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沖縄旅行、自意識の発動でオリオンビールのTシャツを買えず

3月の中旬、"卒業旅行"という名目で、学校の友人と沖縄へ旅行に行った。
沖縄といえば、輝く太陽、綺麗な海、日焼けしたギャル、オレンジレンジ、そしてオリオンビールだろう。

僕はお酒を覚えたての頃、ビールが得意ではなかった。飲み会で「とりあえず生で」と言う人を、『形式に囚われて思考を放棄した哀れな大人』というレッテルを貼って見下していた。
日々は過ぎ、気温の高い初夏のある日。なぜその行動に至ったかはもう思い出せないが、コンビニでコロッケとオリオンビールを買って、近くの河原の草原に座ってそれらを嗜むことにした。コロッケを一口齧り、オリオンビールで流し込む。美味すぎて、あっという間に飲み干した。「俺、ビールが好きだー!」と、まるで青春ラブコメ映画のクライマックスのような台詞を、川に向かって叫んだ。  
その出来事がターニングポイントとなり、ビールを頻繁に飲むようになった。飲み会では必ず「とりあえず生で」と言う。今の僕がビールを飲めない頃の自分に会ったら、『味覚も思考も凝り固まった哀れな小僧』というレッテルを貼って見下すであろう。

フォルダにその時の写真が残っていた
コロッケ食べかけで汚いけど、たぶん美味すぎて
写真に残しておきたかったんだろう



そんな思い出があって、僕のオリオンビールへの思い入れは強い。言わば「初恋の人」なのだ。
今回の旅行でオリオンビールの工場見学をすることを検討していたのだが、参加できそうな日程が工場の定休日とモロ被りしていることが旅行の一ヶ月前に判明し、しっかり萎えた。
旅行の目的の1つを奪われたが、せめてTシャツくらいは買おう、と前を向いた。

そしてついに、沖縄へ上陸する日がやってきた。
飛行機を降り、これから始まる沖縄トリップに期待を膨らませ、完全に浮かれながら空港を出る。その数十分の間に、オリオンビールのTシャツを着た"集団"を何組も見た。
空港を出た先のレンタカー屋で、その先の那覇の市街地で、そのまた先のステーキ店で。もう何組も何組も、オリオンビールのTシャツを着た"集団"に遭遇していた。

ステーキ店で夕食を済ませ、レンタカーでホテルへ向かう。その1時間弱の道中、ハンドルを握り、友人と他愛もない会話をしながら、頭の中ではずっと"集団"について考えていた。
僕が見かけた"集団"に属する人たちは、洒落たグラサンを掛けていたり、肩まで袖を捲り上げていたり、派手な髪色をしていたり、とにかく全員がキラキラとしていて僕とは違う人種だった。
オリオンビールのTシャツとは、沖縄でキラキラするための『制服』なのだ。僕の脳はそう判断していた。
では、仮に僕がその『制服』を着て"集団"に紛れ込んでいたら、それを見た他人はどう思うだろうか。「うわ、あいつだけ馴染めてないよ笑」とか、「キラキラできないなら着るな」なんて思われるかもしれない。
ああ、僕には絶対に『制服』は着れない。
"オリオンビール"がビールのメーカーなのか、『制服』の人気ブランドなのか、僕はもう分からなくなっていた。

僕は、自分の行動が他人にどう思われるか想像して、結果その行動を回避することがよくある。
「うわ、こいつ今から挟むのか」と思われるのが嫌で、ファミチキとファミチキバンズが買えない。
「うわ、こいつ無個性だな」と思われるのが嫌で、SNSでバズった【コンビニ商品掛け合わせレシピ】の組み合わせが買えない。
「うわ、こいつ道に迷ってやがる」と思われるのが嫌で、スマホで地図アプリを見ながらキョロキョロして歩けない。
「うわ、こいつ田舎モンかよ」と思われるのが嫌で、高層ビルに囲まれた都会では、上をじっくり見上げられない。
「うわ、こいつ自慢できる友達もSNSのフォロワーも大して居ないのに」と思われるのが嫌で、1人旅行では観光スポットやグルメの写真を堂々と撮れない。
誰も僕のことを注意深く見ていないことも、世の中がこんな捻くれた思考の人間だらけではないことも分かっている。違う。僕が僕を俯瞰しているのだ。僕に捻くれた思考を向けるのは、他人じゃなくていつも僕自身なのだ。
だから、『制服』を着た自分を想像して捻くれた思考を自分に投げつけた結果、僕は『制服』を買えなかった。

僕は『制服集団』とすれ違っただけでくだらないことに脳を支配され、ネチネチと文章を書き連ねている。対して、その『制服集団』の脳内には、僕は1フレームたりとも登場していないだろう。そう、僕は『制服集団』に完敗している。
だけども、ちっとも悔しくなんかないもんね。
『制服集団』が訪れそうにないスポットの、『制服集団』が素通りするであろう謎のオブジェと笑顔で写真を撮った。

謎のオブジェ① 『宇宙軸より無限の記憶』
謎のオブジェ② でっけ〜〜カニ

『制服集団』は絶対にしなさそうな"遊び"もした。
この"遊び"についての話をできる相手は限られているし、ここに詳細を記すことも憚られるのだが、その話を聞いた人は手を叩いて笑うか本気で羨ましがる。
そして何より、その"遊び"を終えた後、誇らしげに沖縄の夜の街を闊歩したときの高揚感。あれは『制服』を着ていては絶対に味わえなかった。

僕の沖縄旅行はキラキラしていなかった。だけどそれでいい。
「お前なんかがキラキラした沖縄旅行を?笑」なんて思われずに済むから。
僕には『制服』は必要ない。
時間が少し経った頃、このキラキラしていない旅行のことをふと思い出してニヤニヤするだろう。
そして、「うわ、あの人ニヤニヤしてる。キモ。」と思われないように、必死で真顔を取り繕うのだ。

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