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【ワールドトリガー考察】ヒュースが玄界に置き去りにされたのはエリン家当主との約束だった説

大規模侵攻編の最後にて、修がアフトクラトルの遠征艇にレプリカ(ハーフ)を投げ込み、強制帰還コマンドを実行したことによって撃退に成功した。

その際、アフトクラトル遠征部隊の一人であるはずのヒュースはひとりぽつんと玄界に置き去りにされてしまう。

ワールドトリガー 10 p.40
置き去りにされたときのヒュース君フェイス。かわいそうは可愛い。

仲間じゃなかったのか? 一体なぜヒュースは置き去りにされたのか? について考察したい。

後々ヒュースが敵となる可能性がなるため

何を今更、そんなの知ってるよ、ハイレインがエリン家当主を神にするために邪魔なヒュースを消したかったんでしょ?

こう考える人は少なくないのではないだろうか。

ヒュースの主君であり育ての親でもあるエリン家当主は、アフトクラトルの「次の神」になる予定である。

ワールドトリガー 14 p.90 より

そのため、ヒュースは自分の主君を生贄にされるのを黙っておらず、敵になる可能性があるため置き去りにする、というものだ。

こんなのワートリ読んでれば常識でしょ? 何今更こんな記事立ててるの? と思うかもしれない。

まあ待って欲しい。どうか待って欲しい。

ことはそう単純ではないかもしれないのだ。

何故なら、普通に考えればハイレインはヒュースを殺せばよかったのだ。残酷な言い方になるが、これが最も後顧の憂を断つに適切な処理である。

人を殺すことに躊躇ったにしてもおかしい。何故ならハイレインは既にエネドラを見殺しにしているのだから。目的のためなら、自分の部下でさえも容赦無く見捨てる冷徹さを持っている。ハイレインはそういうキャラクターだ。

「なぜヒュースは置き去りにされたのか?」は、すなわち「なぜヒュースを殺さず生かしたまま玄界に置き去りにしたのか?」と言い換えることができる。

1. もう一度ヒュースを部下として加えるつもりがあるから

これは一番可能性として低いと思っている。
その根拠を述べていきたい。

そもそももう一度部下として加える気があるのなら、一回置き去りにする必要は全くない。

ミラに「ヒュースは…… いかが致しますか?」と質問された際にちゃんと回収しておけばよかったのだ。

ワールドトリガー 10 p.24 より
  1. 一回玄界に置いておいた上で、エリン家当主を神にし、ほとぼりが覚めたところで帰ってきたヒュースを再び部下にする。

  2. 金の雛鳥と共に帰ってきたヒュースに「金の雛鳥を寄越せ、代わりにエリン家当主を神にすることをやめる」と交渉して再び引き入れる。
    金の雛鳥さえ手に入れれば、エリン家当主を生贄にすることもなくなり、ヒュースが敵になることはなくなるから大丈夫だろうという心算だ。

いずれにしても、そんな算段でいるとしたら、あまりにもハイレインにしては楽観視が過ぎないだろうか?

根暗で慎重派。計画は常に失敗した際のケアを忘れず、予備の次善の策を走らせる……、そんなハイレインのプロファイルとあまりにもかけ離れ過ぎている。指揮10のステータスはどうした。

ヒュースの気持ちを無視し過ぎである。

いや、ハイレインは一部下であるヒュースの気持ちも慮るキャラクターという意味ではない。そんなハートフルハイレインは不気味すぎる。

ヒュースの心情がどのように動き、どう行動するかの予測を余りにも甘く見積り過ぎている。

ヒュースは利や合理性によって動くキャラクターではない。ここでも少し語っているが、自分の心情を大切にするキャラクターである。

ワールドトリガー 17 p.107 より
このセリフが最もヒュースというキャラクターを表していると思う。

例え自分が被害を被ろうとも、自分の気持ちに嘘はつけないキャラクターである。

そんなヒュースが、自分の主君であるエリン家当主を神とするために邪魔となるという理由で玄界に置き去りにしてきたハイレインを信用できるだろうか? 再び部下として仕えることができるだろうか?

ヒュースは任務に忠実に従っていたにも関わらずである。これはヒュース側からすれば酷い裏切り行為である。

たとえ別の神候補が見つかり、エリン家当主が神とならずに済んだとしても、再び以前のように仕えることはできないだろう。表面上は忠実なふりはできるかもしれないが、心に暗いものを抱えたままとなるだろう。

ハイレインはそのような不安を抱える者を再び部下として迎えるだろうか? いつ寝首を掻かれるかわからない部下を手元に置くことより恐ろしいことはない。真の敵は味方、である。

そんな愚策をハイレインがとるだろうか?
エネドラをして根暗と言わしめるような慎重派のハイレインが?

やはり可能性は低いように思える。

ハイレインはヒュースの性質を理解しているからこそ、敵となると見做して玄界に置き去りにしたのだ。

利や合理性、あるいは人質などの縛りによって説得が可能と判断していたのなら、置き去りにすることなくその策を実行していただろう。その方がまだ一度置き去りにされた今の現状よりもよほどヒュースの心情的にマシなはずだ。

だが結果としてハイレインはヒュースを玄界に置き去りにする選択をした。これはハイレインからの決別の証である。俺とお前は相容れない存在であり、二人が再び同じ道を歩くことはないだろう、とハイレインは境界線を明確に引いたのだ。

2. 玄界からアフトクラトルに帰ってくることはできないと思ったから

玄界はアフトクラトルから遠く、周期が離れた場合は辿り着くにはいくつもの星を経由しなければならない。

ワールドトリガー 17 p.122 より
遠征艇の形がトリオン兵に似ているのは気のせいじゃないと思う

玄界に置き去りにされたヒュースが、先刻まで侵攻した国の兵士であり、敵同士だった国の中でなんとか艇を入手してアフトクラトルに辿り着くのは至難の業である。

ヒュースが再びアフトクラトルに辿り着くことが不可能であれば、ハイレインの目的の障害にはならない。
ならば、殺す必要はないだろう、ということだ。

ハイレインは目的のためなら容赦無く見捨てる冷徹さを持っている、と述べた。それはその通りだと思っている。だが積極的に人を殺すタイプのキャラクターではないことも確かなのだ。

ガロプラ侵攻時、ちびっこ兵だったレギーを殺さずに放置したことからもそれは窺える。

ワールドトリガー 16 p.31 より

少なくともハイレインは相手を一方的に嬲ることに快楽を得ているタイプの侵略者ではない。避けれるものならば避けたいはずだ。

この辺はこちらにて細かく語っているので機会があれば読んでくれると嬉しい。

ただ目的のため、やらざるを得ない時には容赦がないのである。

戻ってくるのなら容赦はしないが、アフトクラトルに帰ってくることなく玄界でそのまま一生を過ごして終わるのなら殺すまででもないだろう、ということだ。

だからこそ、ハイレインはガロプラにヒュースをいざとなったら始末していい、と通達しているのだろう。再びアフトクラトルに帰ってこようものなら、その時は明確にハイレインの目的の邪魔になるからだ。

ワールドトリガー 16 p.38 より
ガロプラの遠征艇で帰る=始末も厭わない状態なのだろう

ヒュースはハイレインにとって目的の邪魔となるか、それともあえて殺すほどでもないのか、その境目にいる存在なのだろう。そして明確に戻ってくるときはその境界線を跨ぎ、殺さなくてはならない対象に変わるのだ。

ヒュースが寝返って玄界側へつく心配はしていないだろう。ヒュースの忠誠心はエネドラもよく知っているほどに強固だ。当然ハイレインもそれを心得ているだろう。だからこその置き去り処置である。

裏返せば、ハイレインはヒュースのエリン家への忠誠を信頼しているとも言えるだろう。

付け加えるなら、まさか玄界がそんな祖国への忠誠心が高い捕虜にそんな自由を与えるとは思っていないだろう。ついさっきまで侵攻し雛鳥をさらった敵国の捕虜に。
何が起こるか分かったものではない。リスクが大きすぎる。

実際、玉狛支部のヒュースの扱いが異常なのだ。

ワールドトリガー 17 p.98 より
いや自由すぎん?

だがこの記事のこの説は矛盾している。

何故なら、普通に考えればハイレインはヒュースを殺せばよかったのだ。残酷な言い方になるが、これが最も後顧の憂を断つに適切な処理である。

出典: この記事

なぜわざわざヒュースを玄界に置いてくるという回りくどいやり方をとるのか?

改めて掘り返すが、これが疑問になってくる。

ヒュースがハイレインに敵対すること、すなわち軍において部下が上司に反抗することは最大級の罪である。しかもアフトクラトルは近界最大級の軍事国家である。軍律には非常に厳しいだろう。

殺さずにすむならその方が良い、それはそうだろう。
だが反抗の可能性がある部下を生かしておく理由には到底なり得ない。そんなリスクを慎重派であるハイレインが残しておくだろうか? しかし、ハイレインが実際に取った処分は玄界への置き去りである。しかも、元々そのつもりであった可能性が高いのだ。

ハイレインはもとよりヒュースを殺すつもりなどなく、「生かして」玄界に置いていく予定だったのではないか?

大規模侵攻編のクライマックスでは既に修&レプリカ先生によって遠征艇に強制帰還命令が出されており、残された時間はごく僅かに迫られていた。その限られた時間内にヒュースを処分する時間タイミングがなかったため、そのまま玄界に置き去りにしたのではないか、そう思われる方もいるのではないだろうか?

だがおそらくそうではない。ハイレインは元々ヒュースを始末するつもりがなかったのだ。

いくつか根拠があるが、一番顕著なコマを貼るので見てほしい。LINEスタンプにもなったこのコマを。

ハイレインの二枚舌炸裂コマ。
LINEスタンプ欲しい…

「ヒュースおいてくかも これヒミツな」
「エネドラしまつするかも ヒミツなこれ」

ワールドトリガー 14 p.92 より

エネドラは「しまつする」に対して、ヒュースは「おいてく」と明確に違う言葉が使われている。

そして実際、大規模侵攻編ではその通りになった。エネドラは味方であるはずのミラの手によって殺され、ヒュースは生かして玄界に置き去りにされる結果となった。

角の副作用という実験の被害者であるエネドラが始末され、逆に謀反の芽のあるヒュースが生かされるのはとられる処置の重さとしては本来逆のように思える。

ハイレインの地位や立場を考えれば、ヒュースに対する適切な処置は他にいくらでも取れるだろう。

例えば一つの手としてヒュースをアフトクラトルに反抗の目のある国に外回り等で派遣させた先で密かに始末させる方法が考えられる。

ヒュースの始末もでき、かつ罪を目的の国に着せることで、その国へより強く圧力をかけたり、侵攻して滅ぼす口実を得ることができる。一石二鳥だ。

「我が国アフトクラトルの誇り高き勇士ヒュースが卑しきXX国の毒牙によって害された!」とでもなんでも言いがかりをつけてしまえばいい。

それをわざわざ少数精鋭しか連れて行けず、莫大なコストのかかる遠征に連れて行き、何が起こるか分からない遠征先の任務にて利用したのちに置き去りにするのはリターンとコストが見合わないように思える。

敵対しそうな一人の部下のために、ハイレインがそのような回りくどいことをするだろうか?

さあ、ここでやっとこの話ができる。何故もっと早くこの話に入らないのか、焦ったく感じてしまっただろうが、外堀から埋めて行かねば気が済まない性分なので許してほしい。

ハイレインがわざわざヒュースを玄界に連れてきて生かしたまま置き去りにするのは、ヒュースが敵対することへの脅威からではなく、ヒュースが次代の神にしようとしているエリン家当主が家族同然に大切にしている家の子である可能性が高い、ということだ。前者は理由になり得る可能性が低い。重要なのはおそらく後者だ。

繰り返しになってしまうが、軍事大国において敵対する可能性のある部下を処分することなど当然のことであり、わざわざ生かして玄界に置き去りにすることは異例の処置と思われる。エリン家とヒュースの関わり、これが重要になってくる。

エリン家で拾われ、大切に育てられたヒュース

さて、エリン家とヒュースについて掘り下げていこう。

ヒュースは主君であるエリン家への絶対的な忠誠心を持つキャラクターだ。エネドラに犬っころと呼ばれてしまうほどまでの。これがヒュースというキャラクターを形作る上での核のひとつ、と言っていい。

ワールドトリガー 12 p.160
安心と信頼の情報源

ヒュースの忠誠心は、エリン家によって家族同然のように大切に育てられてきたことによるものであることは読者の想像に難くない。

トリオン量の多い有望なアフトクラトルの庶民の子は、貴族の家に買われてトリガー角を取り付けられ、将来の兵隊候補として育て上げられる。

ヒュースもその中の一人で、エリン家に引き取られたのだ。

ワールドトリガー 14 p.90

少し話は脱線するが、トリオン量に恵まれた子に「買ってツノ付けて将来の兵隊候補として育てる」行為を、お人好しで有名なエリン家が主体的に行っているとは考えづらい。お人好しで有名とまで言われる者たちが、トリガー角を頭部に取り付けるという人体改造をよしとするとは到底思えないのだ。

そのため、この政策はベルティストン領全体、あるいはアフトクラトルという国全体が制度として行っているものであるか、またはヒュースが他の厄介そうな貴族の家に連れていかれるところをエリン家が助けてそのまま引き取った等の穏やかなひとつのドラマがあるのかもしれない。もし明かされる時が来るのであれば楽しみだ。

いずれにせよ、エリン家に引き取られなかった場合のヒュースの環境は相当に劣悪だったのだろう。

ともあれ、そうしてヒュースはエリン家に多大な恩を賜った。
元々のまじめな性質もあっただろう、主君に背くくらいであれば死を選ぶ程までに。

ヒュースの忠誠はどこまでもエリン家に対して捧げられている。

そんなヒュースはエリン家の一員として大切に育てられ、ヴィザ翁の下で剣を習い、兵士として勤めることとなる。ヴィザ翁が剣の師匠はいいよね。機会があればいつかここの妄想も広げたい。

もしかしたらエリン家はヒュースを危険な目に合わせることをよしとせず、兵士として軍に奉公させるつもりはなかったかもしれない。例えそうだったとしても、ヒュースはエリン家への恩に報いるために自ら志願しただろう

兵士として大きな功を立てれば、仕える主家に大きく貢献できる。

大規模進行にて初登場した際のヒュースの振る舞いは、上司に決して異を唱えるようなことはせず、ひたすらに命令に忠実であろうとする、模範的な兵士そのものである。

ワールドトリガー 6 p.74
最新刊と比べるとヒュースの顔が全然違うので見比べてみると面白い

ヒュースにとってハイレインは主であるエリン家のさらに上の主家である。つまり主君の主君にあたる存在だ。二人の間には敵対するどころか、本来は疑念を抱くことすら恐れ多いレベルの立場の差がある。アフトクラトルは侵略国家だ。軍においての上下関係はことさらに厳しいだろう。

ヒュースの一挙手一投足がエリン家の評判に関わるのだ。仮に神の問題さえなければ、エリン家のために功を立てて軍に貢献できることをひたすらに考えるような、優秀で模範的な兵士のままであったはずだ。

だが、エリン家当主が神となるのならば話は別である。

ヒュースが直接恩を賜ったのはエリン家であって、ベルティストン家ではない。エリン家当主の主君であるからその命に従っているに過ぎない。恩人であるエリン家当主を犠牲にして栄えようとするベルティストン家、ひいてはハイレインをよしとはしないだろう。

ヒュースは庶民の生まれである。貴族の家同士の結びつきなどに対しての興味は薄いだろう。実際に自分の目で確かめ、直接恩を受けたエリン家の方が大切なのだ。

ヒュースのエリン家>>>ベルティストン家の図式はこのコマによく現れている。

ワールドトリガー 17 p.98 より

ヒュースは本国に戻ることが再生優先事項であり、「金の雛鳥はこの際どうでもいい」と言っている。

いや金の雛鳥は全然どうでもよくないのである。

慎重派のはずのハイレインが急遽予定を崩してまで求めたものである。全然どうでも良くない。もしもハイレインに対して忠誠心が僅かにでもあれば出てこない台詞である。

これは既に本来上官であり、絶対服従であるはずのハイレインの命令を放棄するほどにはヒュースの心はハイレインから離れているということになる。エリン家の主君であるベルティストン家当主ではなく、エリン家当主の身に危険を及ぼす存在として認知している。

ヒュースはたとえ本国に戻れたとしても、ハイレインに再び仕える可能性は薄いだろう。少なくとも、心からの忠誠を捧げることはないだろう。

目の前の物事に対してひたすら誠実であろうとするヒュース

ヒュースは、徹底して目の前の物事に対して誠実なキャラクターとして描かれている。

エリン家への忠誠心は確かなヒュースの軸の一つだ。エリン家へ戻り自分の目で事実を確認することが第一優先。その軸はブレることはない。しかし、その目的に至るための手段、過程を疎かにはできないキャラクターである。目的のために手段を選ばないような、形振り構わないタイプのキャラクターではないのだ。

だからヒュースは自分を捕らえた玄界人に対して嘘をついたり、自分を偽ったりなどをして油断させる等、下手に出ることはしない。脱出のために有利となるよう相手の心理を巧みに突いたり、誘導したりすることもない。もともとそんな厭わしい行為は不得手そうというのもあるが……。

ヒュースは、玄界人に対してだろうと、誠実な相手には誠実に返す。

ワールドトリガー 17 p.147
ワールドトリガー 21 p.17 より

もちろん、これはヒュース自身がアフトクラトルに帰国したいという動機があるからこそだろう。だがこれらのやり取りにはヒュースの誠意も間違いなく含まれている。

もしかするとそれもエリン家の育成方針であったのかもしれない。
「誠実な人になるんだよ」、と愛情を注がれて育てられたのかもしれない。

あるいは、庶民として幼少期を過ごしたヒュースの現実的な視点から刻み込まれた生き方なのかもしれない。自分の目で確かめ信じたものに従うこと。エリン家への忠誠心も、ヒュース自身が自分の目で確かめ、家族同然のように愛を受け実感を得たからこそ育まれたものだろう。

大規模侵攻編を読んでいる段階では、ヒュースはいかにもまじめで融通の効かない忠義一筋な騎士キャラだと思っていた。だがそうではない。ヒュースは主君への忠誠心に満ち溢れているが、忠義一筋の盲目的なキャラクターではない。エリン家当主に言われたことだとしても、それがどういう意味を持つのか、一度自分の中で噛み砕くことのできるキャラクターではないかと思えるのだ。

そこでまた一つ疑問が生まれる。

本当にヒュースは敵になっていたのか?

いやいやいや、何を今更言っているのだ、と思うだろう。

こういう展開を予想している人も多いのではないだろうか。

アフトクラトルに到着した際には、ボーダーはヒュースと連携して生贄にされようとするエリン家をベルティストン家から独立し敵対させ、攫われた隊員を奪還する。そして再びハイレインたちとの戦いが、今度はヒュースを仲間に加えて始まる……と。

先のことはどうなるか分からない。だからそうなる可能性は決してないとは言い切れない。

だが、このままではキャラクター造形に矛盾が出てしまう。

それはエリン家はお人好しで有名である、ということだ。

ワールドトリガー 14 p.92 より
安心と信頼の情報源、エネドラッド

エリン家+ボーダー連合VSベルティストン家と言う展開になったとして、それが最も都合のいいのはボーダーである決してエリン家ではない。

何故なら、エリン家の独立&反乱はすなわちアフトクラトルの国内の内乱だ。身内同士の争いはいつ何時も最も国が疲弊し乱れる要因である。領の治安は悪化し、民は疲弊し傷つき倒れていくだろう。そんな展開をお人好しのエリン家が本当に望むだろうか?

エリン家当主を生贄にしないために国外へ逃す等は考えられる。それも一応反抗ではある。だが、エリン家当主が果たしてそれを望むだろうか?

エリン家当主は自らが神になることを受け入れているのではないか?

お人好しな人が、自分が神に捧げられることが嫌で主君に反旗を翻すだろうか? 自分が神にならなければ主君、ひいては主君の領地である配下の全ての家の立場が危うくなり、領民に危険が及ぶ可能性が高いにも関わらず。

反乱ほど自領の治安の悪化する行為もない。領民を危険に晒す行為に他ならない。ハイレインが自領で徴税しまくって私腹を肥やしまくるような悪代官ムーブをしているであればその限りではないが、言うまでもなくそれはまずあり得ないだろう。

侵略国家であるアフトクラトルの本国において、力なき領主とその配下の者が辿る末路が悲惨なことなど容易に予想がつく。弱者は奪われるだけだ。他に道はない。

エリン家もまたハイレインの治めるベルティストン領の一配下なのだ。自分達の土地に住む民が悲惨な目に遭う、そんな事態を引き起こすと目に見えて分かっている状況で、お人好しで有名であるエリン家当主が、自分の命惜しさに神になることを拒むだろうか?

むしろ「私は大丈夫、だから恨まないでね」「争いはダメだよ」と主君が神になることを拒むヒュースを本人が諭すことすら有り得る。そう説得されたら、ヒュースはどうするのか? 事態を飲み込み、納得することはおそらくできないだろう。だが表立って敵対するのだろうか? 自分の祖国を戦場にするだろうか? 

ヒュースは説得に応じないのだろう。「それでもオレはあなたが犠牲になるのは嫌です」と言うのかもしれない。だがヒュースにできることは、どうにかしてエリン家当主が犠牲とならないように奮闘したり、無理矢理国外へ連れ出そうとするくらいのものではないだろうか。

いやいや、「我々の敵になる」って言ってるじゃん、と思うかもしれない。

ワールドトリガー 10 p.43 より

大丈夫? 「ヒミツなこれ」で二枚舌してくるハイレインの言葉だよ? 本当に信頼できる?

自分の方針に従わなくなりそうだからという意味で「敵」と言っているのかもしれないし、ヒュースを玄界に置き去りにするという目的がまずあって、周りにそれを説明するために「敵になるから」と言っているだけに過ぎない可能性すらある。

どこまでもキーポイントになってくるのが、ハイレインはヒュースを玄界に置いてくるのがそもそもの目的になっていそう、ということだ。

さて、もういい加減私の考える結論に入ろう。

3. エリン家当主の頼みだったから

エリン家当主は、ヒュースを争いに関係のない遠いところへ逃すようにハイレインに依頼したのではないだろうか?

あるいは、「自分が神となる代わりに、ヒュースを殺さず遠いところへ逃してほしい」とハイレインと約束を交わしているのかもしれない。

ハイレインもそれに同意し、約束を遂行して玄界に置き去りにしたのではないだろうか。

もっといえばこの取引をハイレイン側から持ちかけている可能性すらある。

ハイレインとしても、ヒュースを処分すればヒュースを家族のように大切に育ててきたエリン家当主が悲しむことくらいは容易に想像できるはずだ。大切な神となるべきエリン家当主を憔悴させることはあまりよろしくはない。精神のダメージは肉体に及ぶ。これが原因で万が一病に臥してしまったら大変だ。

エリン家当主が自ら神となることを抵抗なく受け入れてくれるのであれば、それらのリスクが回避できる。多少強引にでもヒュースを玄界に置き去りにする価値が十分にあるというものだ。

ハイレインとエリン家当主の関係を考えてみよう。

ハイレインは四大領主の一角、ベルティストン家当主その人である。エリン家はベルティストン家直属。二人の関係性は丁度主君と配下にあたる。当然ながらエリン家当主とベルティストン家当主であるハイレインとの関わりは深いものだろう。

自領の結束を堅固にするためにも、ハイレインにとってもエリン家当主との関わりはとても重要なものだ。決して疎かにしてはいけないだろう。何なら二人が個人的に親しい間柄であったとしても不思議ではない。

エリン家当主にとっても同様である。ヒュースは大切な家族であるし、ハイレインは大切な主君である。どちらもとても大切な存在だ。

自分が神となることで主君が助かり、自領が危険に脅かされることなく豊かになる可能性があるというのなら納得して身を捧げよう、と決心するかもしれない。だがそこで気掛かりになるのがヒュースのことだ。

ヒュースの性質を自分に向ける忠誠をエリン家当主は誰よりも熟知しているだろう。だからこそ、どう説得してもヒュースに自分が神になることを納得させることができないと思ったとしたら。

例え敵対するまでとはいかないとしても、ヒュースの立場はどうしても苦しくなるだろう。ハイレインにとってヒュースは重要な人物ではない。非常に優秀な駒であるが、それまでだ。ハイレインの計画を揺るがすほどの力はない。上官であるハイレインにとって、自分の方針に従わない部下などいかに能力が高かろうと無用の長物である。たちまちベルティストン領におけるヒュースの立場は危ういものとなるだろう。

しかも、ただでさえ次代の神問題によって国内はゴタつくと予想されているのだ。

ワールドトリガー 14 p.57 より

エネドラがこう言うのだから、それはもう相当ゴタゴタするのだろう。

他国の領主が、そんな領内で騒つくヒュースに目をつけたとしたら。知らずして面倒な争いに巻き込まれる可能性がある。

だからいっそどこか遠い土地へヒュースを逃した方が良いと、そうエリン家当主は判断したのではないだろうか。例え真実を知らされず置き去りにされたヒュースが悲しむとしても。このまま国内に留まり陰謀の渦中に巻き込まれるよりは、「ヒュースがどこか遠い土地で生き延びて暮らしていく」可能性がある方が、よほど希望のある未来に違いない。

近界最大級の軍事国家であるアフトクラトルの影響は近界内では非常に大きいと推測できる。

ワールドトリガー 17 p.127 より

ヒュースのこの発言からも、アフトクラトルはかなりの国を把握しているだろうことが分かる。また近界の他の国々もとしてアフトクラトルの存在は強く認知しているに違いない。他国からしたらなんかすぐ攻めてくる高圧的な角付き黒マントのマジヤバ軍団だ。こんなインパクトのある国はそうそうない。

一方で玄界は近界からしてみれば変わった土地だ。トリオン文明も発展途上で最も縁がなく、トリオンという人的資源を争うこともなく、トリオン以外のエネルギーで夜も明るく光り輝く大地。

その中でアフトクラトルと最も縁が遠い玄界は、ヒュースを置いていくには最適の環境だったのだ。エネドラを見殺しにするのも、ヒュースを置き去りにするのも玄界という場所でなければならなかったのだ。

ワールドトリガー一巻、物語が始まる前から行っていたハイレインの入念な偵察は、勿論効率的に侵攻を進めるためのものだっただろうが、ヒュースを置き去りにするのに適切な場所であるかどうか同時に見定めるためのものでもあった可能性すらある。

ワールドトリガー 8 p.99 より

「今日ここですべてを片付けよう」、このすべてというのは一体どこからどこまでを指しているのだろうか。何が含まれるのか。この全貌を知るときは果たしてくるのかどうか分からないが、その中にはおそらくこのヒュースの件も重要な因子として含まれているだろう。

余談になるがハイレインはエネドラの死体を置き去りにするのもまた玄界が一番適切と判断したのではないかと考えているが、これはまた別の機会で語りたい。

お人好しなエリン家にとっては、軍事大国であり、侵略国家でもあるアフトクラトルでの暮らしは息苦しいものがあるだろう。ヒュースが戦に赴くこともよしとはしていない可能性が高い。それよりも自由な外の世界へヒュースを連れ出してあげてほしい、そういうエリン家当主の願いも込められているかもしれない。

大規模侵攻時のメンバーにヒュースが加えられていたのも、勿論本人の高い実力もあるがこの目的のためという理由もあるだろう。

ハイレイン隊のメンバーはヒュース以外は全員ガロプラ侵攻時にも参加している。ヒュースはあのメンバーの中での新人、まだ慣れぬ浮いた存在であっただろう。ハイレイン隊に参加するまでは外回りの仕事を淡々とこなしていたはずだ。

さて、またここで一つ疑問が湧くことと思う。

ガロプラに「いざとなったら始末していい」と指令を出したのは何故なのか? 

ハイレインがエリン家当主との約束を遂行するために、ヒュースをいらぬ争いに巻き込まないために玄界に置き去りにしたとしたら、約束が違うのではないか、と。

二度目なので引用略

この場合、ハイレインにとってはすでにエリン家当主との約束は履行済みであり、約束の範囲外であるということで説明がつく。帰国し自分達に敵対する可能性があるのなら容赦はしない。

ヒュースはエリン家にとっては大切な家族の一員ではあるが、ハイレインにとっては兵士の一人でしかない。逸材であり、非常に優秀な駒はあるが、それまでだ。自分の計画を揺るがすほどではない。

約束は果たされており、ヒュースには生存のチャンスを与えた。だがそこから先は関係ないということだろう。

アフトクラトルから離れた先でヒュースが倒れても、エリン家当主にそれを知る手段はない。「ヒュースは玄界に殺さず置いてきた。その先は分からない」としらを切り通すことができるだろう。

あるいは、ハイレインはそこまでエリン家当主と織り込み済みなのかもしれない。「ヒュースをアフトクラトル国外へ置き去りにする。俺が保証できるのはそこまでだ。だが、後々に我々の障害となった際は保証できない」と。それでも、ヒュースが国内に留まった際に起きうる事態よりは遥かにマシと言えるかもしれない。少なくとも醜い争いに巻き込まれずにすむのだから。

まとめ

個人的には3>2>>1くらいの可能性として考えてます。

とはいえあくまでも現段階の考察なので、情報が全然足りません。

私が一番可能性が低いと思っていたパターンも全然あり得るし、まだ明かされていない情報や、私が全然気づいていなかった情報を起因とする全く違うパターンである可能性の方がもっと高いと思います。

ともあれそれが明かされるであろうアフトクラトル編、楽しみですね。



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