イシイジロウと森本浩二_20180710_094

8月22日 クラウドファンティングはアニメ業界に新たな道筋を作るか

→電ファミニコゲーマー:現在のアニメ業界に一石を投じたい──クラウドファンディングから始まったアニメ『UNDER THE DOG』は、その想いとは真逆の着地をしたのかもしれない【原作イシイジロウ×プロデューサー森本浩二】

 クラウドファンティングが大変……という話はよく聞くけれども、いまいちピンときていなかった。なるほど、そういう話だったのか……。

 お金が集まるまで、あるいは開催期間中(正しくはなんという名称か知らない)、ずっと週おきに発表しなければならない……というのは聞いたことがある。静止画なのか動画なのか、いろいろあるとは思うけど、その発表物のために意外に時間と労力を持って行かれるし、そこで発表したものが中途半端なものだときっと期待値も下がるだろうし……。
 開始数時間で目標達成……みたいな知名度やインパクトを持たない企画だと、ここで頑張らないと出資が集まらないのだろう。

 それでお金が集まったとしても、決してその後の制作も順調というわけにはいかない。

〈引用〉
 それに、お金のかかるリワードが大量に設定されていたんです。「1/16フィギュア」なんて、金型制作にお金もかかるし、Blu-rayディスクの制作も、それらの発送にも費用がかかる。

 前から疑問だったけど、クラウドファンティングが成功しても、支援者に何かしらお返ししなければいけないわけで……。だいたいグッズとかだと思うのだけど、そのグッズもタダで作れるわけではない。
 フィギュアやブルーレイを制作して発送……これだけで集めたお金の3分の1が消える……ひぇー。大変だ。せっかく集めても、支援者へのお返しで予算の大半が消えてしまう。結果的に、フィギュアは作れません、となったそうだ。
 じゃあ何のためにお金を集めたんだ……となってしまう。今回の事例の場合、支援者に理解があってトラブルにはならなかったが、もしも「支援者に対する裏切りだ!」みたいな話になったら、企画が頓挫することだってあり得た。
 これも大変だよなぁ……とは遠くから見ていて思っていた。相応のお返しをしなければ、と思ったらその品を作るのにも時間と労力がかかる。より多く支援した人に対しては、よりグレードの高いお返しを用意しなければならないーーそういうルールだ。するとお金もかかる。もちろん、本編も同時に作らねばならない。少々のお金ができたところで別働隊を作るほどではない。作品を作りつつ、同じ人間がグッズ作りもしなければならない。そこでエネルギーを取られることになる。この辺りが過剰だと、いったい何のためにお金を集めたんだ……となってしまう。

 数千万のお金が集まって、それでアニメ映画が1本作れるか……というとそんなわけはない。『この世界の片隅に』の例が出ていたけれど、9700万円集まって作れるのはせいぜいパイロットフィルムまで。無駄なくお金を使っても、それくらいが限界。
 インタビュー中にあったけれども、1500万円あれば30分アニメ1本作れる……というわけではない。シリーズアニメの場合だと、シリーズを通して出てくるキャラクターや世界観がある。キャラクター1体に対しても、美術設定1つに対してもデザイン料がかかるが、12話通して登場するなら、その1つぶんでいい。もしも毎話新規キャラクターや新規美術が登場していったら、そのぶんデザイン料が増えていく(それで、もしもたった1人のデザイナーに全てお任せしていたら、消耗させすぎてしまう。甲子園で全試合を1人の投手に投げさせるのか……みたいな話になる。超一流の人は、やりきってしまうんだけども)。
 ただ、その作品のために9700万円が集まったという事実は後ろ盾として強く出せる。「これだけの支援者がいます!」と売り込めるわけだから、より大きな出資者を納得させやすい。ちゃんとビジネスになる、という証明になる。制作が本格化する前に、これだけの話題になってます……という目安を示せる。

〈引用〉
イシイ氏:本当に製作委員会って、機能すればすごく機能するし、今までだって上手くいってきたから25年も続いてきたんです。
 ただ、問題があるとすれば、リスクヘッジができるから“量が増えてしまう”ということでしょう。

 制作委員会は例えば投資が10億あった場合、10億で1本を作品を作るのではなく、複数の作品に分ける。
「2億」「2億」「2億」「2億」「2億」
 と、こんな感じに。なんでこうするのかというと、リスクを分散させるため。1本の作品に予算を使いすぎてハズレた場合、全員共倒れになる。するとその下で働いている従業員が路頭に迷うし、アニメーターも仕事をなくす。これは絶対に避けねばならない。
 しかしどの作品がアタリ、どの作品がハズレるか、誰にもわからない。だいたい……
「ハズレ」「ハズレ」「ハズレ」「ハズレ」「アタリ」
 こんな感じになる。だいたい全部外れる。5本作ってアタリが1本でればいいくらい。その1本がハズレたぶんの予算を取り戻してくれる。

 対談でも『ポプテピピック』の例が出ていたけれども、あの作品がヒットするなんて誰も思ってなかった。キングレコード内でも、「誰からも相手にされていなかった」と関係者が語るくらい。
 でも蓋を開けてみればそのシーズンのアニメシーンを完全に飲み込んでしまうくらいの特大ヒットだった。DVDも売れたし、主題歌は上坂すみれ楽曲の中で一番というくらい売れたんだっけ? こんな結果、誰にも予想が付けられない。

 それで『異世界はスマートフォンとともに。』だったかな……この作品、おそらくは「期待されていた」ほうの作品。当時、ネットニュースで「この作品は見るべきだ!」とアピール記事が載っていたくらい(いや、売れる自信なかったからああいった記事作ってたのかな?)。
 「小説家になろう」でPV1億回を越えていたから、そこそこ期待されていたはず。それだけのファンがすでにいる作品だから、商業的ヒットは手堅く狙えるはずだった。『ゼロから始める異世界生活』大ヒットという前例もある。
 まあ結果は知っての通り。「あまりにも酷い」で1週回って話題になるくらい。
 会社側が期待したアニメが大コケ(本当に期待していたかは不明だが)。

 『けものフレンズ』なんかも作っている当事者が「売れないだろうな」と思っていた……なんて話を聞いた。当事者も回りも「売れないだろうな」と思ってたら大ヒット。何が当たるかわからない。
(最近の傾向でいうと、予算を掛けた、シナリオがしっかり練られた、作画のクオリティの高い作品よりも、「思いがけない作品」のほうがヒットしているような印象がある。『ポプテピピック』を意識しまくった『深夜のバカボン』はズッコケてるけど。アニメブームが1周して、「ド直球」の作品よりも「変化球」作品がヒットしやすくなっているような気がする。「ヒットする」というか「バズる」という感覚に近い)
 期待された作品が期待通りヒット……そういう例のほうが、ひょっとすると少ないのかも知れない。

 ああ、あと評価は高いのに、商業的なヒットに繋がらなかったパターン。評価は高くて、ネットでは盛り上がっていたのに、本丸であるDVD・ブルーレイ売り上げがなぜか伸びなかった……というパターンが往々にしてある。作品が素晴らしくても、お金にならないパターン。

 アニメの難しいところは、放送が全部終わって、それから本格的にビジネスが始まる。アニメ放送は基本、タダ。映画やゲームのように、「まずお金を払う」ビジネスではない。放送が全部終わった後、それでも作品のためにお金を払いたい……と思わせなければならない。変なビジネスだな……とはずっと思っている。
 いったん作品が終了して、ユーザーの気持ちが片付いたところでビジネス……だから難しいはずだ。(しかもDVDシリーズは買い揃えようと思ったらノートパソコン買えちゃうくらい高い。社会人くらいにならないと、買い揃えるのはなかなかしんどい。メインターゲットの中高生がなかなか買えない……つくづく変なビジネスだな、と思う)

 本当に予想が付けられない世界。当たると思った作品がずっこけて、外れると思われていた作品が大当たり(ネットには「俺はどの作品がヒットするかわかる」という予言者めいた発言をする人が一杯いるが、そういう人は業界に行って欲しい。企画か脚本の段階で「当たる」「外れる」を嗅ぎ分けてほしい。作っている方は本当にわからないのだから。私もそこまでは全く読めない)。
 私はアニメの本数は減らすべきだ、と思っている。いま見ているアニメで『アンゴルモア元寇合戦記』という作品があるのだが、この作品が本当に酷い。作劇が完全に破綻しているわけだけど、毎週毎週ギリギリのところで乗り切ろうとしている感じがする。
 この作品の何がマズイって、このスケールの作品を、1億か2億程度の予算でなんとかしようと思ったところだよ。無理にきまってるじゃないか。日常ものアニメと同じ予算で中世合戦ものを描こうなんて、そりゃ無理だって話。
 アニメの本数を減らして、1本1本の予算を大きくすれば……と思うがハズレのリスクが高くなる。「全部ハズレ」が一番怖い。
 最近は、色んなところからアニメへ投資が来ている……という話を結構聞く。投資が増えると、1本あたりの予算に余裕が出るのではなく、どんどん分散する。本数が増える。制作委員会はリスクを取りたくないから、この流れを止められない。制作委員会に問題があるのは誰でもわかる話だが、やめることができない。
 だからNetflixは包括業務提携をするわけだが。

 この流れを、クラウドファンティングでどれだけ穴を開けられるか……。
 でも、結局はクリエイターの知名度が全て……という感じで、クラウドファンティングは希望の星、とは思わないんだが。
 以前、「マクアケ」という国内のクラウドファンティングサイトを覗いてみたことがあったのだが……見ると個人で作品を出している人がいるのだが、ほとんどが出資者0。あー、私のサイトみたいだ。ほとんどの人が、頑張っても出資者0人、気まぐれで1人くらい出資者が出るかも知れないけど、そこで終わってしまう。見ていると痛々しい。「募集数時間で目標金額達成」……みたいな華やかなところばかり見ていてはいけない。
 その現実を見てしまうと、手放しで「クラウドファンティングはいいぞ~」とは言えない。あそこで新しい才能が生まれる……なんて期待は基本的に持たないほうがいい。基本的に、すでに有名な人、知名度のある人だけが勝てる場所。新しい才能、新しいストーリーが生まれる場所だ……とは思えない。『リトルウィッチアカデミア』のような大成功の事例はあるけれども。
 でも、選択肢として1つ可能性が増えるなら、無駄だとはいえない。今は成功事例が増えることを祈るばかりだ。

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