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1アウト2・3塁の外野フライでなぜ2塁ランナーはタッチアップのスタートを切ってしまうのか

2023年7月8日 阪神対ヤクルト戦。

6回裏1アウト2・3塁。打者ミエセスがセンターへフライを打ち上げた。外野手が捕球したことを受けて3塁ランナーはタッチアップで本塁へ向かう。同時に2塁ランナーも三塁へ向かう。これを見たヤクルトの野手陣は中継プレーを経て本塁ではなく三塁へ送球しセカンドランナーにタッチし判定はアウト。そしてこのランナーがアウトになったタイミングが三塁ランナーのホームインよりも早かったと判定される。

つまりタッチアウトの時点で3アウトとなり攻撃終了。そのあとに発生したプレーは当然記録には残らない。本塁をかけぬけた走者の得点は認められない。

ここまで一連のプレーの概要である。

実は1アウト2・3塁で2塁ランナーがタッチアップを試み三塁でタッチプレーとなるこのプレー、2023年度のNPBで何度も発生している。今回同様に得点が認められなかったケースもある。そして見ている人にとっては「2塁ランナーはなぜムリをして3塁を狙うのか」と疑問に感じる。

なぜこのケースでの2塁ランナーは、自分がアウトになることによって得点が認められず、さらに攻撃終了となる判断をしてしまうのか。以下のような理由がある。

まず前提。1アウト2・3塁で打者が定位置もしくはそれより後方の外野フライを打った場合、2塁ランナーと3塁ランナーはタッチアップの準備をするためにいったん帰塁する。外野手が捕球した瞬間に3塁ランナーは本塁への生還を試みるためスタートを切る。

この時、2塁ランナーは野手による打球の捕球地点や捕球体制などを自身の目で見て判断し、タッチアップにより3塁へ到達できると判断すればスタートを切る。

2塁の塁上からランナー自身が外野方向を向いて判断する必要があるプレーであり、この判断に3塁ランナーコーチを含めた他者の判断が介在する余地はない、物理的に不可能である。

それでも2塁ランナーがスタートを切ってしまうのは、「相手野手は得点を阻止するために本塁へ送球するだろう」という決めつけである。

本塁でクロスプレーになっている間に2塁ランナーが3塁を陥れると、2アウト3塁というさらに追加点を狙える状況を作ることができる。

3塁に進まずに2アウト2塁という状況では、次打者で得点できるのは外野への安打のみである。3塁に進んでおくとバッテリーエラーや野手の失策、内野安打でも得点できる。よって当然チャンスがあれば3塁に進んでおきたい。従った走塁意識が高い選手ほど「前のめり」で3塁への進塁を意識する。

外野手が捕球する→おそらく本塁へ送球する→その間に3塁へ進みチャンスを拡大する

2塁ランナーはこう考えているはずだ。でなければスタートを切るという行動の説明がつかない。

続く疑問は、なぜ近年このパターンで得点が取り消されるケースが増えているのだろうかという点である。この点は私も過去・近年のプレーのデータを把握しているわけではない。思うに、カットプレーの重要度と頻度が高くなっているのではないだろうか。以前なら外野手が一人で本塁へ送球していたプレーでも、カットマンを挟むことが増加し「送球の目的地の方向転換」が可能になっているケースが増えているのではないだろうか。

今回のプレーでもヤクルトの野手陣は、当初送球の最終目的地を本塁に設定して一連のプレーを開始している。カットが入る位置も外野手と本塁の直線上である。しかしカットマンが自身の判断と他の野手の指示によって、送球の目的地を本塁から3塁へ方向修正した。

私は主に阪神タイガースのプレーを見ている。そのタイガースではキャンプから外野からの送球はカットマンへ確実につなぐことを徹底されていた(ここ1ヶ月ほど徹底されていないのが残念ではあるが)。その流れが球界全体にも浸透しているのではないだろうか。あくまで推測であるが。

さてここまでは2塁ランナーの心理とカットプレーの観点から、このプレーが発生する要因を推測してみた。ここで、SNS上で散見されるこのプレーに関するさまざまな疑問をいくつか拾って説明する。

・3塁ランナーコーチが自重するよう指示しなければいけなかったのではないか

上記の通り、スタートの判断はランナー自身が行う。スタートの瞬間までランナーは目を切らず野手と打球の動きを追っているため、ランナーコーチを見るタイミングは無い。草野球と違って4万大観衆の中でランナーコーチが叫んでも、その声がランナーに伝わることは難しい。よってスタートをランナーコーチが阻止することは物理的に不可能である。

あえて言えば、向かってくるランナーに対して帰塁するよう指示することはできたかもしれない。しかし動画を見てみると、ランナーがスタートを切って5歩進んだところでストップさせても結果は大差なかったのではなかろうか(挟殺プレーに持ち込み得点を補助することはできたかもしれないが)。

・3塁ランナーがホームへ向かう際全力疾走していなかったのではないか

この点は本人に聞かなければ真実はわからないが、私が見たところ本塁の手前でスピードを緩めるなどの動きはまったく感じられない。

・これは2塁ランナーのミスではなく守備陣の好判断なのではないか

おっしゃるとおり、判断・正確性ともに見事な守備である。しかし、守備側の好判断によって得点が認められない可能性があるプレーを起こしたのはランナーである。ランナーがスタートを切らなければ好判断もなにも無いのである。明らかに問題の発端は2塁ランナーである。

この試合を解説していた元ヤクルトスワローズの坂口智隆氏が語っている、以下のコメントのとおりである。

「大山選手があそこで行くなら、あの場面は200%セーフじゃないともったいない。2アウト二塁で梅野選手だったらさらに追加点のチャンスで迎えれるので」
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2023/07/08/kiji/20230708s00001173576000c.html


さて、ここまであえて選手名は記さずにプレーの解説のみにとどめてきた。ご存知のとおりこのプレーの悪い意味での主人公は大山選手である。タイガースの攻撃の流れが止まり、最終的に試合にも負けた。このプレーだけに焦点を当てると大山選手の完全な判断ミスであることは明らかである。

しかし。なぜ大山選手がこの時2塁にいたのか。直前の同点タイムリー2ベースにより劣勢を跳ね返したからである。なぜ1アウトだったのか。ノーアウト2・3塁で打席に入った次打者が空振り三振でランナーを動かすこともできなかったからである。

しかもこの試合、大山選手は2本の2塁打を含む3安打。湿りがちの打線の中でチャンスメーカーとして、あるいはポイントゲッターとしてひとり気を吐いている。前後の打者の調子がまったく上がらず、大山選手ひとりにマークが集中するにもかかわらず、である。

この1プレーのミスだけをもって、私は彼を責める気にはなれない。


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