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アラサーテレビディレクターの指


私の小指は、短い。
4センチくらいしかない。ポークビッツみたい。
”短指症”という優性遺伝の一つらしい。一族みんな小指が短い。
日常生活で困ることはないが、手袋はいつもちょっと先っぽが余る。


私の左手の中指は、潰れている。
中学生のとき、陸上部の砲丸(2kg)と砲丸(4kg)の間に中指が挟まり、指の先が粉砕骨折。指先の肉がタコさんウインナーのように3つに裂けた。
7針縫った結果、割れた肉はひしゃげた形のままくっついていた。

プリクラを撮るとき、ピースをすると不恰好な指先が目立つのが嫌で、制服の上からLLサイズのカーディガンを着た。萌え袖文化はいい隠れ蓑になった。



***



大学生のとき、友達と吉祥寺で買い物をしていたら、かわいい指輪を見つけた。

「かわい〜!」と手に取ったものの、「でも私 指が汚いからあんまり手を見られたくないなねんなぁ」と戻した。
すると、友達がその指輪を買ってくれた。
「かわいいと思ったならつけなよ。あえて主張の強い指輪をつけることで、指の欠点が目立たなくなるかもよ?」と。

彼女の言った通り、指輪は短い小指も潰れた中指も隠してくれた。
嬉しくて、安い指輪を買い漁った。
調子に乗ってネイルもするようになった。



でも、テレビ業界のADになると、指輪もネイルも禁じられた。

ロケの現場で、ADの手がカメラに見切れることがあるからだ。(見切れるって業界用語か?)

ラーメンの麺を箸で持ち上げるとき、
大福をふわっと割り開くとき、
ワイングラスを持ち上げて回すとき、
本のページをめくるとき・・・
手タレ(死語か?)をするのは大体ADだ。

画面の端にネイルが映りこんでしまうと、変に視聴者の目を引いてしまう。
黒子に徹するため、無個性な手を求められたのだ。


もちろん、「指先のおしゃれ不可」の仕事なんて他にもたくさんある。飲食とか。
逆に、常におしゃれから気を抜けない仕事も大変だろう。BAとか。
どんな仕事にも事情と理由と、それに伴う我慢がある。

わかってるけど、
控室で出演者さんがメイクさんに手を差し出し、
春色のネイルを塗ってもらっているのを見ると
羨ましい気持ちが抑えられなかった。



***




ディレクターになり、自分のスケジュールを自分で管理できるようになると、再びネイルができるようになった。

ジェルネイルが保つのは約3週間。
「今日から3週間は絶対にロケが入らない!」と確信できた瞬間、ネイルサロンに駆け込む。
サロンの予約が取れないときは、自宅でセルフネイルキットを取り出す。


デザインや色に迷ったときは、推しのドラァグクイーンからヒントを得るのも楽しい。

真っ赤なネイルの上に赤いストーンを乗せて Valentina
クリーム色にブラウンの水玉でMonique Heart
シルバーのラメをスカイブルーで縁取ってAquariaっぽくしたときは、姪っ子(2)に「おてて、きらきら!」と褒められて最高だった。


指先のおしゃれは、自分で見えるから気分がアガる。
今はBianca Del Rioのウィッグみたいなオレンジだ。
今もキーボードを打つたび ウキウキしている。

この爪はまもなく徐々に剥げ、欠けていくだろうが、
それはロケへのカウントダウンでもある。
ロケの前夜、リムーバーで残った爪を落としながら、
仕事モードに気持ちを切り替える時間は、ちょっとした儀式のようだ。



***

ネイルに加え、最近はスマートリングをつけるようになった。
指から心拍数や体温を測定し、数値化した健康アドバイスをスマホで見られるガジェットだ。
お風呂に入っているときも、寝る時も、つけっぱなし。



このリングをつけ始めた昨年は、平均睡眠時間は5時間/安眠度40台だったが、
リングのアドバイスに沿って睡眠環境を改善した結果、
平均睡眠時間が8時間/安眠度80台にまで上がっている。(キム・カーダシアンは平均睡眠時間12時間/安眠度98らしいので、まだまだ目指すべき高みはある。)



コンプレックスだった手が
おしゃれを楽しむパーツになり、
いまや健康のバロメーターになりつつある。



ちなみに、
このスマートリングを勧めてくれたのは、
あのとき吉祥寺で指輪を勧めてくれたのと同じ友人だ。
「忙しいときほど健康に気を使いや」と。

よく見ている。

彼女の一言がなかったら、私はいまだに袖で指を隠していたかもしれない。







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