骨と脂
どんなに痩せている女でも、裸を抱くとふわふわと柔らかい。よく伸びる水気のある皮膚と頼りない筋肉の下に、細い骨がある。
依子はとくに華奢な身体をしていた。今まで寝た女の中で一番細い。正直うらやましかったけど、病気がちなのだと告白されてからはそんな風には思えなくなった。
「あたし、あんまり長生きできねえと思うんだよなあ」
贅肉でせり出した私の腹を揉みながら依子が言う。
「どうする。そっちよりかなり早く死ぬかも」
他の女が言ったらちょっとめんどくさいと思ってしまうこんな話も、依子が言うと違って聞こえた。将来は平屋の家に住み猫を飼いたいとか言うのと同じ調子で、依子は自分の死を語る。それは決まっている未来なのだ。
「辛い」
他に言うこともない。
「辛いかあ。じゃあ泣く?」
「泣く。めっちゃ泣くよ」
「かわいそうに。泣くの見たくないなあ」
「見えないでしょ。お前死んでんだから」
「あ、そっか」
楽天で買った花柄のシーツに横になったまま、依子はさらに私の腹をもんだ。その指の力があんまり強くなくて、私は早めに泣きそうになる。
「ねーちゃんやばいでこの腹。糖尿になるぜよ」
「ナニ弁だよ。世田谷出身」
ひっひっひ、と変な笑い方をして、依子は私の肉から手を離した。
言ってくれればいいのに。一緒に死んでくれと。そうすれば、私はもっとちゃんと悪者になれるのに。けれど依子はそれ以上何も言わない。しかたがないので、私は依子の骨を自分の脂で包み込む。
(終)
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