実名報道の問題点について

最近,TwitterなどのSNSでマナー違反した人について「晒す」行為をよく目にします。つまり,個人情報が公開されることについては一般の方もある種の「制裁」だと考えているということです。ネットに載った個人情報は簡単に消せるものではなく,残り続けます。しかも,検索すれば一発でその情報が集約できてしまうのです。

犯罪をしたとして逮捕された人は,全員ではないにしろ,実名報道されます。そして,事件の重大性に関わらず,マスコミが「面白い」と思った事件については,追跡等によって過去の学生生活や性格など,あらゆる個人情報をネットやテレビで流されてしまいます。これは,問題のない行為なのでしょうか。

そもそも,実名報道には「公権力に対する監視機能」があるという考え方があります。つまり,まったく報道のなされないままに一般人が不当な逮捕をされてしまった場合に,その妥当性を検証するには,逮捕された者が特定される必要があります。そのためには氏名等の情報が必要ということです。これはもっともな理由だと思います。

では現状を考えてみましょう。現状,警察による逮捕情報をそのままマスコミが流し,「有罪前提」で「事件の動機は何なんでしょう。経緯は。」など独自取材が始まり,時には被害者までもがそのプライバシー暴露の被害に遭います。これは,実名報道の趣旨に合っていますでしょうか。

我が国の刑事訴訟法には無罪推定の原則があります。もちろん,刑事手続きではないマスコミの報道に同原則が妥当するものではないという考え方もあるでしょう。しかし,国民の意思形成に多大な影響力を持つマスコミが,公権力に対する監視機能を担いながら,無罪推定の原則を無視して有罪前提の報道を続けることに問題はないのでしょうか。現在のマスコミの垂れ流す報道で得られる利益は,「視聴者の下衆な好奇心」を満たす以外にあるのでしょうか。そして,それは被疑者や被害者,その関係者のプライバシーを侵害してまで報じる意味があるものなのでしょうか。

このような現在のマスコミの問題点から,「有罪確定時に実名報道をする」という考え方もあると思います。しかし,これでは公権力に対する監視機能という本来の機能は大きく失われてしまいます。

つまり,実名報道については,現在のまま維持しつつ,報道の在り方について考え直すしかないと思います。この点については,マスコミの方と話すとよく「でも弁護人が情報を出さないじゃないか。」ということを言われます。弁護人のマスコミに対する姿勢は弁護士によって様々ですが,私の観測範囲では,消極的な人が多い印象です。これは「しゃべってもそのまま流してくれる保障がない」というマスコミに対する不信感からだという印象です。

つまり,「弁護人はマスコミを信用しないから情報を出さない」「マスコミは弁護人から情報を得られないから警察発表に乗っかる」という相互不信のような状態になっていることも要因としてあると思います。この点については,弁護人や弁護士会において今後検討する余地があるでしょう。

どうして弁護士が実名報道に反対するか,というと「無罪推定の原則に反してプライバシーを垂れ流し続ける」という点が大きいです。机上の空論と言われるかもしれませんが,マスコミの方々にもいまいちど報道の在り方を考え直してもらうとともに,弁護士もそれに必要な協力をすることによって,現状のひどいマスコミ報道が変わっていけばいいと思います。