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守備位置を見ればわかるベンチの意図 2022/5/17今日のワンプレー

9回裏1点リードの守備。1アウト1・3塁。あなたが監督ならこの場面をどのように切り抜けたいと考えるであろうか。

もちろん無失点で抑え勝利で終えるのがベストである。しかし、危険を冒して何がなんでも無失点で抑えることを考えるよりも、双方投手陣の残り駒や打線の巡りなどを考慮してベンチは「最悪でも同点」と考えるケースもある。

人の頭の中は見えない。しかし守備体系を見るとベンチが何を考えているのかがわかる。17日のヤクルト-阪神戦。9回裏1-0でタイガースがリード。1アウト1・3塁で1点を守りたいタイガースはどのような守備体系だったのかを見てみよう。

ファースト・サードは定位置よりやや前方。セカンド・ショートもほぼランナーの走路上辺りにポジションを置いている。極端な前進守備ではなく「どんな打球でも絶対に3塁ランナーをホームインさせない」とまでは言えない体系だ。


この守備体系の場合、内野手が処理できるゴロの場合、それぞれの内野手がとるべきアクションには2つの選択肢がある。

1.
1塁ランナーを2塁で封殺。その後1塁へ転送するダブルプレーを狙う。成功すれば無失点で3アウト。

2.
バックホームして3塁ランナーをホームでアウトにする(もしくは三本間の挟殺プレーに持ち込む)。成功すればこのプレーで得点されることはない。2アウトでランナーが2人残った状態で次の打者を迎える。

では2つの選択肢をどのようにして選ぶのか、それぞれ詳しく見てみよう。

1.ダブルプレー
「速いゴロ」はダブルプレーを狙う。1アウトからのダブルプレーで3アウトチェンジが理想だ。

ダブルプレーを完成させるにはある程度スピードがある強めの当たりのゴロである必要がある。内野手が捕球するまでに時間を要するボテボテとしたゴロだと1塁を駆け抜ける打者走者をアウトにする事ができない。ダブルプレーが取れなかった場合、1点追加(17日のケースだと同点と)されなお2アウト1塁という状況が残る。

2.本塁へ送球
1の逆である。弱いゴロでダブルプレーを完成させるのが難しいと判断した場合はバックホームで3塁ランナータッチアウト(あるいは三本間での挟殺)を狙う。ダブルプレーで3アウトを取れなくても失点だけは防ぐ。

つまりこの守備体系は「内野ゴロでは絶対に得点に至らせない」「あわよくばダブルプレーで3アウト、試合終了させる」というベンチの意思が見えたフォーメーションなのである。

一方こちらは他の日のゲームの一場面。「とにかく3塁ランナーをホームインさせない」ことにフォーカスした守備体系である。

さきほどの画像よりもセカンドとショートがやや前であることが確認できる。何がなんでも3塁ランナーをホームインさせたくない場合はこのように極端な前進守備となる。


「3塁ランナーをホームインさせたくないなんて当然じゃないのか?」と感じた方もいらっしゃるかもしれない。しかし「1点OK」のケースは結構ある。

たとえば、ゲーム序盤まだまだ反撃の機会があると判断した場合などには1点やむなしとし、通常通りの守備体系を選択する。

もう一度先程の前進守備の画像を見て頂きたい。この体系で3塁ランナーがホームインするのは一見極めて困難なように見える。しかし話はそう単純ではない。

内野は前にいるため正面の打球なら良いが、横に移動しながら処理が必要な速い打球は外野に抜ける確率が高くなる。

また、内野手は前進守備体系であっても外野手が通常の守備位置にいる場合は、内野手と外野手の間のスペースが広くなる。従って内野の頭をふらふらと超えて外野手の前に落ちる、いわゆるポテンヒットとなる可能性も高くなる。


つまり、前進守備というのは
・正面に近い内野ゴロならサードランナーをホームでアウトにする確率が高いというメリットがありながら
・ヒットゾーンが大きくなるリスクがある

シフトなのである。

あらゆるリスクを享受しながらも得点を防ぐために行う前進守備は、守りのギャンブルプレーとも言えるのではないだろうか。


試合後半などは1点の重要性が高くなるために、前進守備や17日の試合で見られたようなゲッツーとバックホーム両面を睨んだ守備体系を敷くことが多い。

しかし試合中盤など「ここは1点を守るのか、あるいは失点は覚悟しながらヒットゾーンを狭めるのか、ベンチの意図は?」などと考えながら観戦すると、さらに深く野球を理解することができるのではないだろうか。

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