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「切り絵で世界旅」闘牛(マドリッド/スペイン)「真実の瞬間」を求めて、熱狂する観客

 闘牛には順序がある。まずバンデリリェーロ(主役のマタドールの助手)がピンク色のマント、カポーテを使って牛を煽り、馬に乗ったピカドールが槍で牛を突き刺すなどして、牛を徐々に弱らせる。ピカドールが乗る馬に牛が体当たりをすると、ドスっという凄まじい音が響き渡る。そして最後に主役のマタドールが登場する。ムレータと呼ばれる赤いマントを自在に操って牛を交わす演技を見せた後、ラストは牛の突進を交わしながら急所を剣で一突きする。これで牛が息絶えれば一回戦の終了。これを6回、約2時間ほどかけて行う。


 ガイドをしてくれた闘牛フリークの日本人のおばちゃんが声を涸らして見どころをしゃべりまくる。
 「日本人の私がスペインで闘牛を見初めてもう10数年もたちますね。自腹で年に何回も闘牛を見ているけど、それほど面白いものなんですよ。優れたマタドールであるかどうかの基準の一つは、牛をかわすときに、腰(尻)が動くかどうか。度胸がないと、どうしても動いてしまいます。牛には、背中のある部分にわずか数センチほどの急所がある。そこにうまく剣が刺さると、背中から心臓まで一気に貫いて、剣の鞘の部分まで入る。すると、牛はころりと倒れて死ぬんです。でもこれが難しい」

 ちなみに、マタドールが牛にとどめをさす行為は「真実の瞬間」と呼ばれている。さらに牛の習性についてのレクチャー。「牛は、赤いものに反応するのではなく、動くものに反応する。さらに目が横に付いているので、前は死角になる。こうした牛に習性を利用して闘牛は成り立っているのです」
 なるほど。よくわかる。そして次のように付け加える。
 「1シーズンに50試合ほど見ているけど、本当に感動できるのは5回ほど。でもその5回は震えるほどの感動なんです」
 ムレータを使って連続で牛を交わすことができれば、観衆から大歓声があがり、試合が終わるごとに、熱狂した観客たちが白いハンカチをふる。
 今日の闘牛は、おばちゃんにはどう映ったのか分からないが、私にとっては改めて伝統と命の重みを考えさせる貴重な経験だった。

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