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7連勝を決めたのは渡邉諒の足だった。 2023/5/27今日のワンプレー

2023年5月27日の阪神対巨人戦。7回の裏、0-0の同点。2アウト1・2塁。打者は得点圏打率5割を誇るタイガースの核弾頭、近本光司。凍りつくような投手戦の均衡を破る絶好のチャンスである。

近本は粘って粘って3-2のフルカウントからセンター前へ鋭い打球を弾き返した。

この場面、プレーの前に両ランナーにどんな指示が出ていたのか想像してみよう。

まず2塁ランナーの坂本誠志郎。坂本には「外野手正面の打球は多少微妙なタイミングであっても本塁に突っ込め」だろう。1回の裏にビッグチャンスを逃したタイガースとしては久々に掴んだチャンスである。リスクをとってでも得点を狙いたい。アウトになったとしても負けているわけではない。まだ同点である。

次打者の中野は好調とはいえ、打率は3割。ヒットでしか得点できない2アウトという状況を踏まえると、好調中野でも7割は得点できないのである。

従って近本がヒットを打てば、本塁でアウトとなるリスクをとってでも得点を狙いに行くという作戦を採用したのであろう。さらに打者近本のボールカウントがフルカウントとなり投球と同時にスタートが切れる状況となり、2塁ランナーとしてはより本塁へ突っ込みやすい状況となった。

そして1塁ランナーの渡邉諒である。近本の打球が外野手の正面に飛んだ場合、おそらく外野手は2塁ランナーの生還を阻止するために本塁へと送球する。その時間を使って3塁を陥れるよう、ベンチからの指示が1塁ランナーコーチより伝わっていたのではないだろうか。

1塁ランナーが3塁まで進塁すれば、なお追加点のチャンスが広がる。一方このチャレンジにはリスクもある。
・外野手が本塁ではなく3塁に送球してきた場合、タッチアウトでチェンジとなる可能性がある。
・さらに2塁走者が本塁に生還する前に自身がタッチアウトとなった場合、得点が認められずチェンジになるという最悪の結果があり得る。

一方、セーフになれば悪くて1・3塁、打者走者が2塁まで進めば2・3塁で好調中野を迎えることができる。

そしてタッチアウトになったとしても、2塁ランナー生還が認められるタイミングであったなら1点リードした状態で終盤戦を戦うことができる。まだ2イニングある。終盤戦に強いタイガース打線なら1点リードの有利な状態からさらに追加点を狙えるチャンスは十分にある。

メリットとリスクを比較した結果の「1塁ランナーは3塁へいけ」である。

近本の打球はセンターへ抜けた。フルカウントで自動スタートを切っていた2塁ランナーは本塁へ突入する。打球を捕球したセンターはバックホームではなく3塁へ送球した。

同じく自動スタートを切っていた1塁ランナー渡邉諒は指示どおりに3塁を狙う。渡邉は2塁ランナーの本塁生還を確認しながらの走塁であっただろう。万が一、明らかに渡邉自身が得点よりも先にアウトになるタイミングなら、挟殺プレーに持ち込んで自身がアウトになるまでの時間を稼ぐ必要がある。

しかし渡邉はスピードを緩めず3塁へ突っ込んだ。本塁を狙う2塁ランナーと送球を見て、このタイミングでアウトになっても得点は成立すると、渡邉自身もサードベースコーチも瞬時に判断したはずだ。結果微妙なタイミングではあったが、センターからの送球が逸れ渡邉は3塁に残る。その間に打者走者は2塁へ到達。2アウト2・3塁とし次打者中野のヒットで2得点。試合を決定づけた。

リスクをとるべきか否かを判断したベンチ、自動スタートからの的確な走者とコーチの状況判断、センターの悪送球を呼んだ迷いない走塁、これらの要素が絡み合ってこの回スコアボードには「3」の文字が刻まれた。

タイガースはこのプレーによって3点リードしたものの最終回に2点を失った。最終スコアは3-2で1点差の勝利であった。渡邉諒が2塁に自重していれば、結果は違うものになっていたかもしれない。


積極的に先の塁を狙うことは一般的に良いこととされる。しかし、状況によっては100%セーフになる状況でなければ進塁を挑んではいけない場面もある。

たとえば同じ2アウト1・2塁でも、3点ビハインドの最終回であれば両ランナーはリスクをとる必要はない。自分たちがホームインしてもまだビハインドである一方、アウトとなればそこで試合は終わる。アウトかセーフか微妙なタイミングの中で先の塁を狙うことは、デメリットがメリットを大きく上回るのである。


2023/5/27 阪神甲子園球場
巨 人 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
阪 神 0 0 0 0 0 0 3 0 X 3
【巨人】 ●グリフィン(4勝2敗) 大江 平内 菊地
【阪神】 ○大竹(6勝0敗) 岩貞 浜地 及川 S加治屋(1セーブ)
[本塁打] ブリンソン5号(巨)


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