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第40講Every Little Thing「Time goes by」考察〜歌い手の変化で徐々に進化している曲〜

僕がEvery Little Thingの曲初めて聞いたのは小学生のとき。
父親が好きだったことがきっかけでした。
最近になってとあるきっかけでELTの曲を再び聞くようになって、改めて面白いアーティストだなと思うようになりました。
僕が1番好きな曲はTime goes byです。
そんなメジャーな曲を...と言われるのを承知で、やっぱりこの曲が僕にとっては1番です。
この曲はかつてのメンバーであった五十嵐充さんが作詞作曲さた曲なのですが、その作り方がとても面白いんですよね。
五十嵐さんは徹底的に理屈で歌を組み上げる人。
女心を書くために、ひたすら女性の読む雑誌を読み漁っていたそうです。
「Time goes by」という曲の歌詞をみると、そんなエピソードを裏付けているように思います。

普遍性を冒頭で示すという特殊な作りの歌詞


<きっと きっと 誰もが 何か足りないものを 無理に期待しすぎて 人を傷つける>
Time goes byのAメロはこう始まります。
僕がこの曲が面白いと思ったのは、冒頭でいきなり普遍的な価値観を提示するこのフレーズです。
もちろん、一人称で自分の気持ちを歌った曲であればその限りではありませんが、普遍的なテーマを扱う歌の場合、大抵は「具体的→普遍的」という展開になっています。
例えば、恐らく誰もが耳にしたことがあるであろう美空ひばりさんの「川の流れのようにをみてみると、<知らず知らず歩いてきた 細く長いこの道 振り返れば〜>というように、自分の人生を回顧する形で始まります。
そして、Bメロの段階で<〜 地図さえない それもまた人生>と、ここで普遍的なテーマが登場します。
これは偶然というわけでなく、作詞家の秋元康さんが意図的に行ったもの。
実際に、秋元さんはAKB48グループの特典映像の中で高橋みなみさんに作詞の方法を教える際に具体→普遍という展開を教えていたことからも、意図的にこの構造をとっているとみるのが適当でしょう。
他にも、SMAPの「世界にひとつだけの花」やサザンオールスターズの「TSUMAMI」にも同じ構造が見出せます。
「世界にひとつだけの花」のAメロでは、花屋に色とりどりの花が並んでいることを主人公が「どれもきれい」と感じるところから始まります。
それがBメロに入ると、花は色とりどり、様々なものが互いに並んでいるのに人間は比べてばかりという話が展開される。
「花を見たときの感想」から「人間の性質に対する問題提起」へと進みます。

TSUMAMIも同じ。
Aメロでは<風に戸惑う弱気な僕>と、僕の気持ちが語られます。
それがBメロになると転調して<人は誰も愛求めて闇に彷徨う定め>と、人の抱える問題へと拡大する。
普遍的なテーマを扱った曲のうち、ヒットしているもののほとんどが、このように「具体→普遍」という構造になっているのです。

そんな中で真逆の展開になっているのが、Every Little Thingの「Time goes by」です。
この曲は、<きっと きっと 誰もが 何か足りないものを 無理に期待しすぎて 人を傷つける>という「普遍的」なテーマのあとに、自分のエピソードのような<会えばケンカしたね 長く居すぎたのかな>と続きます。
ここからはずっと自分の振る舞いの回顧と反省。
この展開が非常に特徴的だなと思うのです。

Time goes byに込められた意味


この曲の感想を調べてみると、実に様々な見方があることが分かります。
多いのが、復縁したくて距離をあけるカップルという解釈。
もちろんそれでも今は通じますが、僕はこの曲を、「別れを切り出した女性が、未だに彼のことを忘れられない曲」だと思っています。
主人公の女性は「会えばケンカしていた」「意地を張った」「キスや抱き合うだけでよかった」「言い訳ばかり」「いつもあなたを求めていた」と、自己反ばかりしています。
これらは全て冒頭の<何か足りないものを 無理に期待しすぎて 人を傷つける>の具体例。
そんな自分を振り返りつつ、サビでそれぞれ<いつかありのままに愛せるように><「アリガトウ」が言える時がくるまで>と言って、Time goes by(時間が早く流れて欲しい)と続く。
僕はこれが、自分が悪かったと自己反省する女性の気持ちを歌った曲であるように見えました。
しかも、反省している一方で、「時間が過ぎて」といっていることから、まだ言葉では反省しているけれど、自分の気持ちに整理がつけきれていないということが分かります。
だからこその「Time goes by」なのだと思います。

持田さんの声とTime goes byという歌詞のシンクロニシティ


ちょうどスイミーという曲が発表される時に、持田さんはライブで喉を潰したしまっています。
それによって声質が大きく変わってしまい(最近は戻りつつあるようですが)、その変化をネガティブに捉える人も少なくありません。
実際に高音の伸びはかつてほどではなくなってしまいました。
ただ、個人的に、僕は昔の持田さんの声以上に、今の声の方が好きだったりします。
特にTime goes byに関してはそう。
僕はアーティストは歌に自分の人生を乗せるからこそ人々に共感を生じさせることができると思っているのですが、それでいくと声が出なくなってしまって以降の持田さんが歌うTime goes byには、声が出なくなった悔しさみたいな感情が乗っかっているように聞こえるのです。
喉が潰れて辛いこともあったし、まだ実際に乗り切れたわけではないけれど、いつかそれも受け入れられるような日が来るように。
喉が潰れたことで、こんな心境が無意識に歌に現れているような気がするのです。
声が出なくなってからの方が、圧倒的にそういった切なさが伝わってきます。


緻密な計算で構築された歌に、歌い手の人生がライドしている。
だからこそ、Time goes byは年季を重ねるほどに映える曲なようにおもいます。

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