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学生講師の課題に対する指示出しの方法論

個別指導などをしているとなかなかうまくいかなくて悩みの種になるものの一つに宿題の指示があります。
指示通りにやってこない、やったのに忘れる、そもそもやってこないetc
で、自分なりに必死に課題指示を出しているのにそれが通らず思うように成果が上がらず悩んだり個別責任者の社員さんから宿題をやらせてよと言われたり...
宿題をやってくれないというのはコストになる上に授業の計画が崩れるので(特に複数人個別の場合だと)単なる課題漏れ以上の実害になります。(なにより「自分の指示を聞いてくれない」というのがメンタルに来ますし、指示を破ってもいいという認識が生徒に定着すると授業の規律の乱れからグリップ力が弱くなる可能性があります。
僕が個別指導を監督するときは、宿題管理は学生さんの業務から切り離してこちらで設定、追跡、フォローまでやるようなシステムにするのですが、とはいえそう言うシステム面の変更を学生講師の側から提案するわけにも行きません。
そこで今回は、僕が実際の授業で行っている宿題の補足率を上げるための方法論をまとめていきたいと思います。


指示出しとは何かを再定義する

宿題の実施率を高める方法のお話の前に、もう一歩手前にある指示出しの仕方について触れておきたいと思います。
一般に「指示出し」というと、「○○しといて」くらいのものです。
もちろん友達同士、大人同士であればこの程度でいいのですが、それが仕事である場合、加えて対象が子供である場合、指示出しをもう少し厳密な定義にしておかなければなりません。
僕は自分の管轄の組織に関しては、指示出しを次のような定義で統一しています。

①「任せた」という言葉を使わず履行されなかった場合の責任の所在を明言する
②出した指示は必ず文字化する
③聞いてない、覚えななかった、解釈違いと言われないように関係者全員が確認できる所にエビデンスを残す
④対象者全員が確認したか念を押し、確認したと言う証拠を残す

ここまでの作業を「指示出し」の水準として意識しておく事で、生徒に対しても組織に対しても指示の抜け漏れはかなり防げます。

これを宿題に適応するなら、該当生徒さんが宿題をやっていなかった場合の追跡者は社員の○○さんであると言うコンセンサスを作っておき、生徒に宿題が間に合わない場合はその先生に伝えるように言っておく(これも文字で明記)。
宿題は文字で指示して、忘れた場合、間に合わなかった場合の対処も事前に文字にして書いておき、確認したと生徒にサインをさせ、控えを教室の情報共有できる場所に置き、担当者全員に共有(ここも責任者にサインをもらう)しておくみたいな形です。

こんな感じにしておくと、とりあえず指導時間内の「宿題忘れ」に対するイレギュラーの対応は軽減することができます。
大切なのは生徒、社員双方に言質をとっておくこと。
基本的に決裁権がない状態で責任を背負わされた状況があると、問題は解決されません。
で、解決しない問題なのに対応しようとするから工数が増え、精神的にもしんどくなってしまい、グダグダさが生徒にも伝わって「頼りない」という空気になってしまうわけです。
反対に決裁権が明確になっていると課題が即時に解決され、スマートに捌く印象が生徒にも共有されます。
そういった副次的な効果もあるので、指示出しの質を高めるということを先にまとめさせてもらいました。

課題実施率を高める5つのアプローチ

宿題をやってこない生徒をみると、真っ先に①やる気がないという部分に理由を見出しがちですが、実はそれ以外にも②物理的に時間確保ができない、③問題難易度が合っていなくて解けないという場合も少なくありません。
②や③でつまずいている子は、学校等で①の方向から注意されていることも少なくないので、こういったタイプの子に関してはその方向でしっかり配慮してあげるだけでも、信頼構築につながったりします。

これらを踏まえて、僕は宿題をやらせるための指標として、次の5点を設定しています。

分量 / システム / 難易度 / 圧力 / 信頼関係

これら5つの指標を操作しつつ、生徒の宿題達成を目指すのが宿題を課す際の基本的なスタンスというのが僕の持論。
以下でこの5要素を説明していきたいと思います。

①分量

分量に関してはa-1科目単位の分量、a-2塾全体としての分量、a-3その子の学校等の課題を含めた分量を考えてあげる必要があります。
仮にどれだけ必要だとしても、その子がこなしきれない量を課せばパンクしてしまうだけです。
特に個別で通ってくれる生徒さんであれば、もしかしたら学校やそれまでの塾で「膨大な課題を科される→こなしきれない→やらないあなたのせい」と怒られて自信を無くしている可能性があります。
こういう事態にならないために、その子にとって科目単位で適量なのか、塾として課す全体量の観点で適量なのか、生徒さんの持つタスク全般として適量なのかという3点で判断することが効果的です。

分量を考える際、こちらでb-1各課題にかかる目安時間、b-2一週間に指導科目にかけて欲しいと考える目安時間を用意しておくことも大切です。
ここでポイントとなるのは、この時間は「平均的な所要時間」と「指導生徒がかかるであろう所要時間」の2つを考えた上で、後者で課題設定をすること。
これを直接本人に毎回伝える必要はありませんが、生徒や保護者から宿題に対する問い合わせがあった時にこれがあると信頼獲得に役立ちます。

②システム

僕が意外と抜けがちだと思っているのがこのシステムという部分です。
勉強が苦手という子の中には、サボりがちという子以外に、指示を忘れがち(言った通りにならない)という子が少なくありません。
あるいは、宿題までにたどり着く手順が多い(記録した宿題を読んで、教材を準備して、指定の手順に従ってetc...)だと、それ自体が心理的な障壁になる生徒さんも。
もちろん指示を聞かない方が悪い、覚えていない方が悪いと言って仕舞えばそれまでですが、そこまでひと工夫で解決できるのなら、それすら付加価値になるわけです。

僕の場合、勉強が苦手な子に関しては宿題を始めるまでの工数が2工程以下になるように設計しています。
例えばある国語の指導では、課題全部を一つの冊子にまとめていて、日付も書いてあり、ページをめくればやる事が分かり、提出はそれを持ってくるだけという感じです。
取り掛かるまでの工程を徹底的に減らすことで、実は勉強というよりはそれ以前のところで躓いている子を捕捉することができます。

③難易度

特に教材指定の塾だったりすると、機械的に課しがちな課題ですが、そもそも難しすぎたり、一問当たりに時間がかかりすぎたりすると、それが課題からの離脱率につながりかねません。
予習型/復習型、反復型/応用型と宿題にも色々なパターンがありますが、あくまで授業内容を見れば確実に取り組めるというつながりが設計されていることが重要です。
一例として挙げるならば、授業では奇数番号の問題を扱って、宿題は偶数番号にするという課題の出し方が挙げられるでしょう。
大切なのは生徒自身が「授業でやった」あるいはきちんと説明を受けたと思いながら取り組める難易度になっていることです。
極端に空欄が多い場合は、ここがボトルネックになっている可能性もあるので確認が必要です。

④圧力

誤解のないようにあらかじめ断っておきますが、ここで書いた圧力とは決してパワハラ的な意味ではありません。
ここでの圧力とは、「この先生の宿題をサボっちゃだめだな」と生徒自身に感じさせるような空気感の事。
この空気感には「自信」と「緊張感」の2つがあります。
自信とはその先生から感じるカリスマ性や信頼感のようなもの。
これは指導内容はもちろんですが、普段から声を張っているとか、姿勢を正しているということなどでも演出できます。
もう一つの緊張感は先生の視線の細かさのようなもの。
これらは以前立ち振る舞いについて書いた中でお話したテーブルマナー理論にも関係する事なのですが、自信ありげで、細かな部分まで見ているような先生の授業では、どことなくサボってはいけないという空気感が生まれ、その先に宿題の実施率上昇があるわけです。

⑤信頼関係

生徒に宿題をやってもらう最大のモチベーションとなるのが、この信頼関係であるように思います。
たとえば、好きな人だったり尊敬する人からのお願いだったり、信頼している人からのアドバイスであったりすれば僕たち大人だって進んで聞きたくなりますよね。
それと同じで、同じ課題の指示であっても担当と生徒の間に信頼関係が構築されているか否かで課題への取り組み姿勢は変わります。
信頼と言っても様々で、たとえば以下のような感情はいずれも根っこには「信頼」の要素があります。

「あの先生に言われたのだからやってやるか」
「あの先生が言うんだから間違いない」
「わたしのためにこんなに考えてくれたんだ」
「あの先生を困らせたくない」
「あの先生に褒められたい。期待に応えたい。」

どれでも構いませんが、子どもたちのこういった感情にアプローチができると、課題の指示が一気に通りやすくなります。
具体的な信頼関係の積み上げ方は「信頼関係の構築の仕方」を書いたコチラの記事(https://note.com/toru1002/n/nf279782fb1f4)を読んでほしいのですが、授業の中で信頼関係の貯金をつくり、その積立によって宿題をやってもらうというようなイメージをもつとよいと思います。

以上が僕が意識的に行っている宿題の実施率を高めるための方法を学生さんでも取りいれることが可能な形に落とし込んだものです。
宿題を実施してもらえないと、それだけで精神的につらいものがあると思います。
そんな状況に陥っている方の役に立つことができたらさいわいです。

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