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Vol.3-#1 祖父は成りあがり

「俺はいいけどTANBOは何て言うかな」

これはティムソンの口癖だった。
ティモーニは今でもフとした瞬間、祖父ティムソンの口癖を思い出す。

電車に揺られているとき、仕事中にウトウトしているとき、道で段差につまずいたとき、、、祖父はふいに現れる。


ティモーニはティムソンにとって初めての孫だった。

「初孫にして男子誕生!でかしたぞ!」
大正生まれのティムソンは大いに喜び、5メートル超えのこいのぼりを天高くぶち上げた。

ーーこれからは親子3代で米づくりができるかもしれない。

生まれたてのティモーニ。
まだ首が座っていない。



戦前、ティムソンは裕福な家庭に生まれ育った。醤油屋を営む一家の末っ子として、なに不自由なく暮らしていた。

だがそんなティムソンの……彼だけではなく多くの人の人生を変えたもの。それは戦争。
満州に出兵させられ、しばらくして終戦した。やっと家族に会えると思い日本に帰ってきた時には、家も家族もなくなっていた。

全てを失ったティムソンだが、絶望している暇はない。止まらないHa~Haだ。

かつての知り合いに頼み込み、耕地を借り、小作人として米づくりを始めた。小作料を納めながら「俺はいつかこの田んぼを買い取って、BIGになるぜ!」と、熱い想いを胸に秘めていた。ロッケンロール。

米づくりを学び、田んぼの声を聞き、少しずつ軌道に乗せていった。
そうしてわずかな土地から始まったティムソンの田んぼは、合計すると2ヘクタールにまでになった。

「TANBOの声を聞けよ。」
「てめぇの食う米なんだから。てめぇで作れ。」
「やっちゃえ、農業。」

数々の名言を残したティムソンはやがて妻をめとり、息子が誕生した。

その息子が就職し、結婚し、程なくして生まれたのがティモーニだった。
幼い頃から米づくりが身近にあったティモーニ。それは自然と生活の一部になっていった。

人生をTANBOに捧げた祖父の背中を、父と一緒に見ていた。

祖父を見つめる父と子


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