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過去は新しく、未来は懐かしい

気を抜くとついつい過去に囚われてしまう。
「あの時、少し勇気を出していれば」
「あの時、自分が冷静であったなら」

満たされない「現在」を「過去」のせいにしてしまうのは自分の悪い癖だとわかっていながらも、いざその時になると、「過去」の後悔で頭がいっぱいになってしまう。

時系列を辿ると、過去→現在→未来の順で事実が確定していくため、過去を事柄を現在まで引きずってしまうのは無理もないことだろう。

ところが、宇宙研究と平和教育を結びつけた独自の教育活動を行う佐治晴夫氏の著書『この星で生きる理由 過去は新しく、未来はなつかしく』では、過去を事実ではなく、単なる現在の記憶だと述べている。

過去は文字通り、過ぎ去ったものであって、今、みなさんが過去だと思っていることは、頭の中に残っている現在の記憶でしかありません。過去という実体は存在しないのです。つまり完璧に固定された過去はありえなくて、今、この時点で思っている過去は、自分の都合のいいように作り変えたり、脚色されたりした記憶という現像に過ぎません。(中略)あの時間はもう戻らないと懐かしんだり、もっとこうすればよかったと後悔してみたり、過去にこだわり続けるのは、あなたが、幻想として創りあげている物語なのであって、過ぎ去った過去そのものと向き合っているわけではありません。

佐治晴夫『この星で生きる理由 過去は新しく、未来はなつかしく』(アノニマスタジオ 2022年)

時間というものは実在しないため、見ることも触れることもできない。時間とは「紅茶が冷めてしまった」や、「スコーンを食べた」のように、前後関係を比べる物差しではあるだろうが、その存在を掴むことができない。

過去は過ぎ去ったものだから、存在しない。
未来も未だ来ていないから、存在しない。
過去は単なる記憶であり、
未来は単に馳せる想像である。
現在だけが過ぎ去らずに存在する時間であり、
過去と未来は現在の中に含まれている。

記憶の集積の結果といえる「現在」を生きる私たちは、想像に向けてどう生きるかにより、記憶を新しく塗り替えることができる。暗く重たい記憶も、振り返れば違う色をしているかもしれない。

出来事の良し悪しは、その時点で評価できない。「過去」が「未来」を決めるのではなく、「未来」がそれを生み出した「過去」の価値を決めていく。

馳せた思いを辿る未来はなつかしく、
時々で記憶を変えられる過去は新しい。

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