痴漢被害にあったら安全ピンで刺してもいいのか。

最近,出所はわかりませんが「痴漢の被害にあったら相手を安全ピンで刺せばよい」という話をよく目にします。今回はこの件について検討してみたいと思います。

結論から言うと「わざわざそんな方法とらなくてもよくない?」というのが私の見解です。まず,安全ピンで刺す行為について法的に検討してみましょう。

相手が誰であっても,安全ピンで人を刺す行為は傷害罪・暴行罪の構成要件に該当する可能性が高いでしょう。だからといって,刺した人がみんな逮捕されたり処罰されたりするわけではありません。それは以下のような理由からです。

①正当防衛として違法性が阻却される。
現に痴漢の被害に遭っており,それによる被害を避けるためであれば正当防衛となる余地は十分にあるでしょう。しかし,これは100%ではありません。
たとえば,被害結果が甚大な時(安全ピンで目をついて相手が失明したなど)や,相手が本当に痴漢をしていると立証できなかった時(実際にやったかどうかではなく「立証できたかどうか」です)など,違法性が阻却されるかどうかは,あとから判断されることであるため,安全ピンで刺す行為時に確証ができるものではありません。

②安全ピンで刺しても大した被害は出ないから立件されない
仮に刺した相手が痴漢犯だと立証できなかったとしても,安全ピンで刺された人はだいたい軽傷だから警察もわざわざ立件しないという考えもあるでしょう。これもだいたいはそうだと思います。しかし,偶然大きな結果が生じてしまうこともあるし,立件しないかどうかは捜査機関の判断なので,これも行為時に確証はありません。

このように,安全ピンで刺す行為時において自分の行為が大丈夫であることの保証がない以上,他に取り得る手段がないような状況でない限りわざわざ取らなくてもいいのではないでしょうか。

では,他に取り得る方法はあるのでしょうか。大きな音の鳴る防犯ベルを鳴らしたり(周囲に人がいる状況に限るでしょうが)することの方が,得られる効果が同等かそれ以上で,手段としても穏当なのではないでしょうか。
もちろん,周囲に誰もいない状況等で痴漢をされれば,安全ピンで刺す行為の方が有効な策かもしれません。しかし,電車など多数の人がいる状況であれば,相手にダメージを与えるより,周囲に被害を知らせるほうが効果としては大きいのではないでしょうか(誤認等によるリスクはあるでしょうが,それは安全ピンで刺すときも同じです)。

この辺が,ざっと考えた私の見解です。