあると合わせてもきれいに足し算になりませんからね。
では、これをそのまま一般の濃度、つまり無限もふくめた濃度に対して定義しましょう。


a, bを濃度とし、A, Bを、cardA = a,  cardB = b $${A \cap B = \varnothing}$$ を満たす集合とする。
この時、濃度a+bを、card($${A \cup B}$$)で定義する。


これで濃度の足し算を定義したわけですが、この定義がちゃんと定義できているかを確かめなければなりませんね。チェックするのは下の二つです。

  1. それぞれの濃度に対して、cardA = a,  cardB = b $${A \cap B = \varnothing}$$ を満たすような集合A, Bをとってこれるのか?

  2. 条件を満たす集合A, Bの取り方によってa+bの意味が変わったりはしないか?


一つ目に関して、まずcardA = a,  cardB = b となる集合A, Bをとってきます。(これはとってくることができます。これは、「濃度」が「集合間の全単射の存在」という同値関係による同値類で定められているからです。 同値関係についてはたぶんいつか話します。気になる人は後でググって、とりあえず今は認めてください。 感覚的には、「もしa=cardAとなるAが存在しなかったのなら、その濃度aとか考えなくてよくね?」って感じです。)
そのようなA, Bをとってきたとして、

$$
A^\prime \coloneqq \{(0, \alpha) | \alpha \in A\} \\
B^\prime \coloneqq \{(1, \beta) | \beta \in B\}
$$

とすると、$${cardA = cardA^\prime,   cardB = cardB^\prime}$$となります。(確かめてみてね)
しかも、これは明らかに互に素($${A^\prime \cap B^\prime = \varnothing}$$)ですね。これで条件を満たすようなA, Bを作ることができました。

次に二つ目に関してですが、これは、$${ cardA = cardA^\star, cardB = cardB^\star, A \cap B = A^\star \cap B^\star = \varnothing }$$ としたときに、 $${card(A \cup B) = card(A^\star \cup B^\star)}$$ が成り立つことを示せばいいですね。濃度が等しいというのは、その間に全単射な写像が存在することです。時間がある方はこれの証明をやってみましょう!

この二つがチェックできたら次は掛算を考えてみましょう。


今回も有限個の時から考えましょう。

cardA =a  ,  cardB = bとします。A, Bが有限個の時、a, bは単純にA、Bの要素の個数を表しています。では、この時、Aから一つ、Bから一つ要素をとってきて、それぞれAの箱、Bの箱に入れるとすると、箱の中身の組み合わせは何通りあるでしょうか?…これは数Aの範囲ですかね。答えはa×bです。
つまり、「AとBのそれぞれの要素の組み合わせすべて」の集合の濃度はa×bになるわけです。
では、一般の場合にもこれで定義しましょう。


濃度a, bに対して、cardA = a , cardB = b となる集合A, Bをとる。
濃度a ×bを、card(A ×B)で定義する。
ただし、A ×B = $${ \{ (\alpha, \beta) | \alpha \in A, \beta \in B\} }$$


掛算に関しても,確認しないといけないことがありますね。
濃度に対応する集合の存在については足し算の時に話しました。
もう一つ、確認することは、

$$
cardA = cardA^\star, cardB = cardB^\star のとき、 \\
card(A×B) = card(A^\star ×B^\star)
$$

です。これもやる気がある方はやってみましょう。


次が最後です。濃度の累乗を計算してみましょう。
同じく有限個の時に考えてみましょう。 a個の要素を持つ集合Aとb個の要素を持つ集合があったとしましょう。では、a$${^b}$$はどのように定義すればよいでしょうか?

これも、数Aの場合の数で累乗を使った場面を想像してみればわかるかもしれません。Bを、b人の人の集まり、Aをa種類のお菓子の集まりとします。 ここで、b人それぞれが、Aの中で、自身の一番好きなお菓子をえらび、それを指さします。この時の全体の指のさされ方は何通りあるでしょうか?  
答えはa$${^b}$$となりますね。
それぞれがお菓子を自由に指をさす、というのは数学としてはどういう状況でしょうか。 Bの人はそれぞれ好きなお菓子を一つ決めて、それを指さしているわけですね。これは、言い換えると
Bのそれぞれの人に対して、その対応先(好きなお菓子)となるAの要素を指定している、ということになります。つまり、これはBからAへの対応(写像)を一つ指定していることに他なりません。
逆に、一つBからAへの写像を指定してやると、Bのそれぞれの人は、写像での行き先に指をさせばいいわけですね。つまり、指のさされ方と、B→Aの写像は、1対1対応になっている、ということになります。
一対一対応が存在すれば、その二つの個数(濃度)は等しい、というのは集合の濃度1の話でやりましたね。なので、BからAへの写像は、全部でa$${^b}$$個あることになります。
では、一般の濃度に対して定義しましょう。


a, b を濃度とし、
a = cardA, b = cardBを満たすA, Bをとる。
このとき、濃度a$${^b}$$を、card( Hom(B, A) )で定義する。
ここでHom(B, A)は、BからAへの写像全体の集合である。


今回も、確認すべきことは、

$$
cardA = cardA^\star, cardB = cardB^\star のとき、 \\
card(Hom(B, A)) = card(Hom(B^\star , A^\star))
$$

です。これはちゃんと示しておきます。

まず、仮定より、$${A^\star}$$からAへの全単射$${f_A,  B^\star}$$からBへの全単射$${f_B}$$が存在します。
Hom(B, A)の元g:B→Aの$${Hom(B^\star , A^\star)}$$への対応先H(g)として、        $${f^{-1}_A \circ g \circ f_B}$$をとりましょう。
この写像Hが全単射となることを示せばいいですね。


$${\boxed{単射性}}$$ 
BからAへの二つの異なる写像s, tを任意にとってきます。
この時、あるb$${\in}$$Bが存在して、s(b) $${\neq}$$ t(b)となります。(二つの写像が「異なる」からですね。) しかも、$${f_B}$$は全射ですから、
$${f_B(x) = b}$$となる$${x}$$が存在します。では、s, t, のHでの対応先H(s), H(t)に$${x}$$を入れてみましょう。
$${x}$$の定義から、$${H(s)(x) = f^{-1}_A (s(b)),   H(t)(x) = f^{-1}_A(t(b))}$$
ですが、s(b) $${\neq}$$ t(b)で、さらに$${f_A^{-1}}$$の単射性から、 $${ f^{-1}_A (s(b)) \neq f^{-1}_A(t(b))}$$
よって、H(s), H(t)にある$${x \in B^\star}$$を代入すると、違う値を返すことがわかったので、単射性はこれでOKです。

$${\boxed{全射性}}$$
$${Hom(B^\star , A^\star)}$$の任意の要素(写像)pをとってきたとき、
g $${\coloneqq f_A \circ p \circ f^{-1}_B}$$ とすると、
H(g) = p となります。


これで濃度の足し算、掛算、累乗を定義することができましたね。
この濃度の演算に関して、普通の自然数に対して成り立つことが濃度の演算でも成り立つことがおおいです。(そうでなかったら個数の拡張といえませんからね。)
下にいくつか例を書いていきます。$${a, b, c}$$を濃度とします。

$$
・card \Lambda = b , \lambda \in \Lambda に対して、cardA_\lambda = a, \lambda \neq \lambda^\prime ならA_\lambda \cap A_\lambda^\prime = \varnothing \\
なら、card(\displaystyle{\bigcup_{\lambda \in \Lambda} A_\lambda}) = a \times b \\
特に、\underbrace{a + a + \cdots + a}_{n個} = a \times n
$$

$$
・a \times (b + c) = a \times b + a \times c
$$

$$
・\underbrace{a \times a \times \cdots }_{b} = a \times b
$$

$$
・a ^b \times a^c = a^{b + c}
$$

$$
・(a^b)^c = a^{b \times c}
$$


証明は省いてますが、こんな感じで、普通の数と似た感じで濃度を扱うことができます。ただし、無限の濃度に対して、濃度を計算するときは気を付けないといけません。a が無限の濃度だとすると、
a + a = a, とかa $${\times}$$ a = a などが成り立ちます。不思議ですね。
ちなみに、aを自然数の集合の濃度、bを実数の集合の濃度とすると、aとbの間の濃度が存在するのか、という問題があります。これを連続体仮説といって、存在してもしなくても矛盾しないそうです。
今回はここまでにします。読んでくれてありがとうございました。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?