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ピッチクロックは必要か〜ショッピングセンター運営の視点から〜


プロ野球チームにとって顧客獲得における最大の武器は「現地観戦による体験価値の提供」であることは、ほとんど疑いようがないと思われる。

この文章の読者には、過去に現地でプロ野球を観戦し、そこで得た体験価値がファンとしての礎になっている方が多いだろう。

かくいう私も、その1人である。

さて、ピッチクロックの導入がNPBにおいても議論されるようになって久しい。

MLBでは今シーズンから導入され、開幕後の15試合では平均試合時間が2時間45分(前シーズンは3時間16分)に短縮、その目的である「試合時間の短縮」効果を充分に発揮している。

しかしご存知の通り本ルールには賛否両論が巻き起こっており、様々な立場から様々な意見が出されている。

そこで私は「ショッピングセンター運営」という視点から、本ルールについて持論を述べようと思う。


「集客」と「滞留」

ショッピングセンター運営において重要な要素のひとつとして「集客」があげられる。
人を多く集めることが、売上に繋がるからだ。

その手段は「セールの実施」や「館内装飾」「イベントの開催」など多岐にわたるが、方向性としては"外部発信"と"ロイヤリティの向上"の2方向が主となる。

つまり、外に向けて広告を打ち、実際に訪れた客に対して適切なサービスを提供することで、新規を掴み、既存の顧客を育てることが、安定した集客を実現するのだ。

そして「滞留」も重要な要素となる。
実際に訪れた客に、いかに長い時間を施設内で過ごしてもらうかが、客単価の向上に繋がるからだ。

施設内にベンチを設置し、カフェやレストランを充実させ、トイレを清潔に保ち、バラエティに富んだテナントを配置したりして、ショッピングセンターは滞留時間の増加に努めている。

そしてこれはまるっきり、球場運営に置き換えても話は成立するのではなかろうか。

「集客」における"新規の呼び込み"、つまり広告は球場にとって朝飯前といえるだろう。

毎日地上波では必ずプロ野球の話題がニュースで流れるうえ、特定の贔屓がないライト層であれば他球団の試合映像でさえ近隣の球場の広告となりうる。

更には全国に2000万人いるとも言われる既存ファンが勝手に裾野を広げてくれるため、特段努力せずともある程度の新規集客は見込める殿様商売といえる。

もちろん、昨今の女性ファンの取り込み等における球団広告の質の高まりも無視できない要素で、それらも概ね成功していると言えるだろう。

そして"ロイヤリティの向上"だが、昨今の各球場はこの点において目覚ましい進化を遂げている。

多彩なフードメニュー、それを席まで運ぶ売り子やデリバリーのサービス、グッズの充実やもちろんトイレのリニューアルまで、あらゆる面で体験価値を最大化すべく様々な対応がとられている。

特に北海道日本ハムファイターズの新球場である「エスコンフィールドHOKKAIDO」及び「北海道ボールパークFビレッジ」はその知見と技術が結実している

取り込んだ新規をファンにする工夫は、非常に高いレベルで充実してきていると誰しもが感じているだろう。

さて「滞留」についてだが、ここで話を「ピッチクロック」に戻す。

ピッチクロックの目的は先述の通り「試合時間の短縮」である。
これは視点を変えると「滞留時間の短縮」とも言えるのではなかろうか。

ショッピングセンター運営の視点から言えば、全く理解不能な自殺行為である。

せっかく球場内の施設を充実させ、試合前も試合中も試合後も楽しめる工夫を行っているのに、最大のコンテンツである試合を早く終わらせようとする努力はそれと逆行しているように思えてならない。

ショッピングセンターでいえば滞留を生むカフェやベンチなどの休憩場所をわざわざ撤去するようなものだ。
「あのカフェのケーキが美味しかったからまた行きたいね」という再来店の可能性を失うことにもなりかねない。

中だるむ試合展開でも「イニング途中に行って並んで買った選手コラボグルメが美味しかったからまた行きたい」という客を生めるような環境づくりの方が適切な努力であるはずだ。

「滞留している客を満足させられていないからその滞留時間を減らす」なんて、狂気の沙汰である。

少なくとも"プロ野球チームにとって顧客獲得における最大の武器は「現地観戦による体験価値の提供」である"と考える立場からは、ピッチクロックの導入には反対せざるを得ない。

様々な視点からの総合的判断で、本ルールの導入に関する議論が適切に対処されることを願う。

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